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和俗童子訓 / 巻之二・総論下

一人のほめそしりには、道理に違へる事多し、悉く信ずべからず。愚なる人は、聞くに任せて信ず。人の言ふこと、我が思ふこと、必理に違ふこと多し。殊に少年の人は、智惠くらし。人の言へる事を悉く信じ、我が見る事を悉く正しとして、妄に人をほめそしるべからず。幼き時より、年老いておとなしき人、才學ある人、古今世變を知れる人になれ近づきて、其物語を聞き覺え、物に書きつけ置きて、忘るべからず。又疑はしき事をば、知れる人に尋ね問ふべし。ふるき事を知れる老人の物語を聞く事を好みて、嫌ふべからず。かやうにふるき事を好み聞きてきらはず、物事に志ある人は、後に必人にすぐるゝものなり。又老人をばむつかしとてきらひ、ふるき道々しき事、古の物語を聞きては、恨しく思ひ、其席にこらへず、陰にて謗り笑ふ、是凡俗の賤しき心なり。

新字:一人のほめそしりには、道理に違へる事多し、悉く信ずべからず。愚なる人は、聞くに任せて信ず。人の言ふこと、我が思ふこと、必理に違ふこと多し。殊に少年の人は、智恵くらし。人の言へる事を悉く信じ、我が見る事を悉く正しとして、妄に人をほめそしるべからず。幼き時より、年老いておとなしき人、才学ある人、古今世変を知れる人になれ近づきて、其物語を聞き覚え、物に書きつけ置きて、忘るべからず。又疑はしき事をば、知れる人に尋ね問ふべし。ふるき事を知れる老人の物語を聞く事を好みて、嫌ふべからず。かやうにふるき事を好み聞きてきらはず、物事に志ある人は、後に必人にすぐるゝものなり。又老人をばむつかしとてきらひ、ふるき道々しき事、古の物語を聞きては、恨しく思ひ、其席にこらへず、陰にて謗り笑ふ、是凡俗の賤しき心なり。

書き下し

一人のほめそしりには、道理に違へる事多し、悉く信ずべからず。愚なる人は、聞くに任せて信ず。人の言ふこと、我が思ふこと、必理に違ふこと多し。殊に少年の人は、智恵くらし。人の言へる事を悉く信じ、我が見る事を悉く正しとして、妄に人をほめそしるべからず。幼き時より、年老いておとなしき人、才学ある人、古今世変を知れる人になれ近づきて、其物語を聞き覚え、物に書きつけ置きて、忘るべからず。又疑はしき事をば、知れる人に尋ね問ふべし。ふるき事を知れる老人の物語を聞く事を好みて、嫌ふべからず。かやうにふるき事を好み聞きてきらはず、物事に志ある人は、後に必人にすぐるるものなり。又老人をばむつかしとてきらひ、ふるき道々しき事、古の物語を聞きては、恨しく思ひ、其席にこらへず、陰にて謗り笑ふ、是凡俗の賤しき心なり。

現代語訳

人のほめそしりには道理に合わないことが多いので、全部を信じてはなりません。愚かな人は聞くままに信じます。人の言うことも、自分の思うことも、必ず道理に合わないことが多いのです。特に少年は知恵が暗いものです。人の言ったことを全部信じ、自分の見たことを全部正しいとして、むやみに人をほめたり謗ったりしてはなりません。幼い時から、年老いて分別のある人、才能や学識のある人、古今の世の移り変わりを知っている人に慣れ親しみ、その話を聞き覚え、物に書きつけておいて忘れてはなりません。また疑わしいことは、知っている人に尋ね問いなさい。古いことを知っている老人の話を聞くことを好んで、嫌ってはなりません。このように古いことを好んで聞き、嫌わず、物事に志のある人は、後に必ず人にすぐれるものです。また老人を面倒だと嫌い、古い道理にかなった話や昔の物語を聞いては煩わしく思い、その席にいたたまれず、陰で謗り笑うのは、凡俗の卑しい心です。

解説

人の評判をうのみにしないことと、老人の話を好んで聞くことを勧めた条です。人の言葉も自分の考えも道理に外れることが多い、という自覚から始まる点に益軒の慎重さがあります。そのうえで、経験を積んだ人、学識のある人、世の移り変わりを知る人に近づき、話を書き留めておけと言います。晩年の益軒自身が、見聞を書き留めて多くの著作にまとめた人でした。先輩の経験談を面倒がらずに聞き記録することは、技術や知恵の継承が課題となっている今の職場にも大切な習慣です。

この章句が説くこと

見聞老人判断記録学問

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