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倭忠経 / 報國章第十七・当たり前の恩を忘れず、報いようと思う

報國章第十七人の臣たる者は。尤君より官をうけ。祿をたまふ。其官祿を以て。先祖の名をあげ。子孫をかゞやかし養ふ。此君恩の。高き事山のごとく。深き事淵のごとし。此高恩を忘れず。此恩を報とおもふは忠なり。され共不斷の事には。かならず由斷あるものなり。今たま〳〵。或は。一飯をあたふる人か。或はわづかの。惠をうくる人には。必これに報事を思ふは。人の常の心なり。然るに先祖より恩をうけ。身をやしなひ。子孫をたもつは。君の高恩なれ共。却て是をば。尋常の事なれば。おろそかに心得て。忠に怠れり。たとへば。月夜に道を步時は。月の影と云事を。おろそかにおもひ。闇夜に。松明をあたふる人をば。甚しくよろこぶ。猶これにおなじ。然れば。君の恩の。報じ難き事をおもひて。いねても覺ても。君をわすれず。一度この高恩を。報ぜん事をおもふべし。扨又。たとへ祿をうけずとても。其國に住ては。其國主の恩を。わするべからず。そのいはれは。亂國の民は。父母妻子安堵する事なく。家をやかれ。子を殺され。親子兄弟。ちり〴〵に逃かくる。然るを。父母妻子。何の難なく。住所をさらず。其國に安座する事。

新字:報国章第十七人の臣たる者は。尤君より官をうけ。禄をたまふ。其官禄を以て。先祖の名をあげ。子孫をかゞやかし養ふ。此君恩の。高き事山のごとく。深き事淵のごとし。此高恩を忘れず。此恩を報とおもふは忠なり。され共不断の事には。かならず由断あるものなり。今たま〳〵。或は。一飯をあたふる人か。或はわづかの。恵をうくる人には。必これに報事を思ふは。人の常の心なり。然るに先祖より恩をうけ。身をやしなひ。子孫をたもつは。君の高恩なれ共。却て是をば。尋常の事なれば。おろそかに心得て。忠に怠れり。たとへば。月夜に道を歩時は。月の影と云事を。おろそかにおもひ。闇夜に。松明をあたふる人をば。甚しくよろこぶ。猶これにおなじ。然れば。君の恩の。報じ難き事をおもひて。いねても覚ても。君をわすれず。一度この高恩を。報ぜん事をおもふべし。扨又。たとへ禄をうけずとても。其国に住ては。其国主の恩を。わするべからず。そのいはれは。乱国の民は。父母妻子安堵する事なく。家をやかれ。子を殺され。親子兄弟。ちり〴〵に逃かくる。然るを。父母妻子。何の難なく。住所をさらず。其国に安座する事。

書き下し

報國章第十七人の臣たる者は。尤君より官をうけ。祿をたまふ。其官祿を以て。先祖の名をあげ。子孫をかゞやかし養ふ。此君恩の。高き事山のごとく。深き事淵のごとし。此高恩を忘れず。此恩を報とおもふは忠なり。され共不斷の事には。かならず由斷あるものなり。今たま〳〵。或は。一飯をあたふる人か。或はわづかの。惠をうくる人には。必これに報事を思ふは。人の常の心なり。然るに先祖より恩をうけ。身をやしなひ。子孫をたもつは。君の高恩なれ共。却て是をば。尋常の事なれば。おろそかに心得て。忠に怠れり。たとへば。月夜に道を步時は。月の影と云事を。おろそかにおもひ。闇夜に。松明をあたふる人をば。甚しくよろこぶ。猶これにおなじ。然れば。君の恩の。報じ難き事をおもひて。いねても覺ても。君をわすれず。一度この高恩を。報ぜん事をおもふべし。扨又。たとへ祿をうけずとても。其國に住ては。其國主の恩を。わするべからず。そのいはれは。亂國の民は。父母妻子安堵する事なく。家をやかれ。子を殺され。親子兄弟。ちり〴〵に逃かくる。然るを。父母妻子。何の難なく。住所をさらず。其國に安座する事。

現代語訳

人の臣たる者は、君から官を受け、禄を賜ります。その官禄をもって、先祖の名を上げ、子孫を輝かせ養います。この君恩の高いことは山のようで、深いことは淵のようです。この高い恩を忘れず、この恩に報いようと思うのが忠です。けれども、常日頃のことには、必ず油断があるものです。今たまたま、一度の食事を与えてくれた人や、わずかな恵みを受けた人には、必ずこれに報いようと思うのは人の常の心です。ところが、先祖から恩を受け、身を養い、子孫を保つのは君の高い恩であるのに、かえってこれを当たり前のこととしておろそかに心得て、忠に怠ります。たとえば、月夜に道を歩くときは、月の光というものをおろそかに思い、闇夜に松明を与えてくれた人をたいそう喜ぶのと同じです。ですから、君の恩の報じがたいことを思い、寝ても覚めても君を忘れず、一度はこの高い恩に報いたいと思うべきです。さて、たとえ禄を受けなくても、その国に住んでいるなら、その国主の恩を忘れてはなりません。その理由は、乱れた国の民は、父母妻子が安心できず、家を焼かれ、子を殺され、親子兄弟が散り散りに逃げ隠れます。それなのに、父母妻子が何の難もなく、住所を去らず、その国に安座していられること、

解説

普段当たり前に受けている恩を、見えにくいがゆえに軽く扱ってしまう、という人間の傾向を突いています。月夜の月の光はありがたみが薄く、闇夜の松明には大喜びする、という比喩です。現代の職場でも、給与、安定した環境、仲間の協力といった日常の恩は、当たり前になり感謝が薄れます。管理職は、自分が受けている支えに目を向け、それに報いる姿勢を意識しましょう。上への不満より先に、受けている恩を数え直す習慣が、前向きな行動の土台になります。

この章句が説くこと

倭忠経南部立庵恩に報いる人材推挙利益忠

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