和俗童子訓 / 巻之五・教女子法
黃帝の妃嫫母、齊の宣王の夫人無鹽は、何れも其容極めてみにくかりしかど、女德ありし故に、かしづき給ひ、君の助となられける。周の幽王の后褒姒、漢の成帝の趙飛燕、其妹趙婕妤、唐の玄宗の楊貴妃など、其容は勝れたれど、女德なかりしかば、皆天下のわざはひとなり、其身をも保たず。諸葛孔明は、好んで醜婦を娶られしが、色欲の迷なくて、智も志も、いよいよ精明なりしとかや。是を以て、婦人は心だによからんには、容みにくゝとも、かしづきもてなすべき理なれば、心ざまをひとへに愼み守るべし。其上、容は生れつきたれば、いかに見苦しとても變じ難し。心は惡しきを改めて、よきにうつさば、などか移らざらん。いにしへ張華が女史の箴とて、女の戒になれる文を作りしにも、人皆其容をかざる事を知りて、其性をかざる事を知る事なしと云へり。
新字:黄帝の妃嫫母、斉の宣王の夫人無塩は、何れも其容極めてみにくかりしかど、女徳ありし故に、かしづき給ひ、君の助となられける。周の幽王の后褒姒、漢の成帝の趙飛燕、其妹趙婕妤、唐の玄宗の楊貴妃など、其容は勝れたれど、女徳なかりしかば、皆天下のわざはひとなり、其身をも保たず。諸葛孔明は、好んで醜婦を娶られしが、色欲の迷なくて、智も志も、いよいよ精明なりしとかや。是を以て、婦人は心だによからんには、容みにくゝとも、かしづきもてなすべき理なれば、心ざまをひとへに慎み守るべし。其上、容は生れつきたれば、いかに見苦しとても変じ難し。心は悪しきを改めて、よきにうつさば、などか移らざらん。いにしへ張華が女史の箴とて、女の戒になれる文を作りしにも、人皆其容をかざる事を知りて、其性をかざる事を知る事なしと云へり。
書き下し
黄帝の妃嫫母、斉の宣王の夫人無塩は、何れも其容極めてみにくかりしかど、女徳ありし故に、かしづき給ひ、君の助となられける。周の幽王の后褒姒、漢の成帝の趙飛燕、其妹趙婕妤、唐の玄宗の楊貴妃など、其容は勝れたれど、女徳なかりしかば、皆天下のわざはひとなり、其身をも保たず。諸葛孔明は、好んで醜婦を娶られしが、色欲の迷なくて、智も志も、いよいよ精明なりしとかや。是を以て、婦人は心だによからんには、容みにくくとも、かしづきもてなすべき理なれば、心ざまをひとへに慎み守るべし。其上、容は生れつきたれば、いかに見苦しとても変じ難し。心は悪しきを改めて、よきにうつさば、などか移らざらん。いにしへ張華が女史の箴とて、女の戒になれる文を作りしにも、人皆其容をかざる事を知りて、其性をかざる事を知る事なしと云へり。
現代語訳
黄帝の妃の嫫母や、斉の宣王の夫人の無塩は、いずれも容姿がきわめて醜かったのですが、女徳があったので大切にされ、君主の助けとなりました。周の幽王の后の褒姒、漢の成帝の趙飛燕とその妹の趙婕妤、唐の玄宗の楊貴妃などは、容姿はすぐれていましたが、女徳がなかったので、皆天下の禍となり、その身も保てませんでした。諸葛孔明は好んで醜い妻を娶りましたが、色欲の迷いがなくて、知恵も志もいよいよ精しく明らかであったということです。こういうわけで、女性は心さえよければ、容姿が醜くても大切にもてなすべき道理ですから、心のあり方をひとえに慎み守りなさい。そのうえ容姿は生まれつきですから、どれほど見苦しくても変えがたいものです。心は悪いところを改めてよい方へ移せば、どうして移らないことがあるでしょうか。昔、張華が「女史箴」という女性の戒めの文を作った中にも、「人は皆その容姿を飾ることは知っているが、その性を飾ることは知らない」と言っています。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
-
『呻吟語』内篇・修身・心に城池有り、口に門戶有り心は城池有るを要し、口は門戶有るを要す。城池有れば則ち出でず、門戶有れば則ち縱にせず。
-
『呻吟語』外篇・天地・心は就ち是れ天なり心は就ち是れ天なり。心を欺くは便ち是れ天を欺くなり。心に事ふるは便ち是れ天に事ふるなり。更に須らく蒼蒼の上面に向かひて討むべからず。
-
『呻吟語』内篇・修身・心を大にし虛にし平にし潛め定む其の心を大にして天下の物を容れ、其の心を虛にして天下の善を受け、其の心を平にして天下の事を論じ、其の心を潛めて天下の理を觀、其の心を定めて天下の變に應ず。
-
『正法眼蔵随聞記』巻一示して云く、人は思ひ切て命をも棄て、身肉手足をも截ことは中々せくるゝなり、然あれば世間の事を思ふに、名利執心の為にも多くかくの如く思ひ切るなり、只依り来る時に、事に触れ物に随て、心品を調ふること難きなり、学者身命を捨ると思ふて、且くおしゝづめて、云ふべきことをも、修すべきことをも、道理に順ずるか順せざるかと案じて、道理に順せば云ひ、若くは行じもすべきなり、
-
『呻吟語』内篇・存心・心は天平のごとくならんことを要す心は天平のごとくならんことを要す。物を稱る時、物は忙しくして衡は忙しからず。物去る時、即ち懸空して此に在り。只だ恁く靜虛中正なれば、何等ぞ自在ならん。
-
『呻吟語』外篇・人情・心は二三を怕れ、情は一を怕る心は二三を怕れ、情は一を怕る。
人生の答えは、ぜんぶ古典に書いてあった。
古典の入門書『人生の教科書』(PDF)と、師導の全機能1か月がセットで700円。二十四の悩みに、論語・老子・孫子から徒然草・五輪書までが答えます。
本の中身を見る