山鹿語類 / 士道・明衣服之制
師嘗曰。衣服は人の身を覆て寒暑を節にするゆゑん也。是不得已して其制あるゆゑん也。凡天地の生物、各羽毛鱗介あつて身をかくし、其禮容をあらはす。人は倮にして身に自身の羽毛鱗介なし。これ萬物の靈にして其知生物に秀たるを以て、知を以て物を巧み、才を以て其制を宜して、自然に寒暑を時なひ、其禮容を正しくするの本そなはれり。されば上代は木の葉をあつめて是をつゞり、鳥獸の羽毛を集て衣服の制として、唯寒暑を時なへり。是天下創業にして民のわざ未定、其制衣服までに不及を以て也。而して五帝に及で、黄帝始めて衣と裳との品を定めて、衣裳の制こゝになれり。本朝の往古又これに異なることあるべからざる也。然れば衣服の用人々皆不可無の器にして、其制又威儀の說備はるゆゑん也。若衣服は寒ををゝふためなりと云て、衣服の威儀を不正ば、是黃帝以前の民にして、唯其天然のまゝ也。今日の民に非ず。黃帝已後においては、天下に其制あり。今其制を棄んと云は、是天下の賊民と可云也。故に威儀を正すこと、是又衣服の制にあるゆゑん也。
新字:師嘗曰。衣服は人の身を覆て寒暑を節にするゆゑん也。是不得已して其制あるゆゑん也。凡天地の生物、各羽毛鱗介あつて身をかくし、其礼容をあらはす。人は倮にして身に自身の羽毛鱗介なし。これ万物の霊にして其知生物に秀たるを以て、知を以て物を巧み、才を以て其制を宜して、自然に寒暑を時なひ、其礼容を正しくするの本そなはれり。されば上代は木の葉をあつめて是をつゞり、鳥獣の羽毛を集て衣服の制として、唯寒暑を時なへり。是天下創業にして民のわざ未定、其制衣服までに不及を以て也。而して五帝に及で、黄帝始めて衣と裳との品を定めて、衣裳の制こゝになれり。本朝の往古又これに異なることあるべからざる也。然れば衣服の用人々皆不可無の器にして、其制又威儀の説備はるゆゑん也。若衣服は寒ををゝふためなりと云て、衣服の威儀を不正ば、是黄帝以前の民にして、唯其天然のまゝ也。今日の民に非ず。黄帝已後においては、天下に其制あり。今其制を棄んと云は、是天下の賊民と可云也。故に威儀を正すこと、是又衣服の制にあるゆゑん也。
書き下し
師嘗曰。衣服は人の身を覆て寒暑を節にするゆゑん也。是不得已して其制あるゆゑん也。凡天地の生物、各羽毛鱗介あつて身をかくし、其礼容をあらはす。人は倮にして身に自身の羽毛鱗介なし。これ万物の霊にして其知生物に秀たるを以て、知を以て物を巧み、才を以て其制を宜して、自然に寒暑を時なひ、其礼容を正しくするの本そなはれり。されば上代は木の葉をあつめて是をつゞり、鳥獣の羽毛を集て衣服の制として、唯寒暑を時なへり。是天下創業にして民のわざ未定、其制衣服までに不及を以て也。而して五帝に及で、黄帝始めて衣と裳との品を定めて、衣裳の制こゝになれり。本朝の往古又これに異なることあるべからざる也。然れば衣服の用人々皆不可無の器にして、其制又威儀の説備はるゆゑん也。若衣服は寒ををゝふためなりと云て、衣服の威儀を不正ば、是黄帝以前の民にして、唯其天然のまゝ也。今日の民に非ず。黄帝已後においては、天下に其制あり。今其制を棄んと云は、是天下の賊民と可云也。故に威儀を正すこと、是又衣服の制にあるゆゑん也。
現代語訳
先生はかつてこう言われた。衣服は人の身体を覆って寒さ暑さを調節するためのものである。これはやむをえない必要から、衣服の決まりがあるのである。およそ天地の生き物は、それぞれ羽・毛・鱗・甲羅をもって身を隠し、その姿の礼を表している。人ははだかであって、身に自前の羽毛鱗甲がない。これは人が万物の霊長であり、その知恵が他の生き物より秀でているからであって、知恵によって物を巧みに作り、才によって決まりを適切に整え、おのずから寒暑に合わせ、その姿の礼を正しくするもとが備わっているのである。だから上代には木の葉を集めて綴り合わせ、鳥獣の羽毛を集めて衣服とし、ただ寒暑をしのぐだけであった。これは天下の始まりで民のなりわいがまだ定まらず、その制度が衣服にまで及ばなかったからである。そして五帝の時代になって、黄帝が初めて衣(上衣)と裳(下衣)の区別を定め、衣裳の制度がここに成った。わが国の古代もまたこれと異なるはずはない。そうであれば衣服の用は人々にとって欠くことのできない道具であり、その制度にはまた威儀(立ち居振る舞いの正しさ)の説が備わっているのである。もし衣服は寒さを覆うためのものだと言って衣服の威儀を正さないなら、それは黄帝以前の民であって、ただ天然のままの姿にすぎない。今日の民ではない。黄帝以後は天下に衣服の制度がある。いまその制度を捨てようと言うのは、天下の賊民と言うべきである。ゆえに威儀を正すことは、これまた衣服の制度のうちにあるのである。
解説
この章句が説くこと
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