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和俗男子訓 / 巻二・親しい友にも言葉を卑しくしない

一友とまじはるに、いかほど心やすくとも、とばをいやしくすることなかれ、數年を經ても、其しる人になりしときのやうにすべし、かゝれば、いつまでも、まじはり、たゆることなし、今の世の人を見るに、奴僕馬夫のよりあひのごとし、かく不敬にして、害を生ずるは、みづからまねく所なり、俗間の歌に「わがよきに人のあしきがあらばこそ人のあしきはわがあしきなり」、一友とまじはるに、あまりに、ふかくおもひ過せば、又それほどの恨生ずるなり、一むかし下京邊に、家富たる法師あり、平貞盛と友善、あるとき貞盛陸奧國よりのぼりて、かの僧がもとにゆきけるに、法師、いさゝかの事ありて、齋するよしをいひければ、貞盛家人等をば、私宅に歸して、たゞ一人、僧が家に宿しけり、夜半すぐるころ、盜十人ばかり、門をひらきて押入ければ、貞盛わざと、盜の中にまじはりて、財寶のなきかたに、をしへやりて、征矢をもつて、うしろより、二人射たをし、奧のかたにかけ入、鏑をつがひて、さん〱に射ければ、三人射ふせられ、殘る五人は、逃うせたり、射ふせられたる者の中に、息のかよふありしかば、かれに問ふて、其黨類を、とく〱誅しけり、此法師、よき友ありし故、おもはずして害を遁れたり、

新字:一友とまじはるに、いかほど心やすくとも、とばをいやしくすることなかれ、数年を経ても、其しる人になりしときのやうにすべし、かゝれば、いつまでも、まじはり、たゆることなし、今の世の人を見るに、奴僕馬夫のよりあひのごとし、かく不敬にして、害を生ずるは、みづからまねく所なり、俗間の歌に「わがよきに人のあしきがあらばこそ人のあしきはわがあしきなり」、一友とまじはるに、あまりに、ふかくおもひ過せば、又それほどの恨生ずるなり、一むかし下京辺に、家富たる法師あり、平貞盛と友善、あるとき貞盛陸奥国よりのぼりて、かの僧がもとにゆきけるに、法師、いさゝかの事ありて、斎するよしをいひければ、貞盛家人等をば、私宅に帰して、たゞ一人、僧が家に宿しけり、夜半すぐるころ、盗十人ばかり、門をひらきて押入ければ、貞盛わざと、盗の中にまじはりて、財宝のなきかたに、をしへやりて、征矢をもつて、うしろより、二人射たをし、奥のかたにかけ入、鏑をつがひて、さん〱に射ければ、三人射ふせられ、残る五人は、逃うせたり、射ふせられたる者の中に、息のかよふありしかば、かれに問ふて、其党類を、とく〱誅しけり、此法師、よき友ありし故、おもはずして害を遁れたり、

書き下し

一友とまじはるに、いかほど心やすくとも、とばをいやしくすることなかれ、數年を經ても、其しる人になりしときのやうにすべし、かゝれば、いつまでも、まじはり、たゆることなし、今の世の人を見るに、奴僕馬夫のよりあひのごとし、かく不敬にして、害を生ずるは、みづからまねく所なり、俗間の歌に「わがよきに人のあしきがあらばこそ人のあしきはわがあしきなり」、一友とまじはるに、あまりに、ふかくおもひ過せば、又それほどの恨生ずるなり、一むかし下京邊に、家富たる法師あり、平貞盛と友善、あるとき貞盛陸奧國よりのぼりて、かの僧がもとにゆきけるに、法師、いさゝかの事ありて、齋するよしをいひければ、貞盛家人等をば、私宅に歸して、たゞ一人、僧が家に宿しけり、夜半すぐるころ、盜十人ばかり、門をひらきて押入ければ、貞盛わざと、盜の中にまじはりて、財寶のなきかたに、をしへやりて、征矢をもつて、うしろより、二人射たをし、奧のかたにかけ入、鏑をつがひて、さん〱に射ければ、三人射ふせられ、殘る五人は、逃うせたり、射ふせられたる者の中に、息のかよふありしかば、かれに問ふて、其黨類を、とく〱誅しけり、此法師、よき友ありし故、おもはずして害を遁れたり、

現代語訳

友と交わるときは、どれほど親しくても、言葉遣いを卑しくしてはいけません。何年たっても、知り合ったばかりのときのようにするのがよく、そうすれば交わりはいつまでも絶えません。今の世の人を見ると、下男や馬方の寄り合いのようです。このように不敬で害を生むのは、自分で招いたことです。俗間の歌に「わがよきに人のあしきがあらばこそ人のあしきはわがあしきなり」とあります。また、友をあまりに深く思いすぎると、それだけの恨みも生じます。昔、下京あたりに裕福な法師がいて、平貞盛と親しくしていました。あるとき貞盛が陸奥国から上ってきて、その僧の家に行くと、法師は少し事情があって斎(僧の食事・法事)を営むというので、貞盛は家来たちを自分の屋敷に帰し、ただ一人で僧の家に泊まりました。夜中を過ぎるころ、盗人が十人ほど門を開けて押し入ってきたので、貞盛はわざと盗人の中にまじり、財宝のない方角を教えてやって、征矢で後ろから二人を射倒し、奥へ駆け入って鏑矢をつがえ、散々に射たところ、三人が射伏せられ、残る五人は逃げ失せました。射伏せられた者の中に息のある者がいたので、その者に問いただして、仲間をすぐに討ち取りました。この法師は、よい友がいたおかげで、思いがけず難を逃れたのです。

解説

親しさに甘えて言葉が崩れると、小さな無遠慮が積み重なり、いつか信頼を損ないます。原文は、よい友がいたおかげで難を逃れた法師の話を添えており、日ごろ礼を保った交わりが人を支える、という読み方ができます。管理職は、気心の知れた部下や同僚ほど、言葉遣いや頼み方の丁寧さを意識して見直したいものです。長く続く関係ほど、礼を欠かさないことが土台になります。

この章句が説くこと

和俗男子訓井沢蟠竜友人関係礼節言葉遣い平貞盛

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