導師導古典を学びたいすべての人に 法人向けワークシート法人向けワークシート

倭忠経 / 保孝行章第十・忠孝の報いと偽りの人が受ける苦しみ

同じ類にあたへて。なべて孝を衆人にすゝむるを至孝とは云へるなり。夫天は。善に福し。惡に禍する理なれば。忠孝を行人は。必富さかふべき事。是常なり。爰に凡人の。まよへる事あり。世間の人の中に。忠孝を行ひて。手前貧賤にて。困窮の人あり。是は理の變と云ものなり。たとへば。冬は寒く。夏は熱が常なれども。たま〱冬もあつく。夏も寒き事あり。然れ共。熱を冬の物とし。寒きを夏の物とはなし難。かくのごとくに。千に一の變をとりて。九百九十九の常をうたがふは。おろかなる人の事なり。忠孝の人。かならず福のいたるべき事。眼前の理なり。そのうへ。忠孝の心ある人は。他人も是を感じ。我心におひても。たれはづかしからず。心によこしまの念なければ。常住氣遣しき事なくして。その一心の樂しみ。何事かこれにまさらん。愚人はこのたのしみを知らず。外にはつねを守やうに見せて。內心には。さま〱巧あれば。あそこの僞。こゝのもとめに。一生を送り。そのいつはりを。人の知らん事をうれへて。一睡のねざめ。一飯の間も。心の安樂なる事なし。是たれがなすわざぞや。我と我身を。くるしめたるものなり。猶も此念やまざれば。天のとがめありて。其身も亡び。剩わざはひ。父母一類にをよぶ。不忠の不孝に至る事。明らかなることはりなり。

新字:同じ類にあたへて。なべて孝を衆人にすゝむるを至孝とは云へるなり。夫天は。善に福し。悪に禍する理なれば。忠孝を行人は。必富さかふべき事。是常なり。爰に凡人の。まよへる事あり。世間の人の中に。忠孝を行ひて。手前貧賤にて。困窮の人あり。是は理の変と云ものなり。たとへば。冬は寒く。夏は熱が常なれども。たま〱冬もあつく。夏も寒き事あり。然れ共。熱を冬の物とし。寒きを夏の物とはなし難。かくのごとくに。千に一の変をとりて。九百九十九の常をうたがふは。おろかなる人の事なり。忠孝の人。かならず福のいたるべき事。眼前の理なり。そのうへ。忠孝の心ある人は。他人も是を感じ。我心におひても。たれはづかしからず。心によこしまの念なければ。常住気遣しき事なくして。その一心の楽しみ。何事かこれにまさらん。愚人はこのたのしみを知らず。外にはつねを守やうに見せて。内心には。さま〱巧あれば。あそこの偽。こゝのもとめに。一生を送り。そのいつはりを。人の知らん事をうれへて。一睡のねざめ。一飯の間も。心の安楽なる事なし。是たれがなすわざぞや。我と我身を。くるしめたるものなり。猶も此念やまざれば。天のとがめありて。其身も亡び。剰わざはひ。父母一類にをよぶ。不忠の不孝に至る事。明らかなることはりなり。

書き下し

同じ類にあたへて。なべて孝を衆人にすゝむるを至孝とは云へるなり。夫天は。善に福し。惡に禍する理なれば。忠孝を行人は。必富さかふべき事。是常なり。爰に凡人の。まよへる事あり。世間の人の中に。忠孝を行ひて。手前貧賤にて。困窮の人あり。是は理の變と云ものなり。たとへば。冬は寒く。夏は熱が常なれども。たま〱冬もあつく。夏も寒き事あり。然れ共。熱を冬の物とし。寒きを夏の物とはなし難。かくのごとくに。千に一の變をとりて。九百九十九の常をうたがふは。おろかなる人の事なり。忠孝の人。かならず福のいたるべき事。眼前の理なり。そのうへ。忠孝の心ある人は。他人も是を感じ。我心におひても。たれはづかしからず。心によこしまの念なければ。常住氣遣しき事なくして。その一心の樂しみ。何事かこれにまさらん。愚人はこのたのしみを知らず。外にはつねを守やうに見せて。內心には。さま〱巧あれば。あそこの僞。こゝのもとめに。一生を送り。そのいつはりを。人の知らん事をうれへて。一睡のねざめ。一飯の間も。心の安樂なる事なし。是たれがなすわざぞや。我と我身を。くるしめたるものなり。猶も此念やまざれば。天のとがめありて。其身も亡び。剩わざはひ。父母一類にをよぶ。不忠の不孝に至る事。明らかなることはりなり。

現代語訳

同じ類の人に与えて、あまねく孝を多くの人にすすめるのを至孝というのです。そもそも天は、善に福を与え、悪に禍を与える理ですから、忠孝を行う人は必ず富み栄えるのが常です。ここに、凡人の迷うことがあります。世間の人の中に、忠孝を行いながら、暮らし向きが貧しく困窮している人がいます。これは理の変というものです。たとえば、冬は寒く夏は暑いのが常ですが、まれに冬も暑く、夏も寒いことがあります。しかし、暑さを冬のものとし、寒さを夏のものとは言い難いのです。このように、千に一つの変を取って、九百九十九の常を疑うのは、愚かな人のすることです。忠孝の人に必ず福が至るのは、目の前の道理です。そのうえ、忠孝の心のある人は、他人もこれに感じ、自分の心においても誰に対しても恥じず、心に邪な念がないので、いつも気遣わしいことがなく、その一心の楽しみは何ものにも勝ります。愚かな人はこの楽しみを知らず、外には常を守るように見せて、内心にはさまざまな企みがあるので、あちらの偽り、こちらの求めで一生を送り、その偽りを人に知られることを憂えて、一睡の目覚めにも、一食の間にも、心の安らぎがありません。これは誰のせいでしょうか。自分で自分を苦しめているのです。それでもこの念がやまなければ、天の咎めがあって身は滅び、さらに災いは父母一族に及びます。不忠が不孝に至ることは、明らかな道理です。

解説

誠実に生きれば報われるとは限らない、という現実の例外にも、この章は答えています。千に一つの例外を見て九百九十九の常を疑うのは愚かだ、という論法です。現代の職場でも、誠実な人が報われない場面は確かにあります。けれども長い目で見れば、信頼は積み上がります。もう一つの核心は、偽りの人は発覚を恐れて心が休まらないという指摘です。不正や隠し事を抱えた管理職は、いつも怯えて判断が鈍ります。気楽に眠れる仕事ぶりこそが、最大の財産です。

この章句が説くこと

倭忠経南部立庵忠孝誠実天道偽り

関連する章句

『人生の方程式』の表紙

人生を、一行の式にしてみた。

志×積×時×憤÷(1+執)+命。古典から導いた式『人生の方程式』と、二十四の悩みに古典が答える『人生の教科書』(PDF)、師導の全機能1か月がセットで700円です。

本の中身を見る
本2冊(人生の方程式・人生の教科書)+師導1か月=700円本を見る