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史記 / 范雎蔡沢列伝

卒聽范睢謀,使五大夫綰伐魏,拔懷。後二歲,拔邢丘。客卿范睢復說昭王曰:「秦韓之地形,相錯如繡。秦之有韓也,譬如木之有蠹也,人之有心腹之病也。天下無變則已,天下有變,其為秦患者孰大於韓乎?王不如收韓。」昭王曰:「吾固欲收韓,韓不聽,為之柰何?」對曰:「韓安得無聽乎?王下兵而攻滎陽,則鞏、成皋之道不通;北斷太行之道,則上黨之師不下。王一興兵而攻滎陽,則其國斷而為三。夫韓見必亡,安得不聽乎?若韓聽,而霸事因可慮矣。」王曰:「善。」且欲發使於韓。范睢日益親,復說用數年矣,因請閒說曰:「臣居山東時,聞齊之有田文,不聞其有王也;

新字:卒聴范睢謀,使五大夫綰伐魏,抜懐。後二歳,抜邢丘。客卿范睢復説昭王曰:「秦韓之地形,相錯如繍。秦之有韓也,譬如木之有蠹也,人之有心腹之病也。天下無変則已,天下有変,其為秦患者孰大於韓乎?王不如収韓。」昭王曰:「吾固欲収韓,韓不聴,為之柰何?」対曰:「韓安得無聴乎?王下兵而攻滎陽,則鞏、成皋之道不通;北断太行之道,則上党之師不下。王一興兵而攻滎陽,則其国断而為三。夫韓見必亡,安得不聴乎?若韓聴,而覇事因可慮矣。」王曰:「善。」且欲発使於韓。范睢日益親,復説用数年矣,因請閒説曰:「臣居山東時,聞斉之有田文,不聞其有王也;

書き下し

卒に范睢の謀を聴き、五大夫綰をして魏を伐たしめ、懐を抜く。後二歳、邢丘を抜く。客卿范睢また昭王に説きて曰く、「秦・韓の地形は、相錯はること繡の如し。秦の韓有るや、譬へば木の蠹有るが如く、人の心腹の病有るがごときなり。天下変無くんば則ち已む、天下変有らば、その秦の患ひと為る者、孰か韓より大ならんや。王は韓を収むるに如かず」と。昭王曰く、「吾固より韓を収めんと欲す、韓聴かず、これを為すこと柰何」と。対へて曰く、「韓安んぞ聴くこと無きを得んや。王、兵を下して滎陽を攻めば、則ち鞏・成皋の道通ぜず。北のかた太行の道を断たば、則ち上党の師下らず。王一たび兵を興して滎陽を攻めば、則ちその国断たれて三と為らん。夫れ韓は必ず亡ぶるを見ば、安んぞ聴かざるを得んや。若し韓聴かば、而して霸事因りて慮るべし」と。王曰く、「善し」と。且に使ひを韓に発せんとす。范睢日に益々親しまれ、また説きて用ひらるること数年、因りて閒を請ひて説きて曰く、「臣山東に居りし時、斉の田文有るを聞きて、その王有るを聞かず。

現代語訳

昭王はついに范睢の計略に従い、五大夫の綰に魏を討たせて、懐を落とした。二年後、邢丘を落とした。客卿の范睢はまた昭王に説いた。「秦と韓の地形は、刺繍の模様のように入り組んでいる。秦にとって韓があるのは、たとえれば木に虫が巣くい、人が腹の中に病を抱えているようなものだ。天下に変事がなければよいが、ひとたび変事が起これば、秦にとって韓より大きな心配の種はない。王は韓を取り込むのが一番だ。」昭王は言った。「わしもとより韓を取り込みたいが、韓が言うことを聞かない。どうすればよいか。」范睢は答えた。「韓が聞かないわけがない。王が兵を下して滎陽を攻めれば、鞏や成皋への道は通じなくなる。北の太行山の道を断てば、上党の軍は南へ下りてこられなくなる。王がひとたび兵を起こして滎陽を攻めれば、韓の国は分断されて三つになる。韓は自分が必ず滅びると見れば、どうして言うことを聞かないことがあろうか。もし韓が聞き入れれば、覇者となる事業もそこから考えることができる。」王は「よろしい」と言い、韓に使者を送ろうとした。范睢は日ごとにますます親しまれ、進言が用いられること数年に及んだので、人払いを願って説いた。「私が山東にいたころ、斉には田文(孟嘗君)がいることは聞いたが、斉に王がいることは聞かなかった。

解説

遠交近攻の策が実行に移され、范雎が次の一手を説く段です。秦はまず隣の魏から懐と邢丘を奪いました。范雎は続いて、刺繍のように入り組んだ秦と韓の国境を「木に巣くう虫、腹の中の病」にたとえ、韓を取り込むよう勧めます。滎陽を攻めれば韓は南北三つに分断されるので、必ず言うことを聞くという具体的な見通しも示しました。こうして信任を深めた范雎は、数年がかりで準備した本題、つまり太后と穣侯ら外戚の専横の問題を切り出すため、ついに人払いを願い出ます。最初の面会では側近の耳を気にして外交の話から入った范雎が、実績を積んでから最も危うい内政の話に入るという順序は、周到に計算されたものです。その冒頭の「斉には孟嘗君がいると聞いたが、王がいるとは聞かなかった」という一言は、次の段で「秦には太后・穣侯がいると聞くが、王がいるとは聞かない」と続きます。信頼を積み上げてから核心に触れるという進め方は、今の組織改革でも大切な段取りです。

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