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大和俗訓 / 巻之一・為学上

一書をよまば、我が身に受用する事を專一に志すべし。受用とは、書にしるせる聖人の敎を、我が身にうけ用ひて、まもり行ひ、用にたつるを云ふ。もし書をよみ義理をききても、身にうけ用ひずして行はざれば、何の益もなきいたづらごとなり。大學をよんで、如惡惡臭如好好色とあるを見ては、我が心にこれをうけ用ひて、實に惡をきらふ事惡臭の如く、善を好むこと好色のごとくすべし。論語をよんで父母につかへてよく其力をつくし、君につかへて、能く其身をゆだぬとあるを見ては、其ごとく親につかへて、我が身の力も、財の力もをしまずして、孝をつくすべし。臣としては、我が身を我がものにせずして、わたくしをわすれ、專ら君に忠をつくすべし。自餘も皆かくのごとくすべし。是を書をよんで受用すると云ふ。もし書をよんでも受用せざるは、口耳の學といひて、耳にきゝて頓て口に言ひたるまでにて、心にまもり身に行はざるは無用の學なり。

新字:一書をよまば、我が身に受用する事を専一に志すべし。受用とは、書にしるせる聖人の教を、我が身にうけ用ひて、まもり行ひ、用にたつるを云ふ。もし書をよみ義理をききても、身にうけ用ひずして行はざれば、何の益もなきいたづらごとなり。大学をよんで、如悪悪臭如好好色とあるを見ては、我が心にこれをうけ用ひて、実に悪をきらふ事悪臭の如く、善を好むこと好色のごとくすべし。論語をよんで父母につかへてよく其力をつくし、君につかへて、能く其身をゆだぬとあるを見ては、其ごとく親につかへて、我が身の力も、財の力もをしまずして、孝をつくすべし。臣としては、我が身を我がものにせずして、わたくしをわすれ、専ら君に忠をつくすべし。自余も皆かくのごとくすべし。是を書をよんで受用すると云ふ。もし書をよんでも受用せざるは、口耳の学といひて、耳にきゝて頓て口に言ひたるまでにて、心にまもり身に行はざるは無用の学なり。

書き下し

一書をよまば、我が身に受用する事を専一に志すべし。受用とは、書にしるせる聖人の教を、我が身にうけ用ひて、まもり行ひ、用にたつるを云ふ。もし書をよみ義理をききても、身にうけ用ひずして行はざれば、何の益もなきいたづらごとなり。大学をよんで、悪臭を悪むが如く好色を好むが如しとあるを見ては、我が心にこれをうけ用ひて、実に悪をきらふ事悪臭の如く、善を好むこと好色のごとくすべし。論語をよんで父母につかへてよく其力をつくし、君につかへて、能く其身をゆだぬとあるを見ては、其ごとく親につかへて、我が身の力も、財の力もをしまずして、孝をつくすべし。臣としては、我が身を我がものにせずして、わたくしをわすれ、専ら君に忠をつくすべし。自余も皆かくのごとくすべし。是を書をよんで受用すると云ふ。もし書をよんでも受用せざるは、口耳の学といひて、耳にききて頓て口に言ひたるまでにて、心にまもり身に行はざるは無用の学なり。

現代語訳

一、書を読むなら、自分の身に受け用いることをひたすら志すべきです。受用とは、書に記された聖人の教えを自分の身に受け用いて、守り行い、役に立てることをいいます。もし書を読み義理を聞いても、身に受け用いずに行わなければ、何の益もないむだごとです。『大学』を読んで「悪臭を憎むように悪を憎み、好色を好むように善を好む」とあるのを見たら、自分の心にこれを受け用いて、本当に悪を嫌うことは悪臭のように、善を好むことは好色のようにすべきです。『論語』を読んで「父母に仕えてよくその力を尽くし、君に仕えてよくその身をささげる」とあるのを見たら、そのように親に仕えて、自分の身の力も財の力も惜しまずに孝を尽くすべきです。臣下としては、自分の身を自分のものとせずに私心を忘れ、ひたすら君に忠を尽くすべきです。その他もみなこのようにすべきです。これを書を読んで受用するといいます。もし書を読んでも受用しないのは口耳の学といって、耳で聞いてすぐ口で言うだけで、心に守り身に行わないのは無用の学問です。

解説

読書の要は「受用」、つまり書の教えを自分の身に受けて実際に用いることだと説く段です。例に挙がるのは『大学』誠意章の「悪臭を悪むが如く、好色を好むが如し」と、『論語』学而篇の子夏の言葉です。耳で聞いてすぐ口で言うだけの学問を「口耳の学」と呼ぶのは『荀子』勧学篇にも通じる言い方です。本を読んだら、明日から一つだけ行動を変えてみる。そうした受用の習慣が、読書を知識の収集から生き方の糧へと変えてくれるはずです。

この章句が説くこと

受用読書実践大学論語

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