倭忠経 / 忠經目錄・目録前半 六章と立場ごとの忠
忠經目錄天地神明章第一此章には。主君に仕へる。忠の一念。天地神明の御心に。感通する事を云へり。聖君章第二此章には。上一人の忠。ひろく忠を行なふ事を云へり。冢臣章第三冢臣とは。大臣の事なり。其家に於て諸の臣の。かしらたるものゝ忠を云へり。百工章第四百工といふは。諸の官人をいふ。その役にあたり。それ〱の。忠ある事をいふ。守宰章第五守宰とは。大國小國。一郡の守護。地頭たる人の忠をいふなり。兆人章第六兆人とは。下民たるものを云なり。此章には。萬民の忠を云なり。右第一章には。忠の根本を說。第二章には。天子の忠。第三章には。大臣たる人の忠。第四章には。もろ〱の役に當て。主君に仕ゆる忠。第五章には。國主地頭の忠。第六章には。萬民の忠を云へり。是も孔子の孝經に。はじめに孝の根本をとき。それより天子。諸侯。卿。大夫。士。諸人の孝を說給ふ。その序に準じて。又爰にも。それ〱に忠を別てり かくのごとく。品々の忠。有と云とも。忠の一念は。かはる事なし。是より末は。猶もひろく。忠を行ことを云へり。政理章第七此章には。政を以て天下國家を。おさむる事を云へり。其政に。上中下のかはり。有事をいふ。武備章第八此章には。文ある者は。武ありとて。天下國家を。治る人は。武道をたしなみ。其みちを正しく。そなへ。守れは。下民上の武をおそれて。安ずるなり。治るても亂をわすれずとゝへば。尤武道のそなへ。あるべきことを。この章には云るなり。觀風章第九觀風は。風を見るとよめり。是は臣たるもの。君の仰を蒙り。諸方の使にゆくときは。その所〱の風俗をねんごろに。見きく事を云なり。保孝行章第十
新字:忠経目録天地神明章第一此章には。主君に仕へる。忠の一念。天地神明の御心に。感通する事を云へり。聖君章第二此章には。上一人の忠。ひろく忠を行なふ事を云へり。冢臣章第三冢臣とは。大臣の事なり。其家に於て諸の臣の。かしらたるものゝ忠を云へり。百工章第四百工といふは。諸の官人をいふ。その役にあたり。それ〱の。忠ある事をいふ。守宰章第五守宰とは。大国小国。一郡の守護。地頭たる人の忠をいふなり。兆人章第六兆人とは。下民たるものを云なり。此章には。万民の忠を云なり。右第一章には。忠の根本を説。第二章には。天子の忠。第三章には。大臣たる人の忠。第四章には。もろ〱の役に当て。主君に仕ゆる忠。第五章には。国主地頭の忠。第六章には。万民の忠を云へり。是も孔子の孝経に。はじめに孝の根本をとき。それより天子。諸侯。卿。大夫。士。諸人の孝を説給ふ。その序に準じて。又爰にも。それ〱に忠を別てり かくのごとく。品々の忠。有と云とも。忠の一念は。かはる事なし。是より末は。猶もひろく。忠を行ことを云へり。政理章第七此章には。政を以て天下国家を。おさむる事を云へり。其政に。上中下のかはり。有事をいふ。武備章第八此章には。文ある者は。武ありとて。天下国家を。治る人は。武道をたしなみ。其みちを正しく。そなへ。守れは。下民上の武をおそれて。安ずるなり。治るても乱をわすれずとゝへば。尤武道のそなへ。あるべきことを。この章には云るなり。観風章第九観風は。風を見るとよめり。是は臣たるもの。君の仰を蒙り。諸方の使にゆくときは。その所〱の風俗をねんごろに。見きく事を云なり。保孝行章第十
書き下し
忠經目錄天地神明章第一此章には。主君に仕へる。忠の一念。天地神明の御心に。感通する事を云へり。聖君章第二此章には。上一人の忠。ひろく忠を行なふ事を云へり。冢臣章第三冢臣とは。大臣の事なり。其家に於て諸の臣の。かしらたるものゝ忠を云へり。百工章第四百工といふは。諸の官人をいふ。その役にあたり。それ〱の。忠ある事をいふ。守宰章第五守宰とは。大國小國。一郡の守護。地頭たる人の忠をいふなり。兆人章第六兆人とは。下民たるものを云なり。此章には。萬民の忠を云なり。右第一章には。忠の根本を說。第二章には。天子の忠。第三章には。大臣たる人の忠。第四章には。もろ〱の役に當て。主君に仕ゆる忠。第五章には。國主地頭の忠。第六章には。萬民の忠を云へり。是も孔子の孝經に。はじめに孝の根本をとき。それより天子。諸侯。卿。大夫。士。諸人の孝を說給ふ。その序に準じて。又爰にも。それ〱に忠を別てり かくのごとく。品々の忠。有と云とも。忠の一念は。かはる事なし。是より末は。猶もひろく。忠を行ことを云へり。政理章第七此章には。政を以て天下國家を。おさむる事を云へり。其政に。上中下のかはり。有事をいふ。武備章第八此章には。文ある者は。武ありとて。天下國家を。治る人は。武道をたしなみ。其みちを正しく。そなへ。守れは。下民上の武をおそれて。安ずるなり。治るても亂をわすれずとゝへば。尤武道のそなへ。あるべきことを。この章には云るなり。觀風章第九觀風は。風を見るとよめり。是は臣たるもの。君の仰を蒙り。諸方の使にゆくときは。その所〱の風俗をねんごろに。見きく事を云なり。保孝行章第十
現代語訳
忠經目録。天地神明章第一。この章では、主君に仕える忠の一念が、天地の神々の御心と感じ通じることを述べています。聖君章第二。この章では、上に立つ一人の君の忠が、広く忠を行きわたらせることを述べています。冢臣章第三。冢臣とは大臣のことです。その家で多くの臣下の頭にあたる者の忠を述べています。百工章第四。百工とは多くの役人をいいます。それぞれの役に当たり、忠を尽くすことを述べています。守宰章第五。守宰とは、大国小国や一郡の守護、地頭にあたる人の忠をいいます。兆人章第六。兆人とは庶民のことです。この章では、万民の忠を述べています。以上のうち、第一章には忠の根本を説き、第二章には天子の忠、第三章には大臣の忠、第四章にはさまざまな役に当たって主君に仕える忠、第五章には国主・地頭の忠、第六章には万民の忠を述べています。これも孔子の『孝経』が、はじめに孝の根本を説き、それから天子、諸侯、卿、大夫、士、庶人の孝を説かれた順序にならい、ここでも身分ごとに忠を分けたのです。このように品々の忠があるとはいえ、忠の一念は変わりません。これより後は、さらに広く忠を行うことを述べます。政理章第七。この章では、政治によって天下国家を治めることと、その政治に上・中・下の違いがあることを述べています。武備章第八。この章では、文のある者は武もあるといって、天下国家を治める人は武道をたしなみ、その道を正しく備え守れば、民は上の武を恐れて安心すること、治まっていても乱を忘れないというたとえのとおり、武道の備えが必要なことを述べています。観風章第九。観風とは「風を見る」と読みます。臣が君の命を受けて諸方へ使いに行くとき、その土地の風俗をていねいに見聞きすることをいいます。保孝行章第十(説明は次の章句に続く)。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
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『倭忠経』・忠經目錄・目録後半 孝から尽忠までの章立て此章には。忠ある人は。よく父母に。孝あることを云へり。廣爲國章第十一此章には。大小によらず。國を治るは。忠をおこなふより。ひろまるといふ事を云へり。廣至理章第十二此章には。國を治る至極の事を。ひろく云のべたるなり。揚聖章第十三此章は。かみ君の德あるを。下臣たる者。一國。一家。一天下に。云ひろめて。世間にあまねく。あらはるゝ事を云へり。揚は。あぐるとよみて。君の聖德を。あげひろむる也。辨忠章第十四辨はわきまふなり。此章は。臣の忠不忠を。上君。わきまへ。知りたまふべき事を云へり。忠諫章第十五此章は。君あやまちある時は。臣たるもの。いさめたゞす事を云へり。證應章第十六此章は忠不忠。明かに。天道に鑑たまひ。忠有ものは。福にあひ。不忠なるものは。禍にあふ事を云へり。報國章第十七此章には。忠ある人は。かならず君恩を。報ずる事を云へり。盡忠章第十八此章は。臣たるもの。忠の至極を。おこなひつくす事を云へり。目錄終
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『倭忠経』・天地神明章第一・天地神明章 忠は本心の中という教え倭忠經卷上天地神明章第一むかし天下の。泰平に治りし時は。君と臣と。たがひに心を一つにして。へだてなく。めでたき政のあらはるゝは。忠の道なり。されば人の第一に行所。此忠より大なるはなし。國天下は云におよばず。はづかの一家の破れ亂るゝ處は。下として主人に忠の心なく。主從の不和なるより。發處歴然たり。さて忠は。中の義にて。本心のたゞ中を。忠とはいふなり。されば文字にも。中心とかき侍るなり。人間の本性には。高賤によらず。仁義禮智信といふ。五常をそなへたるゆへに。根本は心明らかにして。誰をしへざれども。君をうやまひ。忠を盡すべき心あれ共。形氣にひかるゝ私欲と云て。さま〱の惡念におほひくらまされて。根本の心をくらます事。たとへば。そのもと明なる。鏡のくもるがごとし。その本心の鏡を。とぎたてよとの爲に。聖人のさま〱のをしへを。後代に残給へり。然ればそのくもらぬ心を。忠といふなり。其忠を外に行時は。いかにも誠ある臣なり。凡誠といふは。せずしてかなはぬ所を。云なり。神といふも誠なり。天地も誠の一つよりあらはる。天の誠といふは。春夏秋冬のうつりかはり。日月のたがひにをしうつり。替る〱明らかに。晝夜をなす處なり。根本に誠なくば。いかで萬古より。今に至りてかくのごとく。一息の間もとゞまらず。四季折々の。うつりかはる事侍らんや。地の誠といふは。萬物のそれ〱に。生ずる處をいふなり。たとへば柳はみどり。花はくれなゐと。そめ出す處は。いにしへも今も。かはる事なし。終に柳の紅に匂。
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『倭忠経』・天地神明章第一・天地神明章 忠は身を修めることから然るゆへに。先我身を一すじに。邪をまじへず行ひ。內外替らず。心も形も一つにして。眞實なる所は。是忠のはじめなり。扨その家に行ひ廣るは。忠の中なり。國天下にひろむるは。忠の終なり。かく廣大に。四海のはてまで。忠の行るゝそのもとは。我一身よりはじまれば。此誠の一念自然と天神地祇に感應ありて。其家かならず榮。佳名。天下にあらはれ。其身富貴なるべき事。天理の著ところなり。一家に忠行るれば。家內の父子兄弟童僕まで。和ぎむつまじく。たがひに道を守り。子としては父母に孝を盡し。父として子を慈しみ。弟は兄を敬ひ。兄は弟を愛し。下人は主人を敬ひ尊ぶ。この忠。一國に廣れば。一國平かに治る事かくのごとし。まことに下として。上を犯す心なくば。誰有て國を亂し。家を破るものあらんや。國家の亂るゝもとひは。下たる者上を欺。君をおろそかにおもふ一念より。つみかさねてかくのごとし。堯帝の帝舜に。道を相傳あるも。允執其中といふの四字なり。中といふも。忠といふも。文字はかはりて。心はひとつなり。如何となれば。中とは。物にまじはらぬ誠なれば。是すなはち忠なり。然れば君の爲に。一命を捨ばかりを。忠と心待ては。君の義かろし。忠の一念を以て。親に事れば。孝行の子たり。兄につかふれば。順なる弟たり。朋友にまじはれば。誠ある友たり。然れば治る世には。太平を致し。亂るゝ世には。君の爲に。身を抛。生をかへり見ず。一命を奉るも尤忠なり。右のごとく用る處。萬端に應ぜずといふ事なし。下劣のたとへなれ共。
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『倭忠経』・保孝行章第十・孝行の根には忠の誠実さがある保孝行章第十孝行のもとは。忠ある事をたつとぶ。そのいはれは。忠を行はざれば。心に僞ありて。朝より夕に至り。事々心を用る處。みな道に背けり。しかれば忠の念起らざれば。先我身の守りをうしなふ。守といふは。この方の本心の。外のよこしまなる事に。奪れぬやうにとり守る事なり。凡一切の人。眼に色を見ては。その色に引おとされて。守をうしなひ。口に味をもとめては。其味におぼれて。守を失ひ。身の安樂を求ては。守をうしなふ。かくのごとくすれば。其身をあやうくするのみならず。親の名をも恥かしむるなり。然れば孝行に志あらん人は。第一忠の念を以。親につかふまつるべし。右に云ごとく。忠は誠なれば。眞實を以て。親につかふる時は。諸のさひはひありて。我身富貴に至れば。本より其身さかへ親をよろこばしめ。衣服飮食にいたるまで心のまゝにそなへて。親を養事歷然たり。かくのごとくする時は。他人見ならひ。各その親につかへて。孝を起ときは。我一人のみならず。他人の孝をも感動せるなり。是を人におよぼすとは云なり。詩經にも。孝子は我親に孝行を盡して。人をも吾如く孝行になるやうに。をしへなせば。孝子あまた出るゆへに。孝子ともしからずと云へり。又類をたまふとも云へり。是は自己一分の孝許は。至極の孝ならず。
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『倭忠経』・盡忠章第十八・忠の極みは広く行き渡り天下を治める盡忠章第十八臣たる者。忠の至極を行ひ盡せば。一人のみならず。人〻見ならひ。一天下に。ひろく忠のみちおこなはれて。いかなる匹夫のたぐひまで。忠を行ずと云事なし。かくのごとくなる時は。則天下無事にして。政やすらかに行はる。扨才能有て。官位かね備る人の忠は。君の爲。隨分心をつくし。國家の太平をまねく。下〻の忠は。上の爲に力をつくし。一命をも君に奉り。身をおしまぬを忠といふ。是は我身ひとつの忠なり。官位備る人の忠は。一家。一國。一天下へ。忠を行ひ廣るゆへ。その忠大ひに行はる。かるがゆへに。明君の國を治るには。第一賢なる者を。見しり聞出して。國の政を。その賢者に任にあり。扨賢者は。眞實の忠を盡ゆへ。君の德ひろく天下にあまねし。いかにして。かくのごとく。施とほくひろきぞと云に。民に敎ほどこす道。すこしも私なく。實を以て號令を定。まづ人たる者。生れ付て。親を愛する念あれば。それにもとづき。
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『倭忠経』・天地神明章第一・天地神明章 忠は金銀のごとく本心を求める忠はなをし。金銀のごとし。たとへば金銀といふものは。只今の間に。米穀にすべきとも。それ〱の器になさん共。田地屋敷に致さん共。我こゝろのまゝなるものなり。忠の一念を以て。諸事のみちの行るゝ事。猶かくのごとし。世人金銀をば貴で求れ共。此忠をば貴ずしてもとめず。思はざるの甚しきなり。退て愚意を以て考おもふに。大凡人間と。生れたらんものは。その生れ付たる誠を行べき人たるに。私欲利欲にまよひ。却て。禽獸と同じ働なる人。世間に多し。されば善惡を知らぬ人なれば。すべき事なし。幸明らかなる心を。天よりあたへ置たれば。善事をなせば。恥事なく。惡事をすれば。身の恥辱なる事を知りながら。我をあざむき。他人を僞り。目前の利欲にまよひ。たま〱生れ付たる本心を。千里の外にとりはなして。尋ねもとめず。わづかの器だにも。失ひぬればたづねもとむ。しかるに本たる心をば。たづねもとむる事を知らず。おろかなるかな。淺猿かな。さていかにして。本心を求べきとならば。他に問に及ばず。そのよきを善とおもふ心をとり立。利欲の念をおひしりぞけ。君につかへて忠を盡し。親につかへて孝をなせば。是則心を尋ね出せる也。しからば誰をかおそるべき。闇に惡事をなし置て。是を人の知らん事を恐。東西にはしり。南北にかけりて。一生心を安ぜぬは。我とわが身を。くるしめたるものなり。右のごとく善惡の二つを。わが心に問たづねて。一善なりともおこなひもてゆかば。おのづから心の穢も消うせ。全人となるべき事。明らかなる理なり。此首章には。上下の人をかねて。忠の綱領を。いへるなり。

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