玉勝間 / 十二の巻 歌に六義と云ふ事
いはゆる古注に、おほよそむくさに分かれむことは、えあるまじき事になむと云へるぞ、よくあたれる論ヒには有ける。此ノ一言にて、六義の論は盡きたるべし。
新字:いはゆる古注に、おほよそむくさに分かれむことは、えあるまじき事になむと云へるぞ、よくあたれる論ヒには有ける。此ノ一言にて、六義の論は尽きたるべし。
書き下し
いわゆる古注に、おおよそむくさに分かれむことは、えあるまじき事になむと云えるぞ、よくあたれる論いには有りける。この一言にて、六義の論は尽きたるべし。
現代語訳
いわゆる古注に「およそ六種に分かれるということは、ありえないことである」と言っているのこそ、よく当たった論である。この一言で、六義の論は尽きているはずだ。
解説
前段の六義批判の結びである。古今集仮名序には、本文に添えられた古い注(古注)があり、そこにすでに「おほよそ六くさに分かれむことは、えあるまじきことになむ」、つまり歌を六種に分けることなどできないはずだ、という一文が見える。宣長はこれを「よく当たった論」と讃え、この一言で六義の議論は尽きていると言い切る。自説を立てるのに、同時代の自分の理屈だけでなく、古い注釈者の中にも同じ疑いを持った人がいたことを示すのである。権威ある序文に対して、その注の中から異論を拾い出すところに、宣長の周到さがある。長々と議論を重ねるより、的を射た一言で問題を片づける。そうした簡潔さを尊ぶ姿勢も読み取れる。
関連する章句
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