和俗童子訓 / 巻之四・手習法
一世間通用の文字を知るべし。書跡よくしても、文字を知らざれば用をなさず。天地、人物、人事、制度、器財、本朝故實、鳥獸、蟲魚、草木等の名、およそ世間通用の文字を知るべし。世俗は、通用の文字を知るに、順和名抄、節用集、下學集などを用ふ。順和名抄は用ふべきこと多し、また誤多し、功過相半なり。節用集、下學集は誤多し、用ふべからず。世俗是等の書を用ふるゆゑ誤多し。近年印行せし訓蒙圖彙和爾雅、倭字通例書などを擇び用ふべし。今世俗の通用する漢名和名、誤甚多し。能く擇んで書くべし。
新字:一世間通用の文字を知るべし。書跡よくしても、文字を知らざれば用をなさず。天地、人物、人事、制度、器財、本朝故実、鳥獣、虫魚、草木等の名、およそ世間通用の文字を知るべし。世俗は、通用の文字を知るに、順和名抄、節用集、下学集などを用ふ。順和名抄は用ふべきこと多し、また誤多し、功過相半なり。節用集、下学集は誤多し、用ふべからず。世俗是等の書を用ふるゆゑ誤多し。近年印行せし訓蒙図彙和爾雅、倭字通例書などを択び用ふべし。今世俗の通用する漢名和名、誤甚多し。能く択んで書くべし。
書き下し
一世間通用の文字を知るべし。書跡よくしても、文字を知らざれば用をなさず。天地、人物、人事、制度、器財、本朝故実、鳥獣、虫魚、草木等の名、およそ世間通用の文字を知るべし。世俗は、通用の文字を知るに、順和名抄、節用集、下学集などを用ふ。順和名抄は用ふべきこと多し、また誤多し、功過相半なり。節用集、下学集は誤多し、用ふべからず。世俗是等の書を用ふるゆゑ誤多し。近年印行せし訓蒙図彙和爾雅、倭字通例書などを択び用ふべし。今世俗の通用する漢名和名、誤甚多し。能く択んで書くべし。
現代語訳
世間で通用する文字を知りなさい。筆跡がよくても、文字を知らなければ役に立ちません。天地・人物・人事・制度・器財・日本の故実・鳥獣・虫魚・草木などの名、およそ世間で通用する文字を知りなさい。世間では、通用の文字を知るのに、和名抄(源順の和名類聚抄)・節用集・下学集などを使います。和名抄は使うべきところが多いけれども、また誤りも多く、功と過が相半ばします。節用集・下学集は誤りが多いので、使ってはなりません。世間ではこれらの書を使うので誤りが多いのです。近年刊行された訓蒙図彙、和爾雅、倭字通例書などを選んで使いなさい。今、世間で通用している漢名と和名には、誤りがはなはだ多いのです。よく選んで書きなさい。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
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『和俗童子訓』巻之四・手習法一文字をかき、書を写すには、筆画をよく弁へ知りて、誤なかるべし。世俗の字を書くは、字画に甚誤多し。心を用ひて筆画を知るべし。字画を知るには説文を宗とし、玉篇の首巻、字彙の末巻、及び続字彙の内、字体弁微、黄元立が字考を以て誤を弁ずべし。字学にも亦心を用ふべし。
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『和俗童子訓』巻之四・手習法一凡字を書習ふには、真草共に、まづ手本を択び、風体を正しく定むべし。風体悪しくば、筆跡よしといへども、習はしむべからず。初学より、必風体すなほに、筆法正しき、古の能書の手跡を択んで、手本とすべし。悪筆と悪しき風体を習ひ、一度悪しきくせつきては、一生なほらず。後能書を習ひても改まらず。日本人のよき手跡を習ひ、世間通用に達せば、中華の書を学ばしむべし。然らざれば手跡進まず。唐筆を習ふには、まづ草訣百韻、王羲之十七帖、王献之鵝群帖、淳化法帖、王寵が千字文、黄庭経などを習はしむべし。また懐素が自叙帖、米元章が天馬賦などを学べば、筆力自由にはたらきてよし。
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『和俗童子訓』巻之四・手習法一和流唐流、共に古代の能書の上筆を求めて習ふべし。今時の俗筆をば習ふべからず。手本悪しければ、生れつきたる器用ありて、日々勤め学びても、見習ふべき法なくして、手跡進まず。器用もつとめも空しくなりて、一生悪筆にて終る。我が国の人、近世手跡拙きは、手習の法を知らざると、古代のよき手本を習はざる故なり。
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『和俗童子訓』巻之三・随年教法一今年の春より、真と草との文字を書きならはしむべし。はじめより風体正しき能書を学ばしむべし。手跡つたなく、風体悪しきを手本として習へば、悪しき事くせとなり、後に風体よき能書をならへども移らず。初は真草ともに、大字を書き習はしむべし、初より小字を書けば、手すくみて働かず。又此年より、早く文字を読み習はしむべし。孝経小学四書などの類の、文句長きむつかしきものは、初より読み難く、覚え難く、退屈し、学問を嫌ふ心出できて悪しし。まづ文句の短くして読易く、覚えやすきものを読ませ、そらに覚えさすべし。
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『和俗童子訓』巻之三・読書法まづ孝弟忠信礼義廉恥の字義を教へ、五常、五倫、五教、三綱、三徳、三事、四端、七情、四勿、五事、六芸、両儀、二気、三辰、四時、四方、四徳、四民、五行、十干、十二支、五味、五色、五音、二十四気、十二月の異名和名、四書、五経、三史の名目、本朝の六国史の名目、日本六十六州の名、其住せる国の郡の名、本朝の古の帝王の御諡、百官の名唐の三皇五帝三王の御名、歴代の国号等を、和漢名数の書にかき集め置けるを、そらに読み覚えさすべし。又鳥獣虫魚貝の類、草木の名を多く書き集めて読み覚えしむべし。此外に、覚えてよき事多し。そらに覚えざる事は用に立たず。又周南召南の詩、蒙求の本文五百九十八句、性理字訓の本編、三字経、千字類合、千家詩などの、句短く覚え易きものを教ふべし。
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『和俗童子訓』巻之三・読書法一小児の書を読むに、文字を多く覚えざれば、書を読むに力なくして、学問進まず。又文字を知らざれば、すべて世間の事に通ぜず。芸など習ふにも、文字を知らざれば、其理にくらくして、ひが事多し。文字を知れらば、又其文義を心に懸けて通し知るべし。
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