倭忠経 / 政理章第七・政理章 徳で化し人を善へ導く
倭忠經卷下政理章第七それ下を治るに。化すると云事あり。化と云は。天地の氣の目に見へずして。自然と四季の。うつりかはる所をいふ。たとへば。春になれば。をのづから日もうらゝに。花も笑。草もめだち。偖いつとなく。草木も茂り。郭公おとづれ。やう〱夜寒になれば。蟲の音もあはれに。月さへ渡り。ほどなく時雨ふり。落葉ふり敷庭に霜雪。いとしろふふり。埋氣色。いつ。かくのごとくなる事を知らず。是を天地の化と云なり。君の民を治る事。德を以ほどこせば。いつ。かくのごとくなると云事をしらず。自然に善にうつり替も又かくのごとし。是を民を化すとは云へり。然れば孝行の子を見ては。我もそれを學びならひ。不孝なる人を見ては。心にいみにくみ。僞をいふ人を見ては。をのづから遠ざけ。善を好む人をば。一鄕一郡に賞翫すれば。いつともなく。天下平になるなり。是を國を治る。上とするなり。たとへば堯の民が。田を耕して食。井を掘て飲。帝の德何かあるぞと云へるは。能帝堯の德の。萬民におよび。下の化せられたるしるしなり。次には。下を治るに。それ〱の政を以て。かくのごとくなる事をば致せ。これ〱の事をば。いたすなと。法度を立て。國を治るは中なり。扨又上の掟にそむく者をば。忽刑罰を以て人を殺し。萬民のこらしめとするは下なり。
新字:倭忠経巻下政理章第七それ下を治るに。化すると云事あり。化と云は。天地の気の目に見へずして。自然と四季の。うつりかはる所をいふ。たとへば。春になれば。をのづから日もうらゝに。花も笑。草もめだち。偖いつとなく。草木も茂り。郭公おとづれ。やう〱夜寒になれば。虫の音もあはれに。月さへ渡り。ほどなく時雨ふり。落葉ふり敷庭に霜雪。いとしろふふり。埋気色。いつ。かくのごとくなる事を知らず。是を天地の化と云なり。君の民を治る事。徳を以ほどこせば。いつ。かくのごとくなると云事をしらず。自然に善にうつり替も又かくのごとし。是を民を化すとは云へり。然れば孝行の子を見ては。我もそれを学びならひ。不孝なる人を見ては。心にいみにくみ。偽をいふ人を見ては。をのづから遠ざけ。善を好む人をば。一郷一郡に賞翫すれば。いつともなく。天下平になるなり。是を国を治る。上とするなり。たとへば堯の民が。田を耕して食。井を掘て飲。帝の徳何かあるぞと云へるは。能帝堯の徳の。万民におよび。下の化せられたるしるしなり。次には。下を治るに。それ〱の政を以て。かくのごとくなる事をば致せ。これ〱の事をば。いたすなと。法度を立て。国を治るは中なり。扨又上の掟にそむく者をば。忽刑罰を以て人を殺し。万民のこらしめとするは下なり。
書き下し
倭忠經卷下政理章第七それ下を治るに。化すると云事あり。化と云は。天地の氣の目に見へずして。自然と四季の。うつりかはる所をいふ。たとへば。春になれば。をのづから日もうらゝに。花も笑。草もめだち。偖いつとなく。草木も茂り。郭公おとづれ。やう〱夜寒になれば。蟲の音もあはれに。月さへ渡り。ほどなく時雨ふり。落葉ふり敷庭に霜雪。いとしろふふり。埋氣色。いつ。かくのごとくなる事を知らず。是を天地の化と云なり。君の民を治る事。德を以ほどこせば。いつ。かくのごとくなると云事をしらず。自然に善にうつり替も又かくのごとし。是を民を化すとは云へり。然れば孝行の子を見ては。我もそれを學びならひ。不孝なる人を見ては。心にいみにくみ。僞をいふ人を見ては。をのづから遠ざけ。善を好む人をば。一鄕一郡に賞翫すれば。いつともなく。天下平になるなり。是を國を治る。上とするなり。たとへば堯の民が。田を耕して食。井を掘て飲。帝の德何かあるぞと云へるは。能帝堯の德の。萬民におよび。下の化せられたるしるしなり。次には。下を治るに。それ〱の政を以て。かくのごとくなる事をば致せ。これ〱の事をば。いたすなと。法度を立て。國を治るは中なり。扨又上の掟にそむく者をば。忽刑罰を以て人を殺し。萬民のこらしめとするは下なり。
現代語訳
倭忠経巻下。政理章第七。そもそも下を治めるのに、「化する」ということがあります。化というのは、天地の気が目に見えずに、自然と四季が移り変わるところをいいます。たとえば、春になれば自然と日もうららかに、花も咲き、草も芽立ち、さていつとなく草木も茂り、ほととぎすが訪れ、ようやく夜寒になれば虫の音もあわれに、月さえ渡り、ほどなく時雨が降り、落葉が降り敷いて庭に霜雪がいとしろく降り埋める景色が、いつこうなったかを知りません。これを天地の化といいます。君が民を治めるのに、徳をもって施せば、いつこうなったかも知らないうちに、自然と善に移り替わるのもまたこのとおりです。これを民を化すというのです。ですから孝行の子を見ては自分もそれを学び習い、不孝な人を見ては心に忌み憎み、偽りを言う人を見ては自然と遠ざけ、善を好む人を一郷一郡で賞賛すれば、いつともなく天下は平らかになります。これを国を治める上とするのです。たとえば、堯の民が田を耕して食べ、井戸を掘って飲み、「帝の徳が私に何の関わりがあろうか」と言ったのは、帝堯の徳が万民に及び、下が化せられたしるしです。次には、下を治めるのに、それぞれの政をもって、こうしなさい、ああしてはならないと法度を立てて国を治めるのは、中です。また上の掟にそむく者をたちまち刑罰で殺し、万民の見せしめとするのは、下です。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
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『倭忠経』・政理章第七・政理章 徳を本に政と刑を行う廣く德を施さゞれば。末々まで。君の心ゆきわたらず。久しくなければ。人化する事なし。尤德は國を治る本たり。故に德といふは。天理の根本たれば。政をするにも。此德を本として行へば。四海のはてまで行はれ。刑罰をおこなふにも。此德をもとゝすれば。殺人をうらむる事なし。然れば君子たる人は。此天道より生れ付たる德を。我物とするやうにおさめ給ひ。次には政に。私なきやうにとつゝしみ。偖刑罰は。隨分すくなきやうにと思案をめぐらす。かくのごとくすれば。諸人なつきて。國おさまらずと云事なし。然る處に。政をするにも。德を以てせざれば政の掟は有といへ共。內心に上をあなどるゆへ。德のほどこしうすし。刑をおこなふとても。德にうちまかせて行はざれば。人をそこなふ。愛を以て。上君子は。德をわが得物としてつとめ。その德を以て。政をおさめ。刑のまがらざるやうにとつゝしむべし。その眞實なるを。忠のみちとはいふ。さて忠をかたくとり守り。行ふ處一々信ありて怠らざれば。その下々の役人たるもの。かみを學び民を治め。たみも又。おのれ〱が所作を務れば。上下共にゆたかに治るなり。詩經にも。政を優々とゆたかにして。民をおさむれば。民また上をうやまひなつき。もろ〱の幸。かみの心に。したがひあつまると云へり。
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『倭忠経』・政理章第七・政理章 根から正し刑罰は少なくいかんとなれば。人々內心より必善にはうつらざれ共。上の刑罰を恐れて。惡をばなさずと云へ共。惡をせんと思ふ心は。內にかくせり。心より恥て惡をやむる事なし。たとへば草木の枝葉を。鎌にて刈すつるがごとし。一たんは拂といへ共。後より又生じ出づ。根引にすれば。生ずる事なし。人も內心より直からざれば。人のしらぬ所にては。又その惡念おこれり。然るゆへに。是を下とは云へるなり。扨刑罰と云事。かならずあしきにはあらず。大舜の時。四凶賊と云て。四人の惡人を罰し給ひ。孔子も少正卯といふ。惡人を殺し給へり。され共是はこと〲く。國をおさむる末なるによりて。此刑罰をば。隨分用ひぬやうにするが。國を治る干要なり。孟子の梁の襄王に。語給へるにも。人をころす事を。好まぬ人。必ず天下の主と。なるべしとのたまへり。偖亦政は。ことずくなに。するを以てよしとす。彼是箇條多時は。民煩多しいたみて。却て法をおかす者あり。漢の高祖。秦の都へうち入て。掟を定られしに。人を殺者をばころさん。人を破り。盜をせん者をば。罪に致べしと。其余はこと〲く。秦の始皇の。嚴しき法度をゆるされしかば。民悉なつきしたひて。終に天下のあるじとなり給ひしも。政の大やうなるより發るなり。偖亦德はずいぶんひろく。久しきやうにとするなり。
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