大和俗訓 / 巻之二・為学下
一古語曰、人生至樂、無如讀書、至要無如敎子。又古人の詩曰、至哉天下樂、終日在几案。書をよむの樂至れるかな。富貴ならずして其樂大なり。酒色ならずして其樂ふかし。山林ならずして其樂しづかなり。古語に、書を讀むこと一卷なれば一卷の益あり。書を讀むこと一日なれば一日の益ありといへり。又人の神智をます事書を讀むにしくは無しといへり。富貴にして書を好む人は其樂ひろし。貧賤にして書をこのむ人は其樂ふかし。次に子ををしへて、我が志をつがしむべし。是肝要のことなり。子を敎へずして、道を知らしめざるは、父のあやまりなり。不仁といふべし。
新字:一古語曰、人生至楽、無如読書、至要無如教子。又古人の詩曰、至哉天下楽、終日在几案。書をよむの楽至れるかな。富貴ならずして其楽大なり。酒色ならずして其楽ふかし。山林ならずして其楽しづかなり。古語に、書を読むこと一巻なれば一巻の益あり。書を読むこと一日なれば一日の益ありといへり。又人の神智をます事書を読むにしくは無しといへり。富貴にして書を好む人は其楽ひろし。貧賤にして書をこのむ人は其楽ふかし。次に子ををしへて、我が志をつがしむべし。是肝要のことなり。子を教へずして、道を知らしめざるは、父のあやまりなり。不仁といふべし。
書き下し
一古語曰、人生至楽、無如読書、至要無如教子。又古人の詩曰、至哉天下楽、終日在几案。書をよむの楽至れるかな。富貴ならずして其楽大なり。酒色ならずして其楽ふかし。山林ならずして其楽しづかなり。古語に、書を読むこと一巻なれば一巻の益あり。書を読むこと一日なれば一日の益ありといへり。又人の神智をます事書を読むにしくは無しといへり。富貴にして書を好む人は其楽ひろし。貧賤にして書をこのむ人は其楽ふかし。次に子ををしへて、我が志をつがしむべし。是肝要のことなり。子を教へずして、道を知らしめざるは、父のあやまりなり。不仁といふべし。
現代語訳
古語に「人生の最高の楽しみは読書に及ぶものはなく、最も大切なことは子を教えることに及ぶものはない」とあります。また古人の詩に「天下の楽しみの極みよ、一日中机に向かっていること」とあります。書を読む楽しみは、なんと極まったものでしょうか。富貴でなくてもその楽しみは大きく、酒色でなくてもその楽しみは深く、山林に住まなくてもその楽しみは静かです。古語に「書を読むこと一巻なら一巻の益があり、書を読むこと一日なら一日の益がある」とあります。また「人の知恵を増すことは書を読むに及ぶものはない」とも言います。富貴で書を好む人はその楽しみが広く、貧しく身分の低い人で書を好む人はその楽しみが深いのです。次に子を教えて、自分の志を継がせるべきです。これが肝要なことです。子を教えずに道を知らせないのは、父の過ちです。不仁というべきです。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
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孟子・盡心章句上孟子曰く、「孔子東山に登りて魯を小とし、泰山に登りて天下を小とす。故に海を観る者には水と為し難く、聖人の門に游ぶ者には言と為し難し。水を観るに術有り、必ず其の瀾を観る。日月明有り、光を容るるところ必ず照らす。流水の物為るや、科に盈たざれば行かず。君子の道に志すや、章を成さざれば達せず。」
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孟子・盡心章句上公孫丑曰く、「伊尹曰く、『予、不順に狎れしめず。』太甲を桐に放ち、民大いに悅ぶ。太甲賢となる。又之を反し、民大いに悅ぶ。賢者の人臣為るや、其の君、賢ならざれば、則ち固より放つ可きか。」孟子曰く、「伊尹の志有れば、則ち可なり。伊尹の志無ければ、則ち篡うなり。」
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史記 伯夷列伝子曰く、「道同じからざれば相ひ為に謀らず」と。亦た各々其の志に従ふなり。故に曰く、「富貴もし求む可くんば、執鞭の士と雖も、吾も亦た之を為さん。如し求む可からずんば、吾が好む所に従はん」と。「歳寒くして、然る後に松柏の凋むに後るるを知る」。世を挙げて混濁して、清士乃ち見はる。豈に其の重んずること彼の若く、其の軽んずること此くの若くなるを以てせんや。
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論語・里仁篇子曰わく、いやしくも仁に志せば、悪しきこと無し。
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史記 刺客列伝高漸離名姓を変じて人の庸保と為り、宋子に匿れ作す。之を久しくして、作苦しく、其の家の堂上に客の筑を撃つを聞き、傍偟して去る能はず。毎に言を出だして曰く、「彼に善有り善ならざる有り」と。従者以て其の主に告げて曰く、「彼の庸は乃ち音を知り、竊かに是非を言ふ」と。家の丈人召して前に筑を撃たしむ。一坐善しと称し、酒を賜ふ。而して高漸離、久しく隠れて畏約すること窮まる時無きを念ひ、乃ち退きて、其の装匣の中の筑と其の善衣とを出だし、容貌を更めて前む。坐を挙げて客皆驚き、下りて与に抗礼し、以て上客と為す。筑を撃ちて歌はしむ。客流涕して去らざる者無し。宋子伝へて之を客とし、秦の始皇に聞こゆ。秦の始皇召し見る。人識る者有りて、乃ち曰く、「高漸離なり」と。秦の皇帝其の善く筑を撃つを惜しみ、重ねて之を赦し、乃ち其の目を矐す。筑を撃たしむるに、未だ嘗て善しと称せずんばあらず。稍く益々之に近づく。高漸離乃ち鉛を以て筑の中に置き、復た進みて近づくを得、筑を挙げて秦の皇帝を樸つ。中らず。是に於て遂に高漸離を誅し、身を終ふるまで復た諸侯の人に近づかず。魯句践已に荊軻の秦王を刺せしを聞き、私かに曰く、「嗟乎、惜しいかな其の刺剣の術を講ぜざりしや。甚だしいかな吾の人を知らざるや。曩者吾之を叱す。彼乃ち我を以て人に非ずと為せしならん」と。太史公曰く、世に荊軻を言ふに、其の太子丹の命を称して、「天粟を雨らし、馬角を生ず」とするや、太だ過ぎたり。又荊軻秦王を傷つくと言ふも、皆非なり。始め公孫季功・董生、夏無且と游び、具に其の事を知り、余の為に之を道ふこと是の如し。曹沫より荊軻に至るまで五人、此れ其の義或いは成り或いは成らず。然れども其の意を立つること較然として、其の志を欺かず、名後世に垂る。豈に妄ならんや。
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孟子・盡心章句下孟子曰く、「名を好むの人は、能く千乘の國を讓る。苟くも其の人に非ざれば、簞食豆羹も色に見わる。」
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