大和俗訓 / 巻之二・為学下
一孔子曰、幼成如天性、習慣如自然とは、幼少より習ひて成就したる事は、天性に生れつきたるが如くなり。又久しく習ひなれて染みぬる事は、善きも惡しきも、つとめずして自然によくするが如しとなり。善惡ともに、性に出でたるも、習より出づること多し。然れば習ひなるゝ事、善惡をえらび愼むべし。習ひて慣れぬる事は、生れつきたる自然の如し。學問をするも、善に習ひなるゝわざなり。人の惡をするも、必生れつきてするのみにはあらず、惡人に習ひてする事多し。故に孔子も、性は相近し、習へば相遠しとのたまへり。
新字:一孔子曰、幼成如天性、習慣如自然とは、幼少より習ひて成就したる事は、天性に生れつきたるが如くなり。又久しく習ひなれて染みぬる事は、善きも悪しきも、つとめずして自然によくするが如しとなり。善悪ともに、性に出でたるも、習より出づること多し。然れば習ひなるゝ事、善悪をえらび慎むべし。習ひて慣れぬる事は、生れつきたる自然の如し。学問をするも、善に習ひなるゝわざなり。人の悪をするも、必生れつきてするのみにはあらず、悪人に習ひてする事多し。故に孔子も、性は相近し、習へば相遠しとのたまへり。
書き下し
一孔子曰、幼成如天性、習慣如自然とは、幼少より習ひて成就したる事は、天性に生れつきたるが如くなり。又久しく習ひなれて染みぬる事は、善きも悪しきも、つとめずして自然によくするが如しとなり。善悪ともに、性に出でたるも、習より出づること多し。然れば習ひなるる事、善悪をえらび慎むべし。習ひて慣れぬる事は、生れつきたる自然の如し。学問をするも、善に習ひなるるわざなり。人の悪をするも、必生れつきてするのみにはあらず、悪人に習ひてする事多し。故に孔子も、性は相近し、習へば相遠しとのたまへり。
現代語訳
孔子が「幼いときに身についたことは天性のようであり、習慣は自然のようになる」と言われたのは、幼いころから習って身についたことは、生まれつきのようになるということです。また長く習い慣れて染みついたことは、良いことも悪いことも、努めなくても自然にできるようになるということです。善も悪も、生まれつきから出たものもありますが、習いから出ることが多いのです。ですから習い慣れることは、善悪を選んで慎むべきです。習って慣れたことは、生まれつきの自然のようになります。学問をするのも、善に習い慣れるわざです。人が悪をするのも、必ずしも生まれつきでするばかりではなく、悪人に習ってすることが多いのです。それゆえ孔子も「性は相近し、習えば相遠し」とおっしゃいました。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
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『慎思録』巻之一古語に曰く、幼成は天性の如く、習慣は自然の如しと。誠なるかな是の言や。人は只善に習へば則ち善人と為り、悪に習へば則ち悪人と為る。習ひの人を移すや大なり。故に孔子曰く、性相近し、習ひ相遠しと。凡そ学べば則ち須らく習ふべし。習へば則ち熟す。熟すれば則ち自然の如し。所謂習ひ性と成るなり。
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『和俗童子訓』巻之二・総論下一人の善悪は、多くはならひなるるによれり。善に習ひなるれば善人となり、悪に習ひなるれば悪人となる。然れば幼き時より、習ひなるる事を慎むべし。仮にも悪しき友に交れば、ならひて悪しき方に早く移り易し。恐るべし。
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『初学訓』巻之四一好むこと嫌ふことを、はやく択ぶべし。一たび悪しきことを好めば、相つづき心の癖となる。善きことも悪しきことも、好めば後は習ひとなりて、天性の如し。すでに、悪しきことに久しく染みぬれば、其ひがごとを知れども、止めがたし。はじめに択びて、はやく改むべし。古語に、差ふこと若し毫釐なれば、謬るに千里を以てすといへり。
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『慎思録』巻之五剛柔は性なり。変ずべからず。然れども善悪は習ふ所に因りて移る。剛悪の者は習ひて剛善と為り、柔悪の者は習ひて柔善と為る。苟も幼より早く諭教し、功を用ふること久しければ、則ち変ずべからざるの理無し。所謂習ひて性と成り、習慣は自然の如しといふものなり。美質有るの人と雖も、習ひて悪を為せば、則ち陥溺すること易し。此れ不善に習ひて性と成るなり。偏陋の質有りと雖も、善を為すに習へば則ち遷移すること難からず。此れ善に習ひて性と成るなり。
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『和俗童子訓』巻之二・総論下一小児は十歳より内にて、早く教へ戒むべし。性悪しくとも、能く教へ習はさば、必よく成るべし。いかに美質の人なりとも、悪しくもてなさば、必悪しきに移るべし。少年の人の悪しくなるは、教の道なきが故なり。習を悪しくするは、譬へば馬にくせを乗り附くるが如し。いかに曲馬にても、よき乗手の乗れば、よくなるものなり。また鶯のひなを飼ふに、初て鳴く時より、別によく囀る鶯を其傍に置きて、其音を聞きならはしむれば、必よく囀りて、後までかはらず。是初よりよき音を聞きて習へばなり。禽獣といへど、早く教へぬれば、善に移り易きこと此のごとし。況や人は万物の霊にて、本性は善なれば、幼き時より、能く教訓したらんに、勝れたる悪性の人ならずば、などか悪しくならん。人を教訓せずして悪しくなし、其性を損ずるは、惜むべき事ならずや。
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伝習録・黄以方録「夫子の『性、相い近し』と説くは、即ち孟子の『性は善なり』と説くなり。専ら気質の上に在りて説くべからず。若し気質を説かば、剛と柔と対するが如きは、如何ぞ相い近きを得んや。惟だ性の善なるは則ち同じきのみ。人生の初時の善は、原と是れ同じきなり。但だ剛の者、善に習えば則ち剛善と為り、悪に習えば則ち剛悪と為る。柔の者、善に習えば則ち柔善と為り、悪に習えば則ち柔悪と為る。便ち日に相い遠ざかれり」と。
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