大和俗訓 / 巻之三・心術上
是道心惟微なるなり。かくの如くに、酒食を好む心にまかせ、おそるゝ心かすかなれば、たちまち酒食を恣にすごし、おそるゝ心は無くなり、つひに人欲にかたず。然るに、人心のわがまゝなると、道心のつゝしみあるとの二を明かに知りて迷はざるは、惟精なり。すでに酒食の過ぎて損あり、節にして益あることをくはしく知れらば、專一につゝしみて、道心を主とし、人心のむさぼり好む欲をいましめおさへて、おのづから過不及のあやまり無からしむべし。すべて論ずるに、人心惟危、道心惟微は人心道心二の者の有さまなり。惟精惟一は、心をあきらめ、道心を主とする工夫なり。允執厥中は、中は過不及なき至極の道理なり。必惟精惟一の工夫ありて、過不及の過なき道理を失はざるべしとの意なり。是大聖人の、天下をゆづり給ふ時傳へ給へる大事の心法なれば、道理至極せるなるべし。此十六字は、萬世心學の敎の根源なり。王公より以下庶人にいたるまで、皆たつとんでよく心得、受用あるべき事なるべし。
新字:是道心惟微なるなり。かくの如くに、酒食を好む心にまかせ、おそるゝ心かすかなれば、たちまち酒食を恣にすごし、おそるゝ心は無くなり、つひに人欲にかたず。然るに、人心のわがまゝなると、道心のつゝしみあるとの二を明かに知りて迷はざるは、惟精なり。すでに酒食の過ぎて損あり、節にして益あることをくはしく知れらば、専一につゝしみて、道心を主とし、人心のむさぼり好む欲をいましめおさへて、おのづから過不及のあやまり無からしむべし。すべて論ずるに、人心惟危、道心惟微は人心道心二の者の有さまなり。惟精惟一は、心をあきらめ、道心を主とする工夫なり。允執厥中は、中は過不及なき至極の道理なり。必惟精惟一の工夫ありて、過不及の過なき道理を失はざるべしとの意なり。是大聖人の、天下をゆづり給ふ時伝へ給へる大事の心法なれば、道理至極せるなるべし。此十六字は、万世心学の教の根源なり。王公より以下庶人にいたるまで、皆たつとんでよく心得、受用あるべき事なるべし。
書き下し
是道心惟微なるなり。かくの如くに、酒食を好む心にまかせ、おそるる心かすかなれば、たちまち酒食を恣にすごし、おそるる心は無くなり、つひに人欲にかたず。然るに、人心のわがままなると、道心のつつしみあるとの二を明かに知りて迷はざるは、惟精なり。すでに酒食の過ぎて損あり、節にして益あることをくはしく知れらば、専一につつしみて、道心を主とし、人心のむさぼり好む欲をいましめおさへて、おのづから過不及のあやまり無からしむべし。すべて論ずるに、人心惟れ危く、道心惟れ微なるは人心道心二の者の有さまなり。惟れ精惟れ一は、心をあきらめ、道心を主とする工夫なり。允に厥の中を執るは、中は過不及なき至極の道理なり。必惟れ精惟れ一の工夫ありて、過不及の過なき道理を失はざるべしとの意なり。是大聖人の、天下をゆづり給ふ時伝へ給へる大事の心法なれば、道理至極せるなるべし。此十六字は、万世心学の教の根源なり。王公より以下庶人にいたるまで、皆たつとんでよく心得、受用あるべき事なるべし。
現代語訳
これが道心はかすかだということです。このように、酒食を好む心に任せ、恐れる心がかすかであれば、たちまち酒食をほしいままに過ごし、恐れる心はなくなって、ついに人欲に勝てなくなります。そこで、わがままな人心と、つつしみのある道心の二つを明らかに知って迷わないのが「精」です。すでに酒食は過ごせば損があり、節度を守れば益があることを詳しく知ったなら、ひたすらつつしんで道心を主とし、人心のむさぼり好む欲を戒め抑えて、自然と過不足の誤りがないようにすべきです。まとめていえば、「人心惟れ危く、道心惟れ微なり」は人心と道心の二つのありさまです。「惟れ精惟れ一」は、心を明らかにし、道心を主とする工夫です。「允に厥の中を執れ」の中とは、過不足のない最上の道理です。必ず精一の工夫があって、過不足の誤りのない道理を失わないようにせよという意味です。これは大聖人が天下をお譲りになるとき伝えられた大事な心の法ですから、道理の極みであるはずです。この十六字は、万世にわたる心の学びの教えの根源です。王公から庶民に至るまで、みな尊んでよく心得、身に受けて用いるべきことです。
解説
この章句が説くこと
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