大和俗訓 / 巻之一・為学上
故に其をしむべきこと、金玉にも過ぎたり。古語にも、聖人は尺璧を貴ばずして、寸陰を貴ぶといへり。隙ををしまざる人は、まなぶ事もつとむる事もなければ、必才智も德行も藝能もなきものなり。いとまををしまざれば、君子は身ををさめ、家をとゝのふる事あたはず。農工商は其家業を失ひて、貧窮飢寒をまぬかれず。學者は、必粗學にして不才なり。くすしは必賤工なり。よろづの道々のたくみも、いとまををしまざれば必つたなし。是いとまは人生の寶にして、をしむべき故なり。就中年少の時は事すくなく、いとま多し。精力つよ記憶つよく、一たび見きゝて覺えしこと、身を終ふるまでわすれず。此時つとめまなべば、其功多し。故に書をよむ事は、少年の氣力つよく、いとまある時、よくつとむれば、大にすゝみて益あり。
新字:故に其をしむべきこと、金玉にも過ぎたり。古語にも、聖人は尺璧を貴ばずして、寸陰を貴ぶといへり。隙ををしまざる人は、まなぶ事もつとむる事もなければ、必才智も徳行も芸能もなきものなり。いとまををしまざれば、君子は身ををさめ、家をとゝのふる事あたはず。農工商は其家業を失ひて、貧窮飢寒をまぬかれず。学者は、必粗学にして不才なり。くすしは必賤工なり。よろづの道々のたくみも、いとまををしまざれば必つたなし。是いとまは人生の宝にして、をしむべき故なり。就中年少の時は事すくなく、いとま多し。精力つよ記憶つよく、一たび見きゝて覚えしこと、身を終ふるまでわすれず。此時つとめまなべば、其功多し。故に書をよむ事は、少年の気力つよく、いとまある時、よくつとむれば、大にすゝみて益あり。
書き下し
故に其をしむべきこと、金玉にも過ぎたり。古語にも、聖人は尺璧を貴ばずして、寸陰を貴ぶといへり。隙ををしまざる人は、まなぶ事もつとむる事もなければ、必才智も徳行も芸能もなきものなり。いとまををしまざれば、君子は身ををさめ、家をととのふる事あたはず。農工商は其家業を失ひて、貧窮飢寒をまぬかれず。学者は、必粗学にして不才なり。くすしは必賤工なり。よろづの道々のたくみも、いとまををしまざれば必つたなし。是いとまは人生の宝にして、をしむべき故なり。就中年少の時は事すくなく、いとま多し。精力つよ記憶つよく、一たび見ききて覚えしこと、身を終ふるまでわすれず。此時つとめまなべば、其功多し。故に書をよむ事は、少年の気力つよく、いとまある時、よくつとむれば、大にすすみて益あり。
現代語訳
ですからその惜しむべきことは、金や玉にもまさります。古語にも「聖人は一尺の宝玉を貴ばずに、わずかな時間を貴ぶ」とあります。暇を惜しまない人は、学ぶことも務めることもないので、必ず才知も徳行も芸能もないものです。暇を惜しまなければ、君子は身を修め家を整えることができません。農工商はその家業を失って、貧窮や飢えと寒さを免れません。学者は必ず粗い学問で才がありません。医者は必ず下手な医者です。あらゆる道の職人も、暇を惜しまなければ必ず拙いのです。これが暇は人生の宝であって、惜しむべき理由です。とりわけ年少のときは用事が少なく、暇が多いのです。精力が強く記憶が強く、一度見聞きして覚えたことは生涯忘れません。このときに努めて学べば、その功は多いのです。ですから書を読むことは、少年の気力が強く暇のあるときによく努めれば、大いに進んで益があります。
解説
この章句が説くこと
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