倭忠経 / 揚聖章第十三・主人の過ちを言いふらす不忠を戒める
主人のあやまちを。見出し。聞出し。世間まで云ふらす事。不忠の甚しき至極なり。凡もろ〴〵の國〻。家〻の惡き沙汰を。かたりつたふる事は。みな根本は。その家中より云いだせり。語る人は勿論の事なり。聞人にも罪あり。其子細は。我身の惡事を。人前にて云人あらば。默然としては。よもきかじ。そのごとく。主人の惡を云人あらば。身の惡のごとく。善にとりなし。且云人をはづかしめば。をのづから云人有べからず。大舜は。惡をかくして善をあぐと云て。一さいの人の辭の惡事をかくし。少き善にても。是をあらはし。おこなひ給ふと云へり。いかにいはんや。その國に居ては。大夫をだにも。そしらずとあるをや。しかるに主人の惡名を。他の人に披露せんや。かくのごとく。そしる我身は。朝夕の食物。風をふせぐ衣類まで。たれ人にうくるぞや。かゝる高恩を戴ながら。やゝもすれば主人をうらみ。剩しかりのゝしる。君君たらずといへ共。臣は以。臣たらずばあるべからずと云て。よし主人は惡とも。をのれは臣のみちを。行べき人たるに。己が惡をばをしかくし。主人の非をあらはすは。大なる不忠なり。扨また終にその家をおひ出されては。いよ〳〵主人のあしき事を工出し。さま〴〵に惡口す。みな是己が惡を。かくさん爲の謀なり。され共。明らかなる人に見せば。恥しき道ならずや。古は。舊君の爲に服すとて。たとへ祿をうけず。他國に居ても。古主のことを忘れず。喪の服を着るとあるをや。然れば君の明らかなる德あるをば。ひろく世間に云廣るは。大なる忠也。
新字:主人のあやまちを。見出し。聞出し。世間まで云ふらす事。不忠の甚しき至極なり。凡もろ〴〵の国〻。家〻の悪き沙汰を。かたりつたふる事は。みな根本は。その家中より云いだせり。語る人は勿論の事なり。聞人にも罪あり。其子細は。我身の悪事を。人前にて云人あらば。黙然としては。よもきかじ。そのごとく。主人の悪を云人あらば。身の悪のごとく。善にとりなし。且云人をはづかしめば。をのづから云人有べからず。大舜は。悪をかくして善をあぐと云て。一さいの人の辞の悪事をかくし。少き善にても。是をあらはし。おこなひ給ふと云へり。いかにいはんや。その国に居ては。大夫をだにも。そしらずとあるをや。しかるに主人の悪名を。他の人に披露せんや。かくのごとく。そしる我身は。朝夕の食物。風をふせぐ衣類まで。たれ人にうくるぞや。かゝる高恩を戴ながら。やゝもすれば主人をうらみ。剰しかりのゝしる。君君たらずといへ共。臣は以。臣たらずばあるべからずと云て。よし主人は悪とも。をのれは臣のみちを。行べき人たるに。己が悪をばをしかくし。主人の非をあらはすは。大なる不忠なり。扨また終にその家をおひ出されては。いよ〳〵主人のあしき事を工出し。さま〴〵に悪口す。みな是己が悪を。かくさん為の謀なり。され共。明らかなる人に見せば。恥しき道ならずや。古は。旧君の為に服すとて。たとへ禄をうけず。他国に居ても。古主のことを忘れず。喪の服を着るとあるをや。然れば君の明らかなる徳あるをば。ひろく世間に云広るは。大なる忠也。
書き下し
主人のあやまちを。見出し。聞出し。世間まで云ふらす事。不忠の甚しき至極なり。凡もろ〴〵の國〻。家〻の惡き沙汰を。かたりつたふる事は。みな根本は。その家中より云いだせり。語る人は勿論の事なり。聞人にも罪あり。其子細は。我身の惡事を。人前にて云人あらば。默然としては。よもきかじ。そのごとく。主人の惡を云人あらば。身の惡のごとく。善にとりなし。且云人をはづかしめば。をのづから云人有べからず。大舜は。惡をかくして善をあぐと云て。一さいの人の辭の惡事をかくし。少き善にても。是をあらはし。おこなひ給ふと云へり。いかにいはんや。その國に居ては。大夫をだにも。そしらずとあるをや。しかるに主人の惡名を。他の人に披露せんや。かくのごとく。そしる我身は。朝夕の食物。風をふせぐ衣類まで。たれ人にうくるぞや。かゝる高恩を戴ながら。やゝもすれば主人をうらみ。剩しかりのゝしる。君君たらずといへ共。臣は以。臣たらずばあるべからずと云て。よし主人は惡とも。をのれは臣のみちを。行べき人たるに。己が惡をばをしかくし。主人の非をあらはすは。大なる不忠なり。扨また終にその家をおひ出されては。いよ〳〵主人のあしき事を工出し。さま〴〵に惡口す。みな是己が惡を。かくさん爲の謀なり。され共。明らかなる人に見せば。恥しき道ならずや。古は。舊君の爲に服すとて。たとへ祿をうけず。他國に居ても。古主のことを忘れず。喪の服を着るとあるをや。然れば君の明らかなる德あるをば。ひろく世間に云廣るは。大なる忠也。
現代語訳
主人の過ちを見つけ出し、聞き出し、世間にまで言いふらすことは、不忠の甚だしい極みです。およそ諸国、諸家の悪い噂を語り伝えるのは、みな根本はその家中から言い出されたものです。語る人はもちろんですが、聞く人にも罪があります。その理由は、自分の悪事を人前で言う人があれば、黙っては聞いていられないでしょう。そのように、主人の悪を言う人があれば、自分の悪事のように善く取りなし、かつ言う人を恥じ入らせれば、自然と言う人はいなくなるはずです。大舜は、悪を隠して善を揚げるといって、すべての人の言葉の悪事を隠し、小さな善でもこれを表して行われたといいます。ましてや、その国に居ては大夫さえもそしらない、とあるではありませんか。それなのに、主人の悪名を他人に披露するでしょうか。そのようにそしる自分は、朝夕の食べ物や、風を防ぐ衣類まで誰から受けているのでしょう。このような高い恩を受けながら、ともすれば主人を恨み、あまつさえ叱り罵ります。君が君らしくなくても、臣は臣らしくなければならない、といいます。たとえ主人が悪くても、自分は臣の道を行うべき人であるのに、自分の悪は隠して、主人の非を表すのは、大きな不忠です。さらに、ついにその家を追い出されては、ますます主人の悪いことを企み出して、さまざまに悪口を言います。これはみな自分の悪を隠そうとする謀です。けれども、明らかな人に見られたら、恥ずかしいことではないでしょうか。古は、旧君のために喪服を着るといって、たとえ禄を受けず他国に居ても、古い主君のことを忘れず喪服を着るとあります。ですから、君の明らかな徳のあるところを広く世間に言い広めるのは、大きな忠です。
解説
この章句が説くこと
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『翁問答』上卷之本体充問曰士の孝行はいかゞ。師の曰かりそめにも二心なく、我身を棄てゝ君を愛敬する心を失はず職分を能保ち勤め、其長を敬ひ従ひ、傍輩にたのもしく偽りなく、人相和らかに懇ろにして、立ふるまひ言ばつき賤しからず、心立身持義理にかなひ、肝要の礼法芸能抔うとうとしからず、軍陣に臨か又は君長の難に逢へる時は、樊噲おも欺く程の武勇を出し、武功を立、其禄位を保ち、祭祀を守るは士の孝行の大槪なり。
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