和俗童子訓 / 巻之五・教女子法
一女子には早く女功を敎ふべし。女功とは、織り、縫ひ、うみ、つむぎ、すゝぎ、洗ひ又は食を調ふるわざをいふ。女人は外事なし。かやうの女功を勤むるを以てしわざとす。殊に縫物するわざを能く習はしむべし。早く女のわざを敎へざれば、夫の家に行きて、わざを勤むる事ならず、人にそしられ笑はるゝものなり。父母となれるもの、心を用ふべし。
新字:一女子には早く女功を教ふべし。女功とは、織り、縫ひ、うみ、つむぎ、すゝぎ、洗ひ又は食を調ふるわざをいふ。女人は外事なし。かやうの女功を勤むるを以てしわざとす。殊に縫物するわざを能く習はしむべし。早く女のわざを教へざれば、夫の家に行きて、わざを勤むる事ならず、人にそしられ笑はるゝものなり。父母となれるもの、心を用ふべし。
書き下し
一女子には早く女功を教ふべし。女功とは、織り、縫ひ、うみ、つむぎ、すすぎ、洗ひ又は食を調ふるわざをいふ。女人は外事なし。かやうの女功を勤むるを以てしわざとす。殊に縫物するわざを能く習はしむべし。早く女のわざを教へざれば、夫の家に行きて、わざを勤むる事ならず、人にそしられ笑はるるものなり。父母となれるもの、心を用ふべし。
現代語訳
女子には早く女性の仕事を教えなさい。女性の仕事とは、機を織り、縫い、糸を紡ぎ、すすぎ洗い、また食事を整える仕事を言います。女性には外の仕事はありません。このような女性の仕事を勤めることを務めとします。特に縫い物をする仕事をよく習わせなさい。早く女性の仕事を教えなければ、夫の家に行って仕事を勤めることができず、人に謗られ笑われるものです。父母となった者は心を用いなさい。
解説
この章句が説くこと
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『和俗童子訓』巻之五・教女子法一女は人につかふるものなれば、父の家富貴なりとても、夫の家に行きては、其親の家に在りし時より、身をひきくして、舅姑にへりくだり、慎み仕へて、朝夕のつとめ怠るべからず。舅姑のために衣を縫ひ、食を調へ、我が家にては、夫に仕へて高ぶらず、自ら衣をたたみ、席をはき、食を調へ、うみ、つむぎ、縫物し、子を育て、けがれを洗ひ、婢多くとも、万の事に自ら辛労をこらへて勤むる、是婦人の職分なれば、我が位と身に応ぜぬほど、引きさがり勤むべし。斯のごとくすれば、しうと夫の心に叶ひ、家人の心を得て、能く家を保つ。又我が身に高ぶりて人をさし使ひ、勤むべき事に怠りて、身を安楽に置くは、しうとに憎まれ、下人に謗られて、人の心を失ひ、其家を能く治むる事なし。
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『和俗童子訓』巻之五・教女子法一およそ此十三ヶ条を、女子のいまだ嫁せざる前に、能く教ふべし。又書きつけて与へ、をりをり読ましめ、忘るることなく、これを守らしむべし。凡世の人の女子を嫁せしむるに、必、其家の分限に過ぎて、甚おごり、花美をなし、多くの財を費し用ひ、衣服器物などを、いくらも買ひととのへ、其余の饗応贈答のつひえも亦夥し、これ世の習はしなり。されど女子をいましめ教へて、其身を慎み治めしむること、衣服器物をかざれるより、女子のため甚利益ある事を知らず、幼き時より嫁して後に至るまで、何の教もなくて、唯其生れつきに任せぬれば、身を慎み家を治る道を知らず、夫の家に行きて、おごり怠り、しうと夫に順はずして、人に疎まれ、夫婦和順ならず。
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『和俗童子訓』巻之五・教女子法一男子は外に出でて、師に従ひ、物を学び、朋友に交り、世上の礼法を見聞するものなれば、親の教のみにあらず、外にて見聞する事多し。女子は常に内に居て、外に出でざれば、師友にしたがひて、道を学び、世上の礼義を見習ふべきやうなし。ひとへに親の教を以て、身を立つるものなれば、父母の教怠るべからず。親の教なくて育てぬる女は、礼義を知らず、女の道にうとく、女徳を慎まず、且女功のまなびなし。是皆父母の子を愛する道を知らざればなり。
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『和俗童子訓』巻之五・教女子法一七歳より和字を習はしめ、又をとこもじをも習はしむべし。淫思なき古歌を多く読ましめて、風雅の道を知らしむべし。是また男子の如く、初は数目有る句、短き事ども許多よみ覚えさせて後、孝経の首章、論語学而篇、曹大家が女誠など読ましめ、孝順貞潔の道を教ふべし。十歳より外に出ださず、閨門の内にのみ居て、おりぬひ、うみつむぐわざを習はしむべし。仮にも淫佚なる事を聞かせ知らしむべからず。小唄浄瑠理三味線の類、淫声を好めば、心をそこなふ。かやうの賤しきたはぶれたる事を以て、女子の心をなぐさむるはあしし。風雅なるよき事を習はしめて、心をなぐさむべし。此比の婦人は、淫声を好んで女子に教ふ。是甚風俗心術をそこなふ。幼き時悪しき事を見聞き習ひては、早く移り易し。
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『和俗童子訓』巻之五・教女子法かかる人は、婦人の職分を失ひ、後の幸なし。慎むべし。一いにしへ天子より以下、男は外を治め、女は内を治む。王后以下、皆内政を勤め行ひて、婦人の職分あり。今の世のならひ、富貴の家の婦女は、内を治むるつとめうとく、織縫の業におろそかなり。いにしへ我が日の本にては、かけまくもかしこき天照大神自ら神衣を織りたまひ、斎服殿にましましける。其御妹稚日女尊も亦しかり。是日本紀に記せり。もろこしにて、王后みづから玄紞を織り給ふ。公侯の夫人、位貴しといへども、皆自らきぬをおれり。今の士大夫の妻、安逸にほこりて女功を勤めざるは、古法にはあらず。
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『和俗童子訓』巻之五・教女子法一凡女子は、家にありては父母に事へ、夫に嫁しては、しうと夫に親しくなれ近づきて事ふる者なれば、其身をきよくして、けがらはしくすべからず。是また女子のつとむべきわざなり。一父母となる者、女子のいとけなきより、男女の別を正しくし、行儀をかたくいましめ教ふべし。父母の教なく、たはれたる行あれば、一生の身を徒にすて、名をけがし、父母兄弟に恥を与へ、見聞く人に爪はじきをせられん事こそ、口惜しく浅ましきわざなれ。万いみじくとも、塵ばかりもかかる事あらば、玉の盃のそこなきにも劣りなん。俗の諺に、万能一心と云へるも、かかる事なり。是を以て、女は心一つを貞しく潔くして、如何なる変にあひて、たとひ命を失ふとも、節義を堅く守るこそ、此生後の世までの面目ならめ。
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