和俗童子訓 / 巻之四・手習法
一凡文字を書習ふに、高く墨を取り、端正にすりて、すり口をゆがむべからず。手をけがす事勿れ。高く筆を取り、雙鈎し、端正に字を書くべし。雙鈎とは筆の取りやうなり。凡字を書くに、一筆一畫平正分明にして、老草に書くべからず。老草とは、平正ならず、わがまゝに疎忽に書くをいふ。手本を能く見て、違はざるやうに、しづかに學ぶべし。才に任せ達者ぶりして、老草に書けば、手跡あがらず。書を寫し習ふに平正に書くべし。常の書札など書くにも、手習と思ひて、愼みて正しく書くべし。斯の如くすれば、手跡進み易し。手を習ふには、まづ筆の取りやうを知るべし。
新字:一凡文字を書習ふに、高く墨を取り、端正にすりて、すり口をゆがむべからず。手をけがす事勿れ。高く筆を取り、双鈎し、端正に字を書くべし。双鈎とは筆の取りやうなり。凡字を書くに、一筆一画平正分明にして、老草に書くべからず。老草とは、平正ならず、わがまゝに疎忽に書くをいふ。手本を能く見て、違はざるやうに、しづかに学ぶべし。才に任せ達者ぶりして、老草に書けば、手跡あがらず。書を写し習ふに平正に書くべし。常の書札など書くにも、手習と思ひて、慎みて正しく書くべし。斯の如くすれば、手跡進み易し。手を習ふには、まづ筆の取りやうを知るべし。
書き下し
一凡文字を書習ふに、高く墨を取り、端正にすりて、すり口をゆがむべからず。手をけがす事勿れ。高く筆を取り、双鈎し、端正に字を書くべし。双鈎とは筆の取りやうなり。凡字を書くに、一筆一画平正分明にして、老草に書くべからず。老草とは、平正ならず、わがままに疎忽に書くをいふ。手本を能く見て、違はざるやうに、しづかに学ぶべし。才に任せ達者ぶりして、老草に書けば、手跡あがらず。書を写し習ふに平正に書くべし。常の書札など書くにも、手習と思ひて、慎みて正しく書くべし。斯の如くすれば、手跡進み易し。手を習ふには、まづ筆の取りやうを知るべし。
現代語訳
およそ文字を書き習うには、墨を高く持ってまっすぐに磨り、磨り口をゆがめてはなりません。手を汚してはなりません。筆を高く持ち、双鉤にして、正しく字を書きなさい。双鉤とは筆の持ち方です。およそ字を書くには、一筆一画を平らかに正しくはっきりさせて、「老草」に書いてはなりません。老草とは、平正でなく、勝手気ままにぞんざいに書くことを言います。手本をよく見て、違わないように、静かに学びなさい。才に任せ、達者ぶって老草に書けば、筆跡は上がりません。書物を写し習うにも平正に書きなさい。ふだんの手紙などを書くにも、手習いだと思って、慎んで正しく書きなさい。このようにすれば、筆跡は進みやすいのです。字を習うには、まず筆の持ち方を知りなさい。
解説
この章句が説くこと
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『和俗童子訓』巻之四・手習法一小児の時より、大字を多く書習へば、手くつろぎはたらきてよし。小字を書きて、大字を書かざれば手すくみてはたらかず。字を習ふに、紙を惜まず、大に書くべし。大に書習へば、手はたらきて自由になり、又年長じて後、大字を書くに善し。もし小字のみを書習へば、手腕すくみて、長じて後、大字を書く事なり難し。手習ふには、悪しき筆にて書くべし。後に筆をえらばずして善し。もしよき筆にて書習へば、後悪しき筆にて書く時、筆跡悪しし。時々よき紙に書くべし。悪しき紙にのみ書習へば、よき紙に書く時、手すくみてはたらかず。真字を書く法、大なる字はつづめて小ならしめ、小字はのべて大ならしめ、短字は長く長字は短くすべし。横の筆画は細きがよし。竪の筆画はあらきがよし。横に二字合せて一とする字は、ひろくすべからず。上下二字合せて一とする字は、長くすべからず。疎は密に、密は疎なるべし。骨多きに宜し、肉多きに宜しからず。皆是筆法の習ひなり。
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『和俗童子訓』巻之四・手習法一和流唐流、共に古代の能書の上筆を求めて習ふべし。今時の俗筆をば習ふべからず。手本悪しければ、生れつきたる器用ありて、日々勤め学びても、見習ふべき法なくして、手跡進まず。器用もつとめも空しくなりて、一生悪筆にて終る。我が国の人、近世手跡拙きは、手習の法を知らざると、古代のよき手本を習はざる故なり。
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『和俗童子訓』巻之四・手習法一凡字を書習ふには、真草共に、まづ手本を択び、風体を正しく定むべし。風体悪しくば、筆跡よしといへども、習はしむべからず。初学より、必風体すなほに、筆法正しき、古の能書の手跡を択んで、手本とすべし。悪筆と悪しき風体を習ひ、一度悪しきくせつきては、一生なほらず。後能書を習ひても改まらず。日本人のよき手跡を習ひ、世間通用に達せば、中華の書を学ばしむべし。然らざれば手跡進まず。唐筆を習ふには、まづ草訣百韻、王羲之十七帖、王献之鵝群帖、淳化法帖、王寵が千字文、黄庭経などを習はしむべし。また懐素が自叙帖、米元章が天馬賦などを学べば、筆力自由にはたらきてよし。
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『和俗童子訓』巻之四・手習法一字を学ぶには、必まづ真書を大文字に書習ふべし。内閣字府の七十二筆を先うつすべし。次に行書を習ふべし。凡字を書習ふには、真行草共に古人の能書を法とすべし。東坡が曰、真は行を生じ、行は草を生ず。真は人の立つが如く、行は人の行くが如く、草は人の走るが如し。いまだ立たずして、能く行き能く走る者はあらじと云へり。是を以て見るに、真は本なり、草は末なり。唐土には、まづ真書より学ばしむる故に、字画正しく誤なし。倭俗は真字を学ばざる故に、文字を知らず、字画に誤多し。真書を学ばざれば、草書にも誤多し。本邦近代の先輩、さばかり能書の名を得たる人多けれど、真書を学ばざるゆゑ、其筆跡、真草共に多くは誤字あり、証とするに足らず。
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『和俗童子訓』巻之四・手習法一文字をかき、書を写すには、筆画をよく弁へ知りて、誤なかるべし。世俗の字を書くは、字画に甚誤多し。心を用ひて筆画を知るべし。字画を知るには説文を宗とし、玉篇の首巻、字彙の末巻、及び続字彙の内、字体弁微、黄元立が字考を以て誤を弁ずべし。字学にも亦心を用ふべし。
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『和俗童子訓』巻之四・手習法一筆ひたし過すべからず、又乾かすべからず。硯は時々あらひ、新水をかへ用ひ、ほこりを去るべし。墨をばやはらかにすり、筆をば強く執るべし。故に墨は病夫にすらせ、筆は壮夫に執らしむといふ。和流は是に異なり、筆をやはらかに執るなり。
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