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山鹿語類 / 士道・節飮食之用

次に飮食を用ゆるの法あり。曲禮曰、共食不飽、共飯不澤手、食者、所食非一品、謂簋飯之大器也、不飽讓也、飯者止飯、古以手、故去汗澤毋搏飯、易得多非謙毋放飯、大飯毋流歠、長歠也毋咤食、毋嚙骨、毋反魚肉、爲已歷口人所穢也矣毋投與狗骨、毋固獲、必欲取也濡肉齒决、乾肉不齒决、毋嚃炙、乾肉以手治之、炙肉一食盡曰嚃、宜漸食、是古人飮食するの禮也。凡そ當飮食て其禮不正は、威儀こゝにかけぬべし。されば飮食の席に臨んでは、先づ容貌を正し、左右を考へ、長者箸を取て而して我これに從ふ。各長者の禮をうけて可用之。食すること大口になく、食ときに四方を不見。顏色を正しからしむ。箸を持つ處の形、肩背の容心を可付。美品なりと云ども、其一色を嗜むべからず。或は多くのそへものを悉くくらひ散し、或は魚肉をかみて汁をこぼち骨をちらし、盤を汚すこと、甚無禮也。舌うちを高く仕り、すう音遠くきこゆる、皆小人のわざ也。古來は箸を澤すこと六寸に及を以て下品の人とす。飮食の間、世事を談じ口を開き笑かたること、禮に非ず。是其大槩也。猶心を付て其制法を究明仕るべし。

新字:次に飲食を用ゆるの法あり。曲礼曰、共食不飽、共飯不沢手、食者、所食非一品、謂簋飯之大器也、不飽譲也、飯者止飯、古以手、故去汗沢毋搏飯、易得多非謙毋放飯、大飯毋流歠、長歠也毋咤食、毋噛骨、毋反魚肉、為已歴口人所穢也矣毋投与狗骨、毋固獲、必欲取也濡肉歯決、乾肉不歯決、毋嚃炙、乾肉以手治之、炙肉一食尽曰嚃、宜漸食、是古人飲食するの礼也。凡そ当飲食て其礼不正は、威儀こゝにかけぬべし。されば飲食の席に臨んでは、先づ容貌を正し、左右を考へ、長者箸を取て而して我これに従ふ。各長者の礼をうけて可用之。食すること大口になく、食ときに四方を不見。顔色を正しからしむ。箸を持つ処の形、肩背の容心を可付。美品なりと云ども、其一色を嗜むべからず。或は多くのそへものを悉くくらひ散し、或は魚肉をかみて汁をこぼち骨をちらし、盤を汚すこと、甚無礼也。舌うちを高く仕り、すう音遠くきこゆる、皆小人のわざ也。古来は箸を沢すこと六寸に及を以て下品の人とす。飲食の間、世事を談じ口を開き笑かたること、礼に非ず。是其大槩也。猶心を付て其制法を究明仕るべし。

書き下し

次に飲食を用ゆるの法あり。曲礼曰、共食不飽、共飯不沢手、食者、所食非一品、謂簋飯之大器也、不飽譲也、飯者止飯、古以手、故去汗沢毋搏飯、易得多非謙毋放飯、大飯毋流歠、長歠也毋咤食、毋噛骨、毋反魚肉、為已歴口人所穢也矣毋投与狗骨、毋固獲、必欲取也濡肉歯決、乾肉不歯決、毋嚃炙、乾肉以手治之、炙肉一食尽曰嚃、宜漸食、是古人飲食するの礼也。凡そ当飲食て其礼不正は、威儀こゝにかけぬべし。されば飲食の席に臨んでは、先づ容貌を正し、左右を考へ、長者箸を取て而して我これに従ふ。各長者の礼をうけて可用之。食すること大口になく、食ときに四方を不見。顔色を正しからしむ。箸を持つ処の形、肩背の容心を可付。美品なりと云ども、其一色を嗜むべからず。或は多くのそへものを悉くくらひ散し、或は魚肉をかみて汁をこぼち骨をちらし、盤を汚すこと、甚無礼也。舌うちを高く仕り、すう音遠くきこゆる、皆小人のわざ也。古来は箸を沢すこと六寸に及を以て下品の人とす。飲食の間、世事を談じ口を開き笑かたること、礼に非ず。是其大槩也。猶心を付て其制法を究明仕るべし。

現代語訳

次に飲食をする法がある。曲礼篇に「人と共に食べるときは満腹するまで食べない。共に飯を食べるときは手を汗で湿らせない(食とは、食べるものが一品でないこと。簋は飯を盛る大きな器をいう。満腹しないのは譲るためである。飯は飯だけをいう。古は手で食べたので、汗の湿りを除く)。飯を丸めて取らない(多く取りやすく謙虚でない)。食べかけの飯を器に戻さない。汁を流し込むように飲まない(長くすすること)。舌打ちして食べない。骨をかまない。口をつけた魚肉を器に戻さない(すでに口をへたもので人に汚いと思われる)。骨を犬に投げ与えない。どうしても取ろうとしない(必ず取ろうとすること)。煮た肉は歯でかみ切り、干し肉は歯でかみ切らない(干し肉は手で裂く)。焼き肉をひと口でかき込まない(焼き肉を一度に食べ尽くすのを嚃という。少しずつ食べるのがよい)」とある。これが古人の飲食の礼である。およそ飲食に当たってその礼が正しくなければ、威儀はそこで欠けてしまうであろう。それゆえ飲食の席に臨んでは、まず容貌を正し、左右を考え、長者が箸を取ってから自分もこれに従う。それぞれ長者の礼を受けてから用いるべきである。食べるときは大口にならず、食べるときに四方を見回さない。顔色を正しくする。箸を持つ形、肩や背の姿に心をつけるべきである。おいしい品であっても、その一品だけを好んで食べてはならない。あるいは多くの添え物を残らず食べ散らかし、あるいは魚肉をかんで汁をこぼし骨を散らし、皿を汚すのは、はなはだ無礼である。舌打ちを高くし、すする音が遠くまで聞こえるのは、みな小人のすることである。古来、箸先を六寸も汚すのを下品な人とする。飲食の間に世間話をし、口を開けて笑い語るのは礼ではない。これがそのあらましである。なお心をつけてその定めを究めるべきである。

解説

本条は食事の作法を説く。『礼記』曲礼の、共食で満腹せず、飯を丸めて取らず、口をつけた物を戻さず、骨を犬に投げず、汁をすすらず、という細目を引いたうえで、素行は日本の膳に即して教える。長者が箸を取るのを待ち、大口を開けず、きょろきょろせず、好物ばかり食べず、皿を汚さず、舌打ちやすする音を立てない。箸先を六寸も汚すのは下品とされた。食事の席は威儀が最もあらわになる場であり、食べ方の乱れは小人のわざだという。現代でも、会食での食べ方は、言葉以上にその人の育ちと相手への配慮を伝える。

この章句が説くこと

飲食作法威儀礼曲礼小人

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