導師導古典を学びたいすべての人に

大和俗訓 / 巻之一・為学上

古人も、常にしておかず、つねに行ひてやまざる者には及びがたしといへり。又いたづらに爲すことなく、常に隙多き人は、人にすぐるゝ事はなきものなりといへり。たとへば農人商人の、つとめていとまををしみ、朝夕田を作り、あきなふ者は、必人にすぐれて、其家富みて、衣食ともしからず。古人も人生はつとめにあり。つとむれば則まどしからずといへり。國家の政をくはしくつとむれば、其國家必治まる。學問をくはしくつとむれば、必諸人にすぐれて、其才すゝむ。萬の事皆しかり。隙ををしみて久しくつとむれば、成就せざることなし。それ人の寶は、いとまに過ぎたるはなし。いかんとなれば、君子の學問をつとめ、國家の政を行ひ、父母主君に仕へ、諸藝をまなび、農の田を作り、商人のひさぎ、百工の器物を作り、婦女の布帛をおりぬふも、皆いとまを用ひてなし出すわざなれば、人の尤おもんじをしむべき事、いとまに過ぎたるはなし。

新字:古人も、常にしておかず、つねに行ひてやまざる者には及びがたしといへり。又いたづらに為すことなく、常に隙多き人は、人にすぐるゝ事はなきものなりといへり。たとへば農人商人の、つとめていとまををしみ、朝夕田を作り、あきなふ者は、必人にすぐれて、其家富みて、衣食ともしからず。古人も人生はつとめにあり。つとむれば則まどしからずといへり。国家の政をくはしくつとむれば、其国家必治まる。学問をくはしくつとむれば、必諸人にすぐれて、其才すゝむ。万の事皆しかり。隙ををしみて久しくつとむれば、成就せざることなし。それ人の宝は、いとまに過ぎたるはなし。いかんとなれば、君子の学問をつとめ、国家の政を行ひ、父母主君に仕へ、諸芸をまなび、農の田を作り、商人のひさぎ、百工の器物を作り、婦女の布帛をおりぬふも、皆いとまを用ひてなし出すわざなれば、人の尤おもんじをしむべき事、いとまに過ぎたるはなし。

書き下し

古人も、常にしておかず、つねに行ひてやまざる者には及びがたしといへり。又いたづらに為すことなく、常に隙多き人は、人にすぐるる事はなきものなりといへり。たとへば農人商人の、つとめていとまををしみ、朝夕田を作り、あきなふ者は、必人にすぐれて、其家富みて、衣食ともしからず。古人も人生はつとめにあり。つとむれば則まどしからずといへり。国家の政をくはしくつとむれば、其国家必治まる。学問をくはしくつとむれば、必諸人にすぐれて、其才すすむ。万の事皆しかり。隙ををしみて久しくつとむれば、成就せざることなし。それ人の宝は、いとまに過ぎたるはなし。いかんとなれば、君子の学問をつとめ、国家の政を行ひ、父母主君に仕へ、諸芸をまなび、農の田を作り、商人のひさぎ、百工の器物を作り、婦女の布帛をおりぬふも、皆いとまを用ひてなし出すわざなれば、人の尤おもんじをしむべき事、いとまに過ぎたるはなし。

現代語訳

古人も「常に行って休まず、常に行ってやまない者には及びがたい」と言いました。また「むなしく何もせず、常に暇の多い人は、人にすぐれることはないものだ」と言いました。たとえば農民や商人で、努めて暇を惜しみ、朝夕田を作り、商いをする者は、必ず人にすぐれて、その家は富み、衣食に不足しません。古人も「人生は勤めにある。勤めれば貧しくない」と言いました。国家の政治を詳しく務めれば、その国家は必ず治まります。学問を詳しく務めれば、必ず人々にすぐれて、その才が進みます。すべてのことがみなそうです。暇を惜しんで長く務めれば、成就しないことはありません。そもそも人の宝は、暇に過ぎるものはありません。なぜなら、君子が学問に努め、国家の政治を行い、父母や主君に仕え、諸芸を学び、農民が田を作り、商人が商い、職人が器物を作り、婦人が布を織り縫うのも、みな暇を用いて成し遂げるわざなので、人が最も重んじ惜しむべきものは、暇に過ぎるものはないのです。

解説

時間こそ人の宝だと説く段です。「民の生は勤むるに在り、勤むれば則ち匱しからず」は『春秋左氏伝』に見える言葉で、益軒はこれを人生一般に広げています。学問も政治も農業も商いも、すべて時間を使って成し遂げるものだから、時間ほど大切なものはないという論は明快です。お金は取り戻せても時間は取り戻せません。自分の一日のうち何にどれだけ時間を使っているかを振り返ると、この教えの重みがよくわかります。

この章句が説くこと

時間勤勉学問仕事左伝

関連する章句

古典の入門書『人生の教科書』の表紙

人生の答えは、ぜんぶ古典に書いてあった。

古典の入門書『人生の教科書』(PDF)と、師導の全機能1か月がセットで700円。二十四の悩みに、論語・老子・孫子から徒然草・五輪書までが答えます。

本の中身を見る
古典の入門書『人生の教科書』(PDF)+師導1か月=700円 本を見る