倭忠経 / 守宰章第五・守宰章 民を虐げず仁義を教える
民にからき法度號令を下さず。上の役に。つかふべき時にあたりてつかふ時にも。ずいぶん憐愍の心を以て。安樂ならしむるやうにつかふべし。第二には人富をこのまずと云事なし。然れば上の人。それをなしはかりて。年貢をかろく。諸役をうすくとる時は。民こと〲く望を得て。君の繁昌をあふぐなり。然るに民を虐は。上たる人の奢より發る。凡國郡を上よりたまふは。時の幸或は先祖の功を以。わづか預る所なり。然れば上の御下知を守り。國のたいらかなるやうにと治るは。國守たる人の第一の忠なり。しかるに。道に志なき人は。そのまゝ國を我物とし。あくまで淫酒をこのみ。かぎりある財寶を以て。かぎりなき驕に費時は。かならず民の物を貪下をいためざれば。手前の用要たる事なし。然るゆへに。さま〲の法度を立。諸役をからく。民の物をしめとり。身の爲には寶をおしまず。綾羅を身にまとひ。食に八珍をつらね。金玉をちりばめたる。殿閣に起臥。いはれざる邪なる業には少も多少の考なく。泥砂のごとく金銀をついやす。是みな民の膏なり。しかれば上の驕をやめ。民の妻子を。やすくはごくむ。工夫あるべし。扨そのごとく上君正くして。下々飢ず寒からぬうへに。道をしらねば。禽獸同前なれば。一郡一鄕の役人代官に。道しれる人をゑらみ。民に仁義の道をおしゆる時は。下々親に孝を盡し。君につかへ忠を行ひ。兄弟睦じく。朋友たがひに信を以て交り。不孝。不忠。不信の者をば。
新字:民にからき法度号令を下さず。上の役に。つかふべき時にあたりてつかふ時にも。ずいぶん憐愍の心を以て。安楽ならしむるやうにつかふべし。第二には人富をこのまずと云事なし。然れば上の人。それをなしはかりて。年貢をかろく。諸役をうすくとる時は。民こと〲く望を得て。君の繁昌をあふぐなり。然るに民を虐は。上たる人の奢より発る。凡国郡を上よりたまふは。時の幸或は先祖の功を以。わづか預る所なり。然れば上の御下知を守り。国のたいらかなるやうにと治るは。国守たる人の第一の忠なり。しかるに。道に志なき人は。そのまゝ国を我物とし。あくまで淫酒をこのみ。かぎりある財宝を以て。かぎりなき驕に費時は。かならず民の物を貪下をいためざれば。手前の用要たる事なし。然るゆへに。さま〲の法度を立。諸役をからく。民の物をしめとり。身の為には宝をおしまず。綾羅を身にまとひ。食に八珍をつらね。金玉をちりばめたる。殿閣に起臥。いはれざる邪なる業には少も多少の考なく。泥砂のごとく金銀をついやす。是みな民の膏なり。しかれば上の驕をやめ。民の妻子を。やすくはごくむ。工夫あるべし。扨そのごとく上君正くして。下々飢ず寒からぬうへに。道をしらねば。禽獣同前なれば。一郡一郷の役人代官に。道しれる人をゑらみ。民に仁義の道をおしゆる時は。下々親に孝を尽し。君につかへ忠を行ひ。兄弟睦じく。朋友たがひに信を以て交り。不孝。不忠。不信の者をば。
書き下し
民にからき法度號令を下さず。上の役に。つかふべき時にあたりてつかふ時にも。ずいぶん憐愍の心を以て。安樂ならしむるやうにつかふべし。第二には人富をこのまずと云事なし。然れば上の人。それをなしはかりて。年貢をかろく。諸役をうすくとる時は。民こと〲く望を得て。君の繁昌をあふぐなり。然るに民を虐は。上たる人の奢より發る。凡國郡を上よりたまふは。時の幸或は先祖の功を以。わづか預る所なり。然れば上の御下知を守り。國のたいらかなるやうにと治るは。國守たる人の第一の忠なり。しかるに。道に志なき人は。そのまゝ國を我物とし。あくまで淫酒をこのみ。かぎりある財寶を以て。かぎりなき驕に費時は。かならず民の物を貪下をいためざれば。手前の用要たる事なし。然るゆへに。さま〲の法度を立。諸役をからく。民の物をしめとり。身の爲には寶をおしまず。綾羅を身にまとひ。食に八珍をつらね。金玉をちりばめたる。殿閣に起臥。いはれざる邪なる業には少も多少の考なく。泥砂のごとく金銀をついやす。是みな民の膏なり。しかれば上の驕をやめ。民の妻子を。やすくはごくむ。工夫あるべし。扨そのごとく上君正くして。下々飢ず寒からぬうへに。道をしらねば。禽獸同前なれば。一郡一鄕の役人代官に。道しれる人をゑらみ。民に仁義の道をおしゆる時は。下々親に孝を盡し。君につかへ忠を行ひ。兄弟睦じく。朋友たがひに信を以て交り。不孝。不忠。不信の者をば。
現代語訳
民に厳しい法令や号令を下さず、上の役に使うべき時にも、できるだけ憐れみの心で、安楽にさせるように使いなさい。第二に、人は富を好まないということはありません。ですから上の人がそれを推し量って、年貢を軽く、諸役を薄くとるときは、民はことごとく望みを得て、君の繁昌を仰ぐのです。民を虐げるのは、上に立つ人の奢りから起こります。およそ国郡を上からいただくのは、時の幸い、または先祖の功によって、わずかに預かっているのです。ですから上の御下知を守り、国が平らかであるようにと治めるのが、国守たる人の第一の忠です。ところが道に志のない人は、そのまま国を自分の物とし、あくまで淫酒を好み、限りのある財宝で限りない奢りに費やすときは、必ず民の物を貪り、下を痛めなければ手元の入用が足りません。そのためさまざまな法度を立て、諸役を厳しくし、民の物を搾り取り、自分の身のためには宝を惜しまず、綾羅(美しい絹)を身にまとい、食事には八珍(珍味)を並べ、金玉をちりばめた殿閣に起き伏しし、いわれのない邪な業には少しも多少の考えなく、泥や砂のように金銀を費やします。これはみな民の膏血です。ですから上が奢りをやめ、民の妻子を安らかに養う工夫をすべきです。さて上君が正しくして、下々が飢えず寒がらないうえに、道を知らなければ禽獣と同じですから、一郡一郷の役人や代官に道を知る人を選び、民に仁義の道を教えるときは、下々は親に孝を尽くし、君に仕えて忠を行い、兄弟は睦まじく、朋友はお互いに信をもって交わり、不孝・不忠・不信の者を、
解説
この章句が説くこと
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『倭忠経』・守宰章第五・守宰章 心を磨き私欲に染まらぬ統治守宰章第五一國一郡を治る人は。先その國郡に有て。本心を明らかにみがき立よ。扨その心をみがくどびふは。生れながら明らかなる人は。もろ〱の中に。ひとり聖人のみなり。聖人より下たるものは。我よりさきに道を知り。賢なる人にむつび近付。四書五經其外正理の書をよませ。心に會得し。其みちをすきこのめば。をのづから本心きよくなれり。凡學問と云は。書をよむのみならんや。學問の根本は人々の心をみがき。己を治め人を治むべき爲に。いにしへの聖賢。文字にかきあらはせり。然れば一文不通の人なり共。道を聞て身に行はゞ。是則學問者なり。しかりとて必書をよむなとにはあらず。是は我文盲にかこつけ。道に志なき人の爲に云へり。もとより書物をひろく見は。聖賢のふかきころゝと。事に當りてよろしきに叶みちとを。いよ〱知り給ひなん。さて上たる人。かくのごとく。心を明らかにみがき立。その行事に臨ては。上下親疎に依怙負最なく。一國の政を平かにして。身をみちのうへにをしたて。私欲にけがれず。潔くすべし。我身をいさぎよくつゝしめば。自然と無欲なり。政に依怙負最なければ。一國の風俗正し。此心をみがくと。政を平かにすると。無欲なるとの三つ備りて。一國一郡の守護となりて。百姓をおさむべし。扨百姓を治る根本は。民の心を推量して。ほどこし行べし。第一なべての人。安らかなる事を。好まずと云事なし。故に國守たる人は。
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