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山鹿語類 / 士道・節飮食之用

次に飮食之用あり。米は精げたるを不厭。米の性を考へ、土地をはかつて飯と可爲。温地の米は水をゝく、燥地の米は水すくなし。眞土の米は性堅くして味あり。野土の米は性弱にして味はらゝく、沙地小石地各別也。如此處を計るべし。鹽は新に煮る所の鹽、口あたりきつくして性そこぬ。古濱の鹽はやわらかにして不損。是を以て大豆に加へて俗に味噌と號す。大豆の制法、煮之の法、鹽を加る法、或麴米を交ふる制、可舂の制、可積畜器の考あり。本朝皆鹽噌を以て汁として、飮のそなへものとす。米噌は脾胃を養に司とる所甚大なり。詳に制法の用を考へて、其味をたらしむべし。而して酢醬油酒、此三の飮水を以て野菜魚肉の味をとゝのふ。故に此三味を可糾也。酢は血を生じ、酒は氣を益し、醬油は飮ものを能下腑に通じ收藏せしむるの用あり。菜は味淺して脾胃を平にす。魚肉は血氣を損するあり、益すあり。味に五味の品あつて、其質に好惡あり。臭に善惡あつて氣を損益す。尤詳に其用法を制して、冷物には温物を加へ、温物には冷物を入て、其毒を制すべし。是皆飮食の用たり。

新字:次に飲食之用あり。米は精げたるを不厭。米の性を考へ、土地をはかつて飯と可為。温地の米は水をゝく、燥地の米は水すくなし。真土の米は性堅くして味あり。野土の米は性弱にして味はらゝく、沙地小石地各別也。如此処を計るべし。塩は新に煮る所の塩、口あたりきつくして性そこぬ。古浜の塩はやわらかにして不損。是を以て大豆に加へて俗に味噌と号す。大豆の制法、煮之の法、塩を加る法、或麴米を交ふる制、可舂の制、可積畜器の考あり。本朝皆塩噌を以て汁として、飲のそなへものとす。米噌は脾胃を養に司とる所甚大なり。詳に制法の用を考へて、其味をたらしむべし。而して酢醬油酒、此三の飲水を以て野菜魚肉の味をとゝのふ。故に此三味を可糾也。酢は血を生じ、酒は気を益し、醬油は飲ものを能下腑に通じ収蔵せしむるの用あり。菜は味浅して脾胃を平にす。魚肉は血気を損するあり、益すあり。味に五味の品あつて、其質に好悪あり。臭に善悪あつて気を損益す。尤詳に其用法を制して、冷物には温物を加へ、温物には冷物を入て、其毒を制すべし。是皆飲食の用たり。

書き下し

次に飲食之用あり。米は精げたるを不厭。米の性を考へ、土地をはかつて飯と可為。温地の米は水をゝく、燥地の米は水すくなし。真土の米は性堅くして味あり。野土の米は性弱にして味はらゝく、沙地小石地各別也。如此処を計るべし。塩は新に煮る所の塩、口あたりきつくして性そこぬ。古浜の塩はやわらかにして不損。是を以て大豆に加へて俗に味噌と号す。大豆の制法、煮之の法、塩を加る法、或麴米を交ふる制、可舂の制、可積畜器の考あり。本朝皆塩噌を以て汁として、飲のそなへものとす。米噌は脾胃を養に司とる所甚大なり。詳に制法の用を考へて、其味をたらしむべし。而して酢醬油酒、此三の飲水を以て野菜魚肉の味をとゝのふ。故に此三味を可糾也。酢は血を生じ、酒は気を益し、醬油は飲ものを能下腑に通じ収蔵せしむるの用あり。菜は味浅して脾胃を平にす。魚肉は血気を損するあり、益すあり。味に五味の品あつて、其質に好悪あり。臭に善悪あつて気を損益す。尤詳に其用法を制して、冷物には温物を加へ、温物には冷物を入て、其毒を制すべし。是皆飲食の用たり。

現代語訳

次に飲食の用がある。米は精白したものを厭わない。米の性質を考え、土地をはかって飯とすべきである。暖かい土地の米は水を多く、乾いた土地の米は水を少なくする。真土(良い土)の米は性質が堅くて味がある。野土の米は性質が弱くて味が薄く、砂地や小石の地の米はそれぞれまた別である。このように産地をはかるべきである。塩は、新しく煮た塩は口当たりがきつくて性質を損なう。古い浜の塩は柔らかで損なわない。これを大豆に加えて、世に味噌と呼ぶ。大豆の扱い方、煮る法、塩を加える法、あるいは麹米を交える定め、搗く定め、蓄える器の考えがある。わが国ではみな塩と味噌で汁を作り、飲み物の備えとする。米と味噌が脾胃を養う働きは非常に大きい。詳しく製法と用い方を考えて、その味を十分なものにすべきである。そして酢・醤油・酒、この三つの液体で野菜や魚肉の味を調える。だからこの三つの味を正すべきである。酢は血を生じ、酒は気を益し、醤油は飲食物をよく腑に下して収めさせる働きがある。野菜は味が淡く、脾胃を平らかにする。魚肉には血気を損なうものもあり、益するものもある。味には五味の種類があって、その質に良し悪しがある。においにも良し悪しがあって、気を損ないもし益しもする。最も詳しくその用い方を定めて、冷たい物には温かい物を加え、温かい物には冷たい物を入れて、その害を抑えるべきである。これらはみな飲食の用である。

解説

本条は日本の食の具体に入る。米は産地の土と気候で炊く水加減を変え、塩は古い浜の塩がよく、それを大豆に加えて味噌とする。米と味噌こそ脾胃を養う要で、酢・醤油・酒の三味で野菜や魚肉を調える。冷たい物と温かい物を組み合わせて害を抑えよ、という教えは、当時の本草・養生の知識を踏まえたものであろう。経書の礼を説いてきた素行が、ここでは日本の台所の実際に即して語っている点が興味深い。武士の家政は、日々の飯と汁を整えるところから始まるという実学の姿勢である。現代でも、主食と汁物と調味料を整えることが、毎日の体調を支える食の土台である。

この章句が説くこと

飲食養生家政味噌米節度

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