玉勝間 / 八の巻 すそをつまげる
俗言に、衣のすそをつまげると云ふは、萬葉集廿の卷長歌に、御裳のすそつみあげかきなで、と有る、此つみあげのつづまれる詞なり。
新字:俗言に、衣のすそをつまげると云ふは、万葉集廿の巻長歌に、御裳のすそつみあげかきなで、と有る、此つみあげのつづまれる詞なり。
書き下し
俗言に、衣のすそをつまげると云うは、万葉集二十の巻の長歌に、御裳のすそつみあげかきなで、と有る、此つみあげのつづまれる詞なり。
現代語訳
俗語で、衣の裾を「つまげる」と言うのは、万葉集巻二十の長歌に「御裳の裾つみ上げかき撫で(裳の裾をつまみ上げ、撫でて)」とある、この「つみあげ」が縮まった言葉である。
解説
着物の裾をつまんで持ち上げることを言う俗語「つまげる」の由来を、万葉集の長歌から示した段である。万葉集巻二十の、防人の別れを詠んだ大伴家持の長歌には、旅立つ子を見送る母が裳の裾をつまみ上げ、子を撫でて別れを惜しむしぐさが詠まれている。宣長は、この「つみあげ」が縮まって「つまげる」になったと見る。「つみ」は指先でつまむ意の古語で、それに「上げる」がついた形である。着物の裾をからげて歩くのは、江戸時代の人々にとって日常のしぐさであり、そのしぐさを言う言葉が万葉の時代の言葉から続いていることを、宣長は見つけたのである。衣服の形は時代とともに変わっても、裾を持ち上げるしぐさとその言葉は受け継がれてきた。身ぶりを言う言葉の長い命を教える段である。
関連する章句
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