山鹿語類 / 士道・辨財用受與之節
又曰。天下之財寶者。天下之財寳。而非一人之財寳。能交易利潤。而通用萬物。故是曰財寳。有財之人。皆言厭費。不知費。金玉盈堂。財器在府。而不知施用。則天下之財。各滯其府庫。而不通天下之用。費蔽何事如之乎。人好財。則大槩吝嗇之。故聖人以財貨不爲寳。不貴難得之財。况藏土器書墨銅鐵之器。而寶之。以千金易之。其惑甚乎。
新字:又曰。天下之財宝者。天下之財宝。而非一人之財宝。能交易利潤。而通用万物。故是曰財宝。有財之人。皆言厭費。不知費。金玉盈堂。財器在府。而不知施用。則天下之財。各滞其府庫。而不通天下之用。費蔽何事如之乎。人好財。則大槩吝嗇之。故聖人以財貨不為宝。不貴難得之財。況蔵土器書墨銅鉄之器。而宝之。以千金易之。其惑甚乎。
書き下し
又曰く、天下の財宝は天下の財宝にして、一人の財宝に非ず。能く交易利潤して万物に通用す。故に是を財宝と曰ふ。財有るの人、皆費を厭ふと言ひて費を知らず。金玉堂に盈ち、財器府に在れども、施用を知らざれば、則ち天下の財各其の府庫に滞りて、天下の用に通ぜず。費蔽何事か之に如かんや。人財を好めば則ち大概之を吝嗇す。故に聖人は財貨を以て宝と為さず、得難きの財を貴ばず。況んや土器書墨銅鉄の器を蔵して之を宝とし、千金を以て之に易ふるをや。其の惑ひ甚しきかな。
現代語訳
またこう言われた。天下の財宝は天下の財宝であって、一人の財宝ではない。よく交易して利を潤し、万物に通用する。だからこれを財宝という。財のある人はみな費えを嫌うと言いながら、本当の費えを知らない。金や玉が堂に満ち、財器が蔵にあっても、施し用いることを知らなければ、天下の財はそれぞれの蔵に滞って、天下の用に通じない。これほどの費えと弊害がほかにあろうか。人は財を好むとたいていけちになる。だから聖人は財貨を宝とせず、得がたい財を貴ばなかった。まして土器や書墨、銅鉄の器をしまい込んでこれを宝とし、千金でこれと引き換えるのは、その惑いもはなはだしいではないか。
解説
この章句が説くこと
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『山鹿語類』士道・辨財用受與之節師曰く、財有りて用を得ざれば、則ち財皆財に非ず。用有りて財を量らざれば、則ち用皆用に非ず。財は用を以て財と為し、用は財を以て用と為す。財用の間更に両ならず。而して財に量有り、用に得有り。夫れ貨財は、乏しき者に給し、貧しき者を救ひ、給せざるを省み、賢者を招き、士を聚むるの礼用なり。有無を交易し売買を利潤するの通物なり。用得有れば則ち宝と為り、用得ざれば則ち鄙吝の情日に萌し、過奢の禍時に起る。共に君子の道に非ず。大丈夫の存する所は唯義のみ。若し財宝を吝しみ器物を翫べば、則ち武義自ら闕如す。大節を望みて、殆ど家を忘るべからず。家を思ふこと切なれば、義を棄てて死を遁れ、謗りを指頭に受け、汚を父祖に及ぼす。人面獣心の事、何の楽しみか焉に有らんや。金銀財器余り有るの輩、或は国を失ひ家を滅ぼし、或は身を易へて財を積む。古今枚挙すべからざるなり。夫れ豪傑の士は天下国家を屑とせず、或は耳を潁川に洗ひ、或は蕨を首陽に採る。其の気節の高尚なる、併せ案ずべきなり。然れども財貨有れば則ち之を山に棄て之を海に湮むるも、土石に同じうせんと欲するに非ず。此の間詳かに其の量用を糾すのみ。
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『山鹿語類』士道・詳器物之用次に宝器之用あり。凡そ世に宝と号する器は、徳を天地に比して、気節度量温潤風流ともにそなはり、人々是を以て自省み自たゞしつべきの器あるときは、初めて宝器と可号也。人是を全くする時は聖人と号し、鳥獣に此粧あれば鳳凰麒麟と号す。器にこれある時は瑞玉宝器と号す。上古より万世まで、ともに是を崇敬す。人々是を以て準則としつべければ也。然れども宝器幷に麟鳳の類は世の名物也と云へるも、唯其徳の温潤風度を云ふ也。聖人に於ては天地の徳にかくる所なく、徳こゝに正しく、知こゝにあまねく、勇こゝに卓爾たり。故に数千歳の間世に出ること希有にして、宝玉は世々に乏しからざるゆゑん也。而して是に次では世をあまねく利して、人の用をたらしむるものを以て宝とすなれば、木火土金水の生々して米穀衣服草木魚鳥塩菜を生じ、器物名劒を出さしむ。皆是天下の宝にして、一日もなくんばあるべからず。而して是を交易せしむるに金銀銅銭の利あつて、有無互にかへて是を利す。こゝにおいて初めて財を以て宝とするの説あり。
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『山鹿語類』士道・詳器物之用爰に案ずるに便用の利を本として云時は、一器一物の微も、時に至て宝たらずと云ことなし。殺罰の利剣、ころすものゝためには宝にして、被殺ものゝ為には甚凶器なるが如し。然れども一用一事に足つて万端に不及ものをば宝と不号。此財能交易利潤す。故に是を以て財宝と号す。世をわたり便用をなすに、是に過たる財あらず。是世々相貴ぶのゆゑ也。玉は君子の宝とする処にして、便用の利更にたらず。交易利潤の福なし。故に小人は是を宝とせず。世以て玉を重宝することあらざるは、人皆利を貴んで徳を不貴がゆゑなるべし。たま〳〵玉を貴ぶの輩は、是を以て金銀にかへんことを思へば也。
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『山鹿語類』士道・詳器物之用古人曰。人君於先代所蔵之重器。手沢之所存。心神之所寓。有事於宗廟。則陳之以示其能守。臨終而顧命。即列之以見其全帰。非細故小事。中庸以此表継述之能。周書以此見伝守之不失。為人子孫。践祖宗之位。守祖宗之業。而不能守祖宗之遺物。豈得為孝乎といへり。こゝを以て云ば、先祖相伝る処は家の宝としてつゝしみ守らんこと尤もなりといへども、不入器物を多くたくはへて、是を先祖の重宝と云はんは、却て先祖に辱を与へ、子孫に利欲を教戒するにも至るべし。世に名ある大丈夫と云へども、道に志あらず聖人の本意を不知がゆゑに、平生聊か利害の心なき輩も、如此ことに理不究して、器物を以て宝とするの輩多し。尤可戒也。凡ろ宝は天下の万民に推及して、其理不足と云ことなきを以て宝とす。彼の財貨は乏しきものゝ為めに甚利あり。大福分の者は用なし。彼の玩器はもたざる者の為めに宝とす。多蓄余分あらんものは是を不屑。然れば准して天下の宝と云べからず。学者可心付也。
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『山鹿語類』士道・詳器物之用而して世人皆玉の宝たることを不知は、便用を専として情欲をほしいまゝにするの故に、頻りに貨財を以て宝とす。是より目を喜こばせ耳を楽ましめ口の味をよくするの器物を貴、或は古書墨跡、或は玩器の奇物、世にまれに俗の乏きを以て皆重宝として、目是を視耳これをきゝ手これを翫び身これをまとふて、是を以宝とす。其価を尋ぬるときは、皆貨財を出して売買するに、高直のものを大宝とす。甚小人のわざにして、君子の云所にあらず。丈夫武器において剣戟は其用尤大なれば、是れを貴で宝とするに足れりと云へども、わづか一人を殺し一身を守護して身を奉ずるにたれるものは宝と云ふにあらず。漢の高祖の三尺の劒は、四海を平均するの用広し。本朝の十握の劒は、外夷拱手の冷光あり。皆以て宝とするに足れり。されども父祖の手沢の所存、其家について其用あらんには、是一家の宝たり。
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『家道訓』巻之四・用財上一およそ、人家になくてかなはざる物の外、無用の物をもとめたくはへざれば、心のわづらひなく、財のつひえなし。一器物は、朝夕用ある物を宝とすべし。無用の奇物を宝とするは、価は多く費えて、我が用にたつことはまれなり。常に用ある器は、価の費はすくなくて、用にたつこと多し。得がたき宝をたふとぶは、古人のいましめなり。
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