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大和俗訓 / 巻之一・為学上

まぢかき手本になる事、是に過ぎたる事なし。しかれども我が手にもてる斧と、新しく斧に作らんとする木の枝とは、別の物なれば、猶以て遠しとす。聖人の敎は然らず。卽其人に生れつきたる善心を本として、是をそだて養ふ道なれば、敎をつくりいだし別の道をもち來りて、其人に敎ふるにはあらず。然れば、天下の人おしなべて、此道を以ていざなひ導かば、およそ血氣ある人類は、唐もやまとも、西戎南蠻も、此道を尊信して、したがはずといふ事なかるべし。

新字:まぢかき手本になる事、是に過ぎたる事なし。しかれども我が手にもてる斧と、新しく斧に作らんとする木の枝とは、別の物なれば、猶以て遠しとす。聖人の教は然らず。即其人に生れつきたる善心を本として、是をそだて養ふ道なれば、教をつくりいだし別の道をもち来りて、其人に教ふるにはあらず。然れば、天下の人おしなべて、此道を以ていざなひ導かば、およそ血気ある人類は、唐もやまとも、西戎南蠻も、此道を尊信して、したがはずといふ事なかるべし。

書き下し

まぢかき手本になる事、是に過ぎたる事なし。しかれども我が手にもてる斧と、新しく斧に作らんとする木の枝とは、別の物なれば、猶以て遠しとす。聖人の教は然らず。即其人に生れつきたる善心を本として、是をそだて養ふ道なれば、教をつくりいだし別の道をもち来りて、其人に教ふるにはあらず。然れば、天下の人おしなべて、此道を以ていざなひ導かば、およそ血気ある人類は、唐もやまとも、西戎南蠻も、此道を尊信して、したがはずといふ事なかるべし。

現代語訳

身近な手本となることで、これ以上のものはありません。けれども自分の手に持っている斧と、新しく斧の柄に作ろうとする木の枝とは別の物なので、それでもなお遠いとします。聖人の教えはそうではありません。その人に生まれつき備わっている善い心を本として、これを育て養う道なので、教えを新たに作り出したり、別の道を持ってきたりして、その人に教えるのではありません。ですから天下の人をおしなべてこの道で誘い導けば、およそ血の通った人類は、中国も日本も、西の異民族も南の異民族も、この道を尊び信じて従わないということはないでしょう。

解説

斧の柄のたとえを受けて、聖人の教えはそれよりさらに近いと説く段です。斧と木の枝は別物だが、教えは自分自身の善心を育てるものだから、手本が自分の内にあるというのです。この発想は『中庸』第十三章が同じ詩を引いて「道は人に遠からず」と説くところに重なります。だから国や民族を問わず誰にでも通じると益軒は結びます。外から借りてきた正解ではなく、自分の中にある良さを引き出すことが、人を導くいちばんの近道だと教えてくれます。

この章句が説くこと

善心教え中庸性善導き

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