和俗童子訓 / 巻之三・随年教法
一今年の春より、眞と草との文字を書きならはしむべし。はじめより風體正しき能書を學ばしむべし。手跡つたなく、風體惡しきを手本として習へば、惡しき事くせとなり、後に風體よき能書をならへども移らず。初は眞草ともに、大字を書き習はしむべし、初より小字を書けば、手すくみて働かず。又此年より、早く文字を讀み習はしむべし。孝經小學四書などの類の、文句長きむつかしきものは、初より讀み難く、覺え難く、退屈し、學問を嫌ふ心出できて惡しゝ。まづ文句の短くして讀易く、覺えやすきものを讀ませ、そらに覺えさすべし。
新字:一今年の春より、真と草との文字を書きならはしむべし。はじめより風体正しき能書を学ばしむべし。手跡つたなく、風体悪しきを手本として習へば、悪しき事くせとなり、後に風体よき能書をならへども移らず。初は真草ともに、大字を書き習はしむべし、初より小字を書けば、手すくみて働かず。又此年より、早く文字を読み習はしむべし。孝経小学四書などの類の、文句長きむつかしきものは、初より読み難く、覚え難く、退屈し、学問を嫌ふ心出できて悪しゝ。まづ文句の短くして読易く、覚えやすきものを読ませ、そらに覚えさすべし。
書き下し
一今年の春より、真と草との文字を書きならはしむべし。はじめより風体正しき能書を学ばしむべし。手跡つたなく、風体悪しきを手本として習へば、悪しき事くせとなり、後に風体よき能書をならへども移らず。初は真草ともに、大字を書き習はしむべし、初より小字を書けば、手すくみて働かず。又此年より、早く文字を読み習はしむべし。孝経小学四書などの類の、文句長きむつかしきものは、初より読み難く、覚え難く、退屈し、学問を嫌ふ心出できて悪しし。まづ文句の短くして読易く、覚えやすきものを読ませ、そらに覚えさすべし。
現代語訳
今年(八歳)の春から、楷書と草書の文字を書き習わせなさい。初めから字の形の正しい能書家の字を学ばせなさい。字がつたなく形の悪いものを手本にして習えば、悪いことが癖になり、後で形のよい能書家の字を習っても移りません。初めは楷書も草書も、大きな字を書き習わせなさい。初めから小さな字を書くと、手がすくんで働きません。またこの年から、早く文字を読み習わせなさい。孝経・小学・四書などの類で文句が長く難しいものは、初めから読みにくく覚えにくく、退屈して学問を嫌う心が出てきて悪いのです。まず文句が短くて読みやすく、覚えやすいものを読ませ、暗記させなさい。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
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『和俗童子訓』巻之三・随年教法一十歳、此年より師に随はしめ、まづ五常の理五倫の道、あらあら言ひ聞かせ、聖賢の書を読み、学問せしむべし。読む所の書の内、まづ義理の聞え易くさとし易き、切要なる所を説き聞かすべし。是より後、やうやく小学四書五経を読むべし。又其ひまに、文武の芸術をも習はしむべし。世俗は、十一歳の比、やうやう初て手習など教ふ。遅しと云ふべし。教は早からざれば、心すさみ気あれて、教を嫌ひ、怠にならひて、勤め学ぶ事難し。
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『和俗童子訓』巻之四・手習法一小児の時より、大字を多く書習へば、手くつろぎはたらきてよし。小字を書きて、大字を書かざれば手すくみてはたらかず。字を習ふに、紙を惜まず、大に書くべし。大に書習へば、手はたらきて自由になり、又年長じて後、大字を書くに善し。もし小字のみを書習へば、手腕すくみて、長じて後、大字を書く事なり難し。手習ふには、悪しき筆にて書くべし。後に筆をえらばずして善し。もしよき筆にて書習へば、後悪しき筆にて書く時、筆跡悪しし。時々よき紙に書くべし。悪しき紙にのみ書習へば、よき紙に書く時、手すくみてはたらかず。真字を書く法、大なる字はつづめて小ならしめ、小字はのべて大ならしめ、短字は長く長字は短くすべし。横の筆画は細きがよし。竪の筆画はあらきがよし。横に二字合せて一とする字は、ひろくすべからず。上下二字合せて一とする字は、長くすべからず。疎は密に、密は疎なるべし。骨多きに宜し、肉多きに宜しからず。皆是筆法の習ひなり。
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『和俗童子訓』巻之三・随年教法一六歳の正月、始て一二三四五六七八九十百千万億の数の名と、東西南北の方の名とを教へ、其生れつきの利鈍をはかりて、六七歳より、和字を読ませ、書きならはしむべし。はじめて和字を教ふるに、あいうえお五十韻を平がなに書きて、たてよこに読ませ書きならはしむ。又世間往来のかなの文の手本をならはしむべし。此年ころより、尊長を敬ふ事を教へ、尊卑長幼のわかちをも知らしめ、ことばづかひをも教ふべし。一七歳、是より男女席を同じくしてならび坐せず、食を共にせず。此ころ、小児の少し智出来、言ふことをきき知るほどならば、其智をはかり、年に宜しきほど、やうやく礼法を教ふべし。又和字のよみかきをも習はしむべし。
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『和俗童子訓』巻之四・手習法世俗文盲なる人、真書を早く学べば、手腕すくむと云ふは誤なり。是書法を知らざる人の言ふ事なり。初学より真書を能く書習ふべし。初学の時、真草ともに小字のみ書きて、大字を書かざれば、手すくみてはたらかず。故に初て手習ふには、真草ともに大に書くべし。其後には、次第に細字をも書習ふべし。手のすくむとはたらくとは、習字の大小にあり、真草によらず。
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『和俗童子訓』巻之三・読書法一小児に初て書を授くるには、文句を長く教ふべからず。一句二句教ふ。また一度に多く授くべからず。多ければ覚え難く、覚えても堅固ならず、其上厭ひ倦んで学を嫌ふ。必退屈せざるやうに、少しづつ授くべし。其教へやうは、初は唯一字二字三字づつ字を知らしむべし。其後、一句づつ教ふべし。既に字を知り句を覚えば、小児をして自ら読ましむべし。両句を教ふるには、まづ一句を読み覚えさせ、熟読すれば、次の句を又右の如くに読ましめ、既に熟読して、前句と後句と通読せしめて止むべし。如此する事数日にして、後又一両句づつ、漸に添へて授くべし。其後授くるに、やうやく字多ければ、分つて二三次となして、授け読ましめ、其二三次、各熟読して、合せて通読せしむ。もし其中覚え難き所あらば、其所ばかり又数遍読ましむ。又甚読み易き所をば、分ち読む時は読むべからず。是省功の法なり。
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『和俗童子訓』巻之三・読書法一小児の文学の教は、事しげくすべからず、事しげく、文句多くしてむつかしければ、学問を苦みて、うとんじ嫌ふ心出来る事あり。故に簡要をえらびて、事少なく教ふべし。少しづつ教へ、よみ習ふ事を嫌はずして、すき好むやうに教ふべし。むつかしく辛労にして、其気を屈せしむべからず。日々のつとめの課程を、よきほどに短く定めて、日々に怠りなく進むべし。凡小児を教ふるには、必師あるべし。もし外の師なくば、其父兄自ら日々の課程を定めて、読ましむべし。父兄辛労せざれば、教行はれず。一初て書を読むには、まづ文句短くして、読み易く覚え易き事を教ふべし。初より文句長き事を教ふれば、退屈し易し。易きを先にし、難きを後にすべし。
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