大和俗訓 / 巻之一・為学上
一萬物の内、人と生るゝ事甚かたし。如何となれば、鳥獸蟲魚は年々に多く生る事、其數かぎりなし。人の數は、鳥獸蟲魚の萬が一もなくして、きはめて少なし。其上、人は萬物にすぐれて、天地のめぐみをうくること厚し。かく貴き人身なれば、萬物の内、人と生るゝ事、きはめてかたき事なるを、幸に人と生れたる我が身を持ちながら、學ばずして天地の道にそむき、人の道を知らずして行はず、人と斯く生れぬるたのしみを忘れ、いたづらに一生をむなしく過して、鳥獸と同じく生き、身死して後はよき名をのこす事なく、草木と同じく朽ちなん事、豈うらみ多き事ならずや。
新字:一万物の内、人と生るゝ事甚かたし。如何となれば、鳥獣虫魚は年々に多く生る事、其数かぎりなし。人の数は、鳥獣虫魚の万が一もなくして、きはめて少なし。其上、人は万物にすぐれて、天地のめぐみをうくること厚し。かく貴き人身なれば、万物の内、人と生るゝ事、きはめてかたき事なるを、幸に人と生れたる我が身を持ちながら、学ばずして天地の道にそむき、人の道を知らずして行はず、人と斯く生れぬるたのしみを忘れ、いたづらに一生をむなしく過して、鳥獣と同じく生き、身死して後はよき名をのこす事なく、草木と同じく朽ちなん事、豈うらみ多き事ならずや。
書き下し
一万物の内、人と生るる事甚かたし。如何となれば、鳥獣虫魚は年々に多く生る事、其数かぎりなし。人の数は、鳥獣虫魚の万が一もなくして、きはめて少なし。其上、人は万物にすぐれて、天地のめぐみをうくること厚し。かく貴き人身なれば、万物の内、人と生るる事、きはめてかたき事なるを、幸に人と生れたる我が身を持ちながら、学ばずして天地の道にそむき、人の道を知らずして行はず、人と斯く生れぬるたのしみを忘れ、いたづらに一生をむなしく過して、鳥獣と同じく生き、身死して後はよき名をのこす事なく、草木と同じく朽ちなん事、豈うらみ多き事ならずや。
現代語訳
一、万物の中で人と生まれることはとても難しいのです。なぜかといえば、鳥獣虫魚は毎年多く生まれ、その数は限りがありません。人の数は鳥獣虫魚の万分の一もなく、きわめて少ないのです。そのうえ人は万物にすぐれて、天地の恵みを厚く受けています。このように貴い人の身なので、万物の中で人と生まれることはきわめて難しいことなのに、幸いにも人と生まれた自分の身を持ちながら、学ばずに天地の道に背き、人の道を知らずに行わず、人と生まれた楽しみを忘れ、むなしく一生を過ごして鳥獣と同じように生き、死んだ後はよい名を残すこともなく、草木と同じように朽ちていくのは、なんと恨みの多いことではないでしょうか。
解説
この章句が説くこと
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