大和俗訓 / 巻之一・為学上
中につきて、七情の内、いかりと欲との二、尤我が心を害し、身をそこなひ、人をそこなふものなる故に、いかりをこらしやめ、欲をふさぎ去りて、其はじめておこる處のきざしに克つべし。又善にうつりて、我が善より猶よき事あらば、己が善をすてゝ、まされる方にしたがふべし。身に過あらば、はやく改むべし。我が身に執著して、改むるにはゞかるべからず。又人に對して行ふに、人われにしたがはざる事あらば、人を責めずして、我が身をかへりみ咎むべし。是皆あつく行ふ道なり。學び問ふにあらざれば、道明ならず。思ひ辨ふるにあらざれば、道をわが心に得がたし。篤く行ふにあらざれば、知りても實なし。右五のものは、中庸にしるせる所、學の工夫なり。程子も、此五のもの一を缺けば學にあらずといへり。
新字:中につきて、七情の内、いかりと欲との二、尤我が心を害し、身をそこなひ、人をそこなふものなる故に、いかりをこらしやめ、欲をふさぎ去りて、其はじめておこる処のきざしに克つべし。又善にうつりて、我が善より猶よき事あらば、己が善をすてゝ、まされる方にしたがふべし。身に過あらば、はやく改むべし。我が身に執著して、改むるにはゞかるべからず。又人に対して行ふに、人われにしたがはざる事あらば、人を責めずして、我が身をかへりみ咎むべし。是皆あつく行ふ道なり。学び問ふにあらざれば、道明ならず。思ひ弁ふるにあらざれば、道をわが心に得がたし。篤く行ふにあらざれば、知りても実なし。右五のものは、中庸にしるせる所、学の工夫なり。程子も、此五のもの一を欠けば学にあらずといへり。
書き下し
中につきて、七情の内、いかりと欲との二、尤我が心を害し、身をそこなひ、人をそこなふものなる故に、いかりをこらしやめ、欲をふさぎ去りて、其はじめておこる処のきざしに克つべし。又善にうつりて、我が善より猶よき事あらば、己が善をすてて、まされる方にしたがふべし。身に過あらば、はやく改むべし。我が身に執著して、改むるにはばかるべからず。又人に対して行ふに、人われにしたがはざる事あらば、人を責めずして、我が身をかへりみ咎むべし。是皆あつく行ふ道なり。学び問ふにあらざれば、道明ならず。思ひ弁ふるにあらざれば、道をわが心に得がたし。篤く行ふにあらざれば、知りても実なし。右五のものは、中庸にしるせる所、学の工夫なり。程子も、此五のもの一を欠けば学にあらずといへり。
現代語訳
その中でも、七情のうち怒りと欲の二つは、もっとも自分の心を害し、身を損ない、人を損なうものなので、怒りをこらしとどめ、欲をふさぎ去って、それが初めて起こるところの兆しに打ち勝つべきです。また善に移って、自分の善よりさらによいことがあれば、自分の善を捨てて、まさっているほうに従うべきです。身に過ちがあれば、早く改めるべきです。自分に執着して、改めることをためらってはなりません。また人に対して行うとき、人が自分に従わないことがあれば、人を責めずに、自分の身を振り返って咎めるべきです。これらはみな篤く行う道です。学び問わなければ道は明らかになりません。考え弁えなければ道を自分の心に得がたいのです。篤く行わなければ、知っていても実がありません。右の五つは『中庸』に記された学問の工夫です。程子も「この五つのうち一つでも欠ければ学問ではない」と言いました。
解説
この章句が説くこと
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