山鹿語類 / 士道・節飮食之用
珍物奇味みだりに飮食すべからず。珍物と云は時に先だつて世に出るもの也。奇味と云は此國の物にあらざる也。珍物は初めくらふこと多きときは、必あたることあり。故に少しくくらつて次第に多からしむべし。奇味は必不可用也。すべて珍物奇物を貴ぶことは、是味に耽るのゆゑ也。或は脾胃の藥也、或は腎水を增の用ありと云て是を好む。大丈夫の本意に非ず。平生の食味を以て身を奉じて、生を貪る不可。酒色を節にして、腎水をまさんことを不可好也。しかりと云て、同じく喰所の味をなり次第にして、出來不出來を手にまかさしめんことは、又君子の道に非ず。飮食の制則威儀の所因也。きりめを正しくし味を調へんは、鹽梅のこと也。是を疎にすべからず。論語曰、食不厭精、膾不厭細、食饐而餲、魚餒而肉敗不食、色惡不食、臭惡不食、失飪不食、不時不食、割不正不食、肉雖多不使勝食氣、唯酒無量、不及亂、沽酒市脯不食と云は、夫子の飮食の用を云へり。
新字:珍物奇味みだりに飲食すべからず。珍物と云は時に先だつて世に出るもの也。奇味と云は此国の物にあらざる也。珍物は初めくらふこと多きときは、必あたることあり。故に少しくくらつて次第に多からしむべし。奇味は必不可用也。すべて珍物奇物を貴ぶことは、是味に耽るのゆゑ也。或は脾胃の薬也、或は腎水を增の用ありと云て是を好む。大丈夫の本意に非ず。平生の食味を以て身を奉じて、生を貪る不可。酒色を節にして、腎水をまさんことを不可好也。しかりと云て、同じく喰所の味をなり次第にして、出来不出来を手にまかさしめんことは、又君子の道に非ず。飲食の制則威儀の所因也。きりめを正しくし味を調へんは、塩梅のこと也。是を疎にすべからず。論語曰、食不厭精、膾不厭細、食饐而餲、魚餒而肉敗不食、色悪不食、臭悪不食、失飪不食、不時不食、割不正不食、肉雖多不使勝食気、唯酒無量、不及乱、沽酒市脯不食と云は、夫子の飲食の用を云へり。
書き下し
珍物奇味みだりに飲食すべからず。珍物と云は時に先だつて世に出るもの也。奇味と云は此国の物にあらざる也。珍物は初めくらふこと多きときは、必あたることあり。故に少しくくらつて次第に多からしむべし。奇味は必不可用也。すべて珍物奇物を貴ぶことは、是味に耽るのゆゑ也。或は脾胃の薬也、或は腎水を增の用ありと云て是を好む。大丈夫の本意に非ず。平生の食味を以て身を奉じて、生を貪る不可。酒色を節にして、腎水をまさんことを不可好也。しかりと云て、同じく喰所の味をなり次第にして、出来不出来を手にまかさしめんことは、又君子の道に非ず。飲食の制則威儀の所因也。きりめを正しくし味を調へんは、塩梅のこと也。是を疎にすべからず。論語曰、食不厭精、膾不厭細、食饐而餲、魚餒而肉敗不食、色悪不食、臭悪不食、失飪不食、不時不食、割不正不食、肉雖多不使勝食気、唯酒無量、不及乱、沽酒市脯不食と云は、夫子の飲食の用を云へり。
現代語訳
珍物や奇味をみだりに飲食してはならない。珍物とは、時期に先立って世に出る物(初物)である。奇味とは、この国の物でないものである。珍物は、初めに多く食べると必ず当たることがある。だから少しずつ食べて、次第に多くするべきである。奇味は決して用いてはならない。すべて珍物・奇物を貴ぶのは、味に溺れているからである。あるいは脾胃の薬だ、あるいは腎水(精力)を増す働きがあると言ってこれを好む。これは大丈夫の本意ではない。ふだんの食べ物で身を養って、生を貪ってはならない。酒色を節して、精力を増すことを好んではならない。そうかといって、同じように食べる物の味を成り行きまかせにして、出来不出来を料理人の手にまかせきりにするのも、また君子の道ではない。飲食の定めは、すなわち威儀のよるところである。切り目を正しくし味を調えるのは、塩梅のことである。これをおろそかにしてはならない。『論語』に「飯は精白したものを厭わず、膾は細かく切ったものを厭わない。飯が饐えて味の変わったもの、魚が傷み肉が腐ったものは食べない。色の悪いものは食べない。においの悪いものは食べない。煮加減を誤ったものは食べない。時期でないものは食べない。切り方の正しくないものは食べない。肉は多くても飯の量を超えさせない。ただ酒には量を決めないが、乱れるまでは飲まない。買ってきた酒や干し肉は食べない」とあるのは、孔子の飲食の用を言ったものである。
解説
この章句が説くこと
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