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和俗童子訓 / 巻之一・総論上

又日本にては、算數は賤しき業なりとて、大家の子には敎へず。是國俗のあやまり、世の人の心得違へるなり。もろこしにて、古は天子より庶人まで、幼少より皆算數を習はしむ。大人も、國郡にあらゆる民數を計り、其年の土貢の入を計りて、來年出し用ふる分量を定めざれば、限なき欲に隨ひて、限ある財盡きぬれば、困窮に至る。是算を知らざればなり。又國土の人民の數を計り、米穀金銀の多少と、軍陣に人馬の數と糧食とをかんがへ、道里の遠近と、運送の勞費を計り、人數をたて、軍をやるも、みな算數を知らざれば行ひ難し。臣下に任せては、おろそかにして事違ふゆゑに、大人の子は、殊に自ら算數を知らでは、つとめにうとく、事缺くる事多し。是日用の切要なる事にして、必習ひ知るべき業なり。

新字:又日本にては、算数は賤しき業なりとて、大家の子には教へず。是国俗のあやまり、世の人の心得違へるなり。もろこしにて、古は天子より庶人まで、幼少より皆算数を習はしむ。大人も、国郡にあらゆる民数を計り、其年の土貢の入を計りて、来年出し用ふる分量を定めざれば、限なき欲に随ひて、限ある財尽きぬれば、困窮に至る。是算を知らざればなり。又国土の人民の数を計り、米穀金銀の多少と、軍陣に人馬の数と糧食とをかんがへ、道里の遠近と、運送の労費を計り、人数をたて、軍をやるも、みな算数を知らざれば行ひ難し。臣下に任せては、おろそかにして事違ふゆゑに、大人の子は、殊に自ら算数を知らでは、つとめにうとく、事欠くる事多し。是日用の切要なる事にして、必習ひ知るべき業なり。

書き下し

又日本にては、算数は賤しき業なりとて、大家の子には教へず。是国俗のあやまり、世の人の心得違へるなり。もろこしにて、古は天子より庶人まで、幼少より皆算数を習はしむ。大人も、国郡にあらゆる民数を計り、其年の土貢の入を計りて、来年出し用ふる分量を定めざれば、限なき欲に随ひて、限ある財尽きぬれば、困窮に至る。是算を知らざればなり。又国土の人民の数を計り、米穀金銀の多少と、軍陣に人馬の数と糧食とをかんがへ、道里の遠近と、運送の労費を計り、人数をたて、軍をやるも、みな算数を知らざれば行ひ難し。臣下に任せては、おろそかにして事違ふゆゑに、大人の子は、殊に自ら算数を知らでは、つとめにうとく、事欠くる事多し。是日用の切要なる事にして、必習ひ知るべき業なり。

現代語訳

また日本では、算数は賤しい業だといって、大家の子には教えません。これは国の風俗の誤りで、世の人の心得違いです。中国では、昔は天子から庶民まで、幼少から皆算数を習わせました。身分の高い人も、国や郡にいるすべての民の数を数え、その年の年貢の収入を計算して、来年支出する分量を定めなければ、限りのない欲に従って、限りある財が尽きてしまい、困窮に至ります。これは算数を知らないからです。また国の人民の数を数え、米穀や金銀の多少と、軍陣での人馬の数と兵糧とを考え、道のりの遠近と運送の労費を計算して、人数を定めて軍を進めるのも、皆算数を知らなければ行えません。臣下に任せきりにしては、いい加減になって事が食い違うので、身分の高い人の子は、特に自分で算数を知らなければ、勤めにうとく、事欠くことが多いのです。これは日々の用に切実なことで、必ず習い知るべき業です。

解説

算数を賤しい業として大名の子に教えない日本の風習を、益軒が正面から批判した条です。「入るを量りて出づるを為す」という礼記王制の財政の原則を背景に、年貢の収入を計算して支出を定めること、軍の人数・兵糧・運送費を見積もることなど、治める者こそ数字に通じねばならないと説きます。臣下任せでは事が狂うという指摘も鋭いものです。計数を実学として重んじた益軒の合理性がよく出ており、経営者が財務を人任せにしない大切さとして、そのまま現代に通じる教えです。

この章句が説くこと

算数財政倹約君主実学

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