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山鹿語類 / 士道・詳器物之用

而して世人皆玉の寳たることを不知は、便用を專として情欲をほしいまゝにするの故に、頻りに貨財を以て寳とす。是より目を喜こばせ耳を樂ましめ口の味をよくするの器物を貴、或は古書墨跡、或は玩器の奇物、世にまれに俗の乏きを以て皆重寳として、目是を視耳これをきゝ手これを翫び身これをまとふて、是を以寳とす。其價を尋ぬるときは、皆貨財を出して賣買するに、高直のものを大寳とす。甚小人のわざにして、君子の云所にあらず。丈夫武器において劔戟は其用尤大なれば、是れを貴で寳とするに足れりと云へども、わづか一人を殺し一身を守護して身を奉ずるにたれるものは寳と云ふにあらず。漢の高祖の三尺の劒は、四海を平均するの用廣し。本朝の十握の劒は、外夷拱手の冷光あり。皆以て寳とするに足れり。されども父祖の手澤の所存、其家について其用あらんには、是一家の寳たり。

新字:而して世人皆玉の宝たることを不知は、便用を専として情欲をほしいまゝにするの故に、頻りに貨財を以て宝とす。是より目を喜こばせ耳を楽ましめ口の味をよくするの器物を貴、或は古書墨跡、或は玩器の奇物、世にまれに俗の乏きを以て皆重宝として、目是を視耳これをきゝ手これを翫び身これをまとふて、是を以宝とす。其価を尋ぬるときは、皆貨財を出して売買するに、高直のものを大宝とす。甚小人のわざにして、君子の云所にあらず。丈夫武器において剣戟は其用尤大なれば、是れを貴で宝とするに足れりと云へども、わづか一人を殺し一身を守護して身を奉ずるにたれるものは宝と云ふにあらず。漢の高祖の三尺の劒は、四海を平均するの用広し。本朝の十握の劒は、外夷拱手の冷光あり。皆以て宝とするに足れり。されども父祖の手沢の所存、其家について其用あらんには、是一家の宝たり。

書き下し

而して世人皆玉の宝たることを不知は、便用を専として情欲をほしいまゝにするの故に、頻りに貨財を以て宝とす。是より目を喜こばせ耳を楽ましめ口の味をよくするの器物を貴、或は古書墨跡、或は玩器の奇物、世にまれに俗の乏きを以て皆重宝として、目是を視耳これをきゝ手これを翫び身これをまとふて、是を以宝とす。其価を尋ぬるときは、皆貨財を出して売買するに、高直のものを大宝とす。甚小人のわざにして、君子の云所にあらず。丈夫武器において剣戟は其用尤大なれば、是れを貴で宝とするに足れりと云へども、わづか一人を殺し一身を守護して身を奉ずるにたれるものは宝と云ふにあらず。漢の高祖の三尺の劒は、四海を平均するの用広し。本朝の十握の劒は、外夷拱手の冷光あり。皆以て宝とするに足れり。されども父祖の手沢の所存、其家について其用あらんには、是一家の宝たり。

現代語訳

そして世の人がみな玉が宝であることを知らないのは、便利をもっぱらにして情欲をほしいままにするからで、しきりに貨財を宝とする。ここから目を喜ばせ、耳を楽しませ、口の味をよくする器物を貴び、あるいは古書や墨跡、あるいは珍しい玩び物など、世にまれで俗人が持たない物をみな重宝として、目で見て耳で聞き手で弄び身にまとって、これを宝とする。その値を尋ねれば、みな貨財を出して売り買いし、高値のものを大宝とする。まったく小人のわざであって、君子の言うところではない。丈夫の武器において、剣や戟はその用が最も大きいので、これを貴んで宝とするに足るといっても、わずか一人を殺し一身を守って身に仕える程度のものは宝とはいわない。漢の高祖の三尺の剣は、四海を平らげる用が広い。我が国の十握の剣(神代の神剣)は、外国の者が手をこまねいて恐れる冷たい光がある。これらはみな宝とするに足る。けれども父祖の手の跡が残るものは、その家においてその用があるならば、一家の宝である。

解説

本章は、世人が書画骨董や珍品を値段の高さで宝と呼ぶことを「甚小人のわざ」と退ける。剣でさえ一人を殺し一身を守るだけなら宝ではなく、漢の高祖が天下を平定した三尺の剣や、神代の十握の剣のように天下に用いるものが宝だという。ただし父祖が手に触れ、その家で意味を持つ品は一家の宝として認める。値段ではなく、何に役立ち誰の思いがこもるかで価値を測る基準である。収集品の値上がりを誇るより、受け継いだ物の意味を問うほうが人を育てる。

この章句が説くこと

宝財剣父祖義利小人

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