倭忠経 / 兆人章第六・兆人章 庶民の忠は分に応じた務め
兆人章第六をよそ。天地の太平におさまるは。上君の德によつてなり。君の德明らかなれば。天地の氣も調て。或は飢饉。疫癘。大風。洪水なし。此ゆへに。春夏秋冬の氣順にして。ふく風枝をならさず。降雨。つちくれをながさず。時分相應の氣。をしうつるゆへに。耕作豐年にて。民飢寒の愁なく。上の掟を守り。家にしては父につかへ。弟は。兄に順。それ〱に道を守り。家職をつとめて。上の貢をそなふ。扨その家に生れて。己がせずしてかなはぬ道あり。先奉公をする人は。たとへ一僕の身たり共。晝夜をわかたず。主人につかへて。私なく身をおしまず。農は四時に。それ〱の土地を見はからひ。耕耘事を情に入。工は家の細工の。上手なるやうにと工夫しおこたらず。商は。賣買のみちをよく覺へ。父母を養ひ。妻子をはごくみ。外にしては上の法度を守り。年貢諸役を懈怠なく。分際相應の家をおさむるを。庶人の忠と云へり。己が分をわすれ。相應を越て。世間を僞驕て。家職をつとめざれば。己が所作のうときのみならず。却て禍をまねき。或は父母親類。あるひは。主人に難義をかけ。科におつるにおよんで。上の法度をうらむるは。民の罪にして。是を不忠と云へり。右に云へるごとく。天地もそれ〱の役あり。鳥獸も。分々の道をつとむ。
新字:兆人章第六をよそ。天地の太平におさまるは。上君の徳によつてなり。君の徳明らかなれば。天地の気も調て。或は飢饉。疫癘。大風。洪水なし。此ゆへに。春夏秋冬の気順にして。ふく風枝をならさず。降雨。つちくれをながさず。時分相応の気。をしうつるゆへに。耕作豊年にて。民飢寒の愁なく。上の掟を守り。家にしては父につかへ。弟は。兄に順。それ〱に道を守り。家職をつとめて。上の貢をそなふ。扨その家に生れて。己がせずしてかなはぬ道あり。先奉公をする人は。たとへ一僕の身たり共。昼夜をわかたず。主人につかへて。私なく身をおしまず。農は四時に。それ〱の土地を見はからひ。耕耘事を情に入。工は家の細工の。上手なるやうにと工夫しおこたらず。商は。売買のみちをよく覚へ。父母を養ひ。妻子をはごくみ。外にしては上の法度を守り。年貢諸役を懈怠なく。分際相応の家をおさむるを。庶人の忠と云へり。己が分をわすれ。相応を越て。世間を偽驕て。家職をつとめざれば。己が所作のうときのみならず。却て禍をまねき。或は父母親類。あるひは。主人に難義をかけ。科におつるにおよんで。上の法度をうらむるは。民の罪にして。是を不忠と云へり。右に云へるごとく。天地もそれ〱の役あり。鳥獣も。分々の道をつとむ。
書き下し
兆人章第六をよそ。天地の太平におさまるは。上君の德によつてなり。君の德明らかなれば。天地の氣も調て。或は飢饉。疫癘。大風。洪水なし。此ゆへに。春夏秋冬の氣順にして。ふく風枝をならさず。降雨。つちくれをながさず。時分相應の氣。をしうつるゆへに。耕作豐年にて。民飢寒の愁なく。上の掟を守り。家にしては父につかへ。弟は。兄に順。それ〱に道を守り。家職をつとめて。上の貢をそなふ。扨その家に生れて。己がせずしてかなはぬ道あり。先奉公をする人は。たとへ一僕の身たり共。晝夜をわかたず。主人につかへて。私なく身をおしまず。農は四時に。それ〱の土地を見はからひ。耕耘事を情に入。工は家の細工の。上手なるやうにと工夫しおこたらず。商は。賣買のみちをよく覺へ。父母を養ひ。妻子をはごくみ。外にしては上の法度を守り。年貢諸役を懈怠なく。分際相應の家をおさむるを。庶人の忠と云へり。己が分をわすれ。相應を越て。世間を僞驕て。家職をつとめざれば。己が所作のうときのみならず。却て禍をまねき。或は父母親類。あるひは。主人に難義をかけ。科におつるにおよんで。上の法度をうらむるは。民の罪にして。是を不忠と云へり。右に云へるごとく。天地もそれ〱の役あり。鳥獸も。分々の道をつとむ。
現代語訳
兆人章第六。およそ天地が太平に治まるのは、上君の徳によります。君の徳が明らかなら、天地の気も調って、飢饉・疫病・大風・洪水がありません。そのため春夏秋冬の気が順調で、吹く風は枝を鳴らさず、降る雨は土くれを流さず、時分に相応した気が移り替わるので、耕作は豊年で、民は飢えや寒さの愁いなく、上の掟を守り、家では父に仕え、弟は兄に従い、それぞれに道を守り、家職を務めて、上への貢ぎ物を備えます。さてその家に生まれて、自分がしないではすまない道があります。まず奉公をする人は、たとえ一人の召使いの身であっても、昼夜を分かたず主人に仕えて、私なく身を惜しまず、農は四季に応じてそれぞれの土地を見はからい、耕作と除草に精を入れ、工は家の細工が上手であるようにと工夫して怠らず、商は売買の道をよく覚えて、父母を養い、妻子を育み、外では上の法度を守り、年貢や諸役を怠りなく納め、分際に相応した家を治めることを、庶人の忠といいます。自分の分を忘れ、相応を越えて、世間を偽り驕って、家職を務めなければ、自分の仕事が疎かになるだけでなく、かえって禍を招き、父母や親類、あるいは主人に難儀をかけ、咎に落ちるに及んで、上の法度を恨むのは、民の罪であり、これを不忠といいます。右に言うように、天地にもそれぞれの役目があり、鳥や獣も、それぞれの分の道を務めます。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
-
『倭忠経』・兆人章第六・兆人章 足るを知り分を務める楽しみ然るを人として。ひとりその役をのがれんや。その役といふは。さしあたれる家職なり。然るを我ひとりの安樂をのぞみ。或は人前の交を六かしくおもひ。あるひは主人の奉公。父母の養をかへり見ず。世間をのがれ。山林をこゝろざすは。是人と生れたる。もとをしらぬゆへなり。是等は。中人の不忠なり。猶もそれよりくらき人は。己が分より過分を好み。多欲あるゆへに。必家をやぶる。古語にも。禍はこれ多欲より起る。足事を知るより富るはなしとて。一切の惡事は是欲ふかきより促し發る。そのうへ。死生命あり。富貴天にありとて。生るゝと同じく。人の富貴は。定りたるものなるを。さま〲の才覺をまはし。俄に富貴を望て。却て愁を求め出す。然れば己が。生れ付たる所作を。わが分際のほどとおもひ。滿足してけだいなくつとむべし。貪る心よりおもへば。たとへば十を得ては。百をのぞみ。百を得ては又千を望。然れば足とをしらぬ人は。いづく迄も。あきたるとあるべからず。又分際を知り。その所作をつとむる時は。是に過たるたのしみなし。是庶人の忠なり。以上此章までには。人に上下の品をわかち。それ〱の忠を云へり。是より末に至りては。猶この六章の義を。ひろく說述たるものなり。そのしるす事。左のごとし。倭忠經上 終終
-
『倭忠経』・天地神明章第一・天地神明章 忠は身を修めることから然るゆへに。先我身を一すじに。邪をまじへず行ひ。內外替らず。心も形も一つにして。眞實なる所は。是忠のはじめなり。扨その家に行ひ廣るは。忠の中なり。國天下にひろむるは。忠の終なり。かく廣大に。四海のはてまで。忠の行るゝそのもとは。我一身よりはじまれば。此誠の一念自然と天神地祇に感應ありて。其家かならず榮。佳名。天下にあらはれ。其身富貴なるべき事。天理の著ところなり。一家に忠行るれば。家內の父子兄弟童僕まで。和ぎむつまじく。たがひに道を守り。子としては父母に孝を盡し。父として子を慈しみ。弟は兄を敬ひ。兄は弟を愛し。下人は主人を敬ひ尊ぶ。この忠。一國に廣れば。一國平かに治る事かくのごとし。まことに下として。上を犯す心なくば。誰有て國を亂し。家を破るものあらんや。國家の亂るゝもとひは。下たる者上を欺。君をおろそかにおもふ一念より。つみかさねてかくのごとし。堯帝の帝舜に。道を相傳あるも。允執其中といふの四字なり。中といふも。忠といふも。文字はかはりて。心はひとつなり。如何となれば。中とは。物にまじはらぬ誠なれば。是すなはち忠なり。然れば君の爲に。一命を捨ばかりを。忠と心待ては。君の義かろし。忠の一念を以て。親に事れば。孝行の子たり。兄につかふれば。順なる弟たり。朋友にまじはれば。誠ある友たり。然れば治る世には。太平を致し。亂るゝ世には。君の爲に。身を抛。生をかへり見ず。一命を奉るも尤忠なり。右のごとく用る處。萬端に應ぜずといふ事なし。下劣のたとへなれ共。
-
『倭忠経』・天地神明章第一・天地神明章 忠は本心の中という教え倭忠經卷上天地神明章第一むかし天下の。泰平に治りし時は。君と臣と。たがひに心を一つにして。へだてなく。めでたき政のあらはるゝは。忠の道なり。されば人の第一に行所。此忠より大なるはなし。國天下は云におよばず。はづかの一家の破れ亂るゝ處は。下として主人に忠の心なく。主從の不和なるより。發處歴然たり。さて忠は。中の義にて。本心のたゞ中を。忠とはいふなり。されば文字にも。中心とかき侍るなり。人間の本性には。高賤によらず。仁義禮智信といふ。五常をそなへたるゆへに。根本は心明らかにして。誰をしへざれども。君をうやまひ。忠を盡すべき心あれ共。形氣にひかるゝ私欲と云て。さま〱の惡念におほひくらまされて。根本の心をくらます事。たとへば。そのもと明なる。鏡のくもるがごとし。その本心の鏡を。とぎたてよとの爲に。聖人のさま〱のをしへを。後代に残給へり。然ればそのくもらぬ心を。忠といふなり。其忠を外に行時は。いかにも誠ある臣なり。凡誠といふは。せずしてかなはぬ所を。云なり。神といふも誠なり。天地も誠の一つよりあらはる。天の誠といふは。春夏秋冬のうつりかはり。日月のたがひにをしうつり。替る〱明らかに。晝夜をなす處なり。根本に誠なくば。いかで萬古より。今に至りてかくのごとく。一息の間もとゞまらず。四季折々の。うつりかはる事侍らんや。地の誠といふは。萬物のそれ〱に。生ずる處をいふなり。たとへば柳はみどり。花はくれなゐと。そめ出す處は。いにしへも今も。かはる事なし。終に柳の紅に匂。
-
『倭忠経』・忠經目錄・目録前半 六章と立場ごとの忠忠經目錄天地神明章第一此章には。主君に仕へる。忠の一念。天地神明の御心に。感通する事を云へり。聖君章第二此章には。上一人の忠。ひろく忠を行なふ事を云へり。冢臣章第三冢臣とは。大臣の事なり。其家に於て諸の臣の。かしらたるものゝ忠を云へり。百工章第四百工といふは。諸の官人をいふ。その役にあたり。それ〱の。忠ある事をいふ。守宰章第五守宰とは。大國小國。一郡の守護。地頭たる人の忠をいふなり。兆人章第六兆人とは。下民たるものを云なり。此章には。萬民の忠を云なり。右第一章には。忠の根本を說。第二章には。天子の忠。第三章には。大臣たる人の忠。第四章には。もろ〱の役に當て。主君に仕ゆる忠。第五章には。國主地頭の忠。第六章には。萬民の忠を云へり。是も孔子の孝經に。はじめに孝の根本をとき。それより天子。諸侯。卿。大夫。士。諸人の孝を說給ふ。その序に準じて。又爰にも。それ〱に忠を別てり かくのごとく。品々の忠。有と云とも。忠の一念は。かはる事なし。是より末は。猶もひろく。忠を行ことを云へり。政理章第七此章には。政を以て天下國家を。おさむる事を云へり。其政に。上中下のかはり。有事をいふ。武備章第八此章には。文ある者は。武ありとて。天下國家を。治る人は。武道をたしなみ。其みちを正しく。そなへ。守れは。下民上の武をおそれて。安ずるなり。治るても亂をわすれずとゝへば。尤武道のそなへ。あるべきことを。この章には云るなり。觀風章第九觀風は。風を見るとよめり。是は臣たるもの。君の仰を蒙り。諸方の使にゆくときは。その所〱の風俗をねんごろに。見きく事を云なり。保孝行章第十
-
『倭忠経』・盡忠章第十八・忠の極みは広く行き渡り天下を治める盡忠章第十八臣たる者。忠の至極を行ひ盡せば。一人のみならず。人〻見ならひ。一天下に。ひろく忠のみちおこなはれて。いかなる匹夫のたぐひまで。忠を行ずと云事なし。かくのごとくなる時は。則天下無事にして。政やすらかに行はる。扨才能有て。官位かね備る人の忠は。君の爲。隨分心をつくし。國家の太平をまねく。下〻の忠は。上の爲に力をつくし。一命をも君に奉り。身をおしまぬを忠といふ。是は我身ひとつの忠なり。官位備る人の忠は。一家。一國。一天下へ。忠を行ひ廣るゆへ。その忠大ひに行はる。かるがゆへに。明君の國を治るには。第一賢なる者を。見しり聞出して。國の政を。その賢者に任にあり。扨賢者は。眞實の忠を盡ゆへ。君の德ひろく天下にあまねし。いかにして。かくのごとく。施とほくひろきぞと云に。民に敎ほどこす道。すこしも私なく。實を以て號令を定。まづ人たる者。生れ付て。親を愛する念あれば。それにもとづき。
-
『倭忠経』・天地神明章第一・天地神明章 人としての誠と家から国へ花のみどりなるはなし。松に櫻の。さくためしもあらず。是天地のまことなり。然れば人も其ごとく。心の誠を守り。すこしも私のよこしまを入ずして。外に眞實を行ときは。全人たり。扨また鷄の時をつくり。犬の夜を守は鷄犬の誠なり。人もその生れ付たる誠にまかせ。忠孝を行を以。人とす。人として忠孝なきは。人にあらず。鷄犬にはおとれるなり。天地人の三才といふは。天は天のやくにて。四季折々をうつし。地は地のやくにて。萬物を生じ。人はまた人の役にて。天地の吾にあたへし誠を行ひ。親に孝をなし。君に忠を盡す。爰を以。かく廣大なり。天地にならびて。三才となれり。然れば時をうたはぬ鷄は。形はにはとりにして。鷄ならず。夜を守らぬ犬は。形は犬にして。犬ならず。忠孝なき人は。面は人にして。內心は畜生といふ事を。たしかに知り辨べし。扨忠は。第一に其心の。眞實を一すじに。君の事を大切にするを云ゝり。もし心を二つにする時は。則私なり。然れば一家。一國。一天下をおさむる根本は。此忠によらずと云事なし。忠ある人は。君臣の間堅固に治り。その心。天地神明の。御こゝろにも。感通あるなり。目に見えぬ。神祇にだに通ずるならば。いかに況。まの前なる君の心に。かなはぬ臣あらんや。さて忠のこゝろと云は。外よりなすわざにあらず。我一身より行ひ出せば。その忠一家のうちの人見ならひ。忠を行ずと云事なし。一家に忠行れては。一家より一國に廣る。身といひ。家といひ。國と云て。名はかはると云へども。忠を行ふ處は一つなり。

人生を、一行の式にしてみた。
志×積×時×憤÷(1+執)+命。古典から導いた式『人生の方程式』と、二十四の悩みに古典が答える『人生の教科書』(PDF)、師導の全機能1か月がセットで700円です。
本の中身を見る