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玉勝間 / 十二の巻 よはひの賀に歌を多く集むる事、なき跡にいしぶみをたつる事

よはひの賀に、やまともろこしくさぐさの歌を、廣く乞ひ求めて集むる事、今の世に、人の多くする事なり。みやびわざとは云へど、さる心も無き者の、みだりにふくつけく物して、ただ數多くあつまれるを、たけき事にすなるは、中中にこちなくぞ覺ゆる。又さしも有るまじききはの人の、墓にもこと所にも、ことごとしきいしぶみを建つる事も、今の世にはいと多かる。これはた餘り類ひ多くて、珍しげ無く、中中に心おとりせられて、うるさくさへこそ覺れ。

新字:よはひの賀に、やまともろこしくさぐさの歌を、広く乞ひ求めて集むる事、今の世に、人の多くする事なり。みやびわざとは云へど、さる心も無き者の、みだりにふくつけく物して、ただ数多くあつまれるを、たけき事にすなるは、中中にこちなくぞ覚ゆる。又さしも有るまじききはの人の、墓にもこと所にも、ことごとしきいしぶみを建つる事も、今の世にはいと多かる。これはた余り類ひ多くて、珍しげ無く、中中に心おとりせられて、うるさくさへこそ覚れ。

書き下し

よわいの賀に、やまともろこしくさぐさの歌を、広く乞い求めて集むる事、今の世に、人の多くする事なり。みやびわざとは云えど、さる心も無き者の、みだりにふくつけく物して、ただ数多くあつまれるを、たけき事にすなるは、なかなかにこちなくぞ覚ゆる。またさしも有るまじききわの人の、墓にもこと所にも、ことごとしきいしぶみを建つる事も、今の世にはいと多かる。これはた余り類い多くて、珍しげ無く、なかなかに心おとりせられて、うるさくさえこそ覚ゆれ。

現代語訳

長寿の祝いに、和歌や漢詩などさまざまな歌を広く頼み求めて集めることは、今の世に多くの人がすることである。風雅な行いとはいうものの、そういう心も無い者がむやみに欲張って、ただ数多く集まったのを誇らしいことにしているのは、かえって無骨に思われる。また、それほどでもない身分の人が、墓にも別の所にも仰々しい石碑を建てることも、今の世にはたいへん多い。これもまたあまりに数が多くて珍しくもなく、かえって見劣りがして、煩わしくさえ思われる。

解説

長寿の祝いに詩歌を広く集めることと、身の丈に合わない石碑を建てることの流行を批判した段である。算賀に詩歌を贈るのは古くからの雅な習わしだが、宣長の時代には、風雅の心も無い人が見栄のために手当たり次第に詩歌を募り、数の多さを誇る風があった。また、名もない人までが墓や記念の地に立派な石碑を建てるのが流行していた。宣長は、どちらもありふれすぎてかえって値打ちを下げ、煩わしくさえあると言う。前段の八景と同じく、数や形で中身を飾ろうとする風潮への違和感である。宣長の遺言では、自分の墓は山室山に簡素に造るよう細かく指示しており、ここでの言葉と響き合っている。雅びとは形の豪華さではなく心のありようだ、という考えが底にある。

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