和俗童子訓 / 巻之二・総論下
圍碁を好むもの、夜を打明しても、氣つまらざるを以て知るべし。又蒔繪師、彫物師、縫物師など、いと細なるむつかしき事に、日夜心力と眼力を盡す。かやうの業は、面白からざれども、家業なれば、勤めてすれども、未だ氣つまり病者となるといふ事を聞かず。むつかしきをきらひて、氣つまるといふは、孝弟の道、家業のしわざなどの、よき事をきらふ氣隨より起れり。是孝弟人倫の勤行はれずして、學問諸藝の稽古のならざる本なり。書を讀まざる人は、學問の事不案内なる白徒なれば、讀書學問すれば、氣つまり氣へりて、病者となり、命もちゞまると思へり。是其理を知らざる愚痴なる世俗のまよひなり。凡學問して、親に孝し、君に忠し、家業を勤め、身を立て、道を行ひ、よろづの功業をなすも、皆むつかしき事をきらはず、苦勞をこらへて、其わざを能く勤むるより成就せり。
新字:囲碁を好むもの、夜を打明しても、気つまらざるを以て知るべし。又蒔絵師、彫物師、縫物師など、いと細なるむつかしき事に、日夜心力と眼力を尽す。かやうの業は、面白からざれども、家業なれば、勤めてすれども、未だ気つまり病者となるといふ事を聞かず。むつかしきをきらひて、気つまるといふは、孝弟の道、家業のしわざなどの、よき事をきらふ気随より起れり。是孝弟人倫の勤行はれずして、学問諸芸の稽古のならざる本なり。書を読まざる人は、学問の事不案内なる白徒なれば、読書学問すれば、気つまり気へりて、病者となり、命もちゞまると思へり。是其理を知らざる愚痴なる世俗のまよひなり。凡学問して、親に孝し、君に忠し、家業を勤め、身を立て、道を行ひ、よろづの功業をなすも、皆むつかしき事をきらはず、苦労をこらへて、其わざを能く勤むるより成就せり。
書き下し
囲碁を好むもの、夜を打明しても、気つまらざるを以て知るべし。又蒔絵師、彫物師、縫物師など、いと細なるむつかしき事に、日夜心力と眼力を尽す。かやうの業は、面白からざれども、家業なれば、勤めてすれども、未だ気つまり病者となるといふ事を聞かず。むつかしきをきらひて、気つまるといふは、孝弟の道、家業のしわざなどの、よき事をきらふ気随より起れり。是孝弟人倫の勤行はれずして、学問諸芸の稽古のならざる本なり。書を読まざる人は、学問の事不案内なる白徒なれば、読書学問すれば、気つまり気へりて、病者となり、命もちぢまると思へり。是其理を知らざる愚痴なる世俗のまよひなり。凡学問して、親に孝し、君に忠し、家業を勤め、身を立て、道を行ひ、よろづの功業をなすも、皆むつかしき事をきらはず、苦労をこらへて、其わざを能く勤むるより成就せり。
現代語訳
囲碁を好む者が、夜を明かして打っても気がつまらないことからわかるでしょう。また蒔絵師・彫物師・縫物師などは、たいへん細かく難しい仕事に、日夜心の力と目の力を尽くします。このような仕事は面白くはないけれども、家業なので勤めて行いますが、いまだに気がつまって病人になったとは聞きません。面倒を嫌って「気がつまる」と言うのは、孝弟の道や家業の仕事などのよいことを嫌う気ままから起こるのです。これが、孝弟や人倫の勤めが行われず、学問や諸芸の稽古が身につかない根本です。書物を読まない人は学問のことを知らない素人なので、読書や学問をすれば気がつまり気が減って病人になり、命も縮むと思っています。これは道理を知らない、愚かな世俗の迷いです。およそ学問をして、親に孝行し、主君に忠を尽くし、家業を勤め、身を立て、道を行い、あらゆる功業を成すのも、皆面倒なことを嫌わず、苦労をこらえて、その仕事をよく勤めることから成就するのです。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
-
歎異抄・第十二条経釈を読み学せざる輩、往生不定の由のこと。この条、すこぶる不足言の義と言いつべし。 他力真実の旨を明かせる諸の聖教は、本願を信じ念仏を申さば仏に成る、そのほか何の学問かは往生の要なるべきや。 まことにこの理に迷えらん人は、いかにもいかにも学問して、本願の旨を知るべきなり。 経釈を読み学すといえども、聖教の本意を心得ざる条、もっとも不便のことなり。
-
人物志・體別夫れ學は材を成す所以なり、疏は情を推す所以なり。偏材の性は、移轉すべからず。
-
言志四録・南洲手抄学之を古訓に稽へ、問之を師友に質すは、人皆之を知る。学必ず之を躬に学び、問必ず諸を心に問ふは、其れ幾人有らんか。
-
言志四録・南洲手抄朝にして食はずば、昼にして饑う。少うして学ばずば、壮にして惑ふ。饑うるは猶忍ぶ可し、惑ふは奈何ともす可からず。
-
論語・為政篇子曰く、異端を攻むるは、斯れ害のみ。
-
説苑・建本子思曰わく、学は才を益す所以なり、礪は刃を致す所以なり。吾嘗て幽処して深く思うも、学の速やかなるに若かず。吾嘗て跂ちて望むも、高きに登りて博く見るに若かず。故に風に順いて呼べば、声疾しきを加えざれども聞く者衆し。丘に登りて招けば、臂長きを加えざれども見る者遠し。故に魚は水に乗り、鳥は風に乗り、草木は時に乗る。
人生の答えは、ぜんぶ古典に書いてあった。
古典の入門書『人生の教科書』(PDF)と、師導の全機能1か月がセットで700円。二十四の悩みに、論語・老子・孫子から徒然草・五輪書までが答えます。
本の中身を見る