玉勝間 / 八の巻 柳箱
柳箱と云ふ物、續日本紀九の卷に見えたり。
新字:柳箱と云ふ物、続日本紀九の巻に見えたり。
書き下し
柳箱と云う物、続日本紀九の巻に見えたり。
現代語訳
柳箱(やないばこ)というものは、続日本紀の巻九に見える。
解説
柳の細枝を編んで作った箱「柳箱(やないばこ)」が、奈良時代の正史である続日本紀にすでに見えることを記した、わずか一行の段である。柳箱は、柳の枝を削って細く編んだ蓋付きの箱で、平安時代以降は宮中で冠や書物、硯などを載せる台や入れ物として使われ、有職故実の世界では欠かせない調度であった。宣長は、その名が八世紀の記録にまで遡ることを確かめ、出典の巻数だけを控えておいた。解説を加えないのは、後で必要なときに引くための手控えだからである。宣長は三十年余りをかけて古事記伝を書き上げたが、その土台には、このような膨大な抜き書きと覚え書きがあった。玉勝間の短い段は、そうした学者の作業場を覗き見る窓でもある。一つの物の名がいつから記録に現れるかを押さえておくことは、歴史を確かにたどるための地道で大切な一歩である。
関連する章句
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『玉勝間』十二の巻 長持と云ふ物栄華物語若枝の巻に、なかもちからびつのふたに、いとおどろおどろしゅうたたみいれて、うちかさねて、二人などかきて、もてくるも有り、と有り。これ今の世にいう長持と聞えたり。この名うつほの物語にも見えたるを、その巻をわすれたり。
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『玉勝間』八の巻 厨子仏の像をいれおく物を、厨子と云うこと、同じ記に、同じ年三月二十日、清涼殿の仁王八講、御装束をしるせる所に曰わく、五大力の仏殿を其の中に安置す(件の仏殿は厨子なり、蒔絵螺鈿の如し、云云)。
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『玉勝間』十の巻 たんざく三代実録廿七の巻に、短籍と見え、また卅五の巻に、短冊とも見えたり。但し歌を書く物にはあらず。
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『玉勝間』九の巻 目録目録の事を、栄花物語はつ花の巻に、物のかず書きたるふみ、柳筥にいれてまいれりと有り。
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『玉勝間』十四の巻 短籍書紀の斉明天皇の御巻に、或本に云う、有間皇子と云云短籍を取りて、謀反の事をトうとある。短籍と云う物、これに始めて見えたり。ヒネリブミと訓めり。続紀十の巻にも見え、その後の書どもにも、おりおり見えたり。続紀なるも、ひねりぶみと云いてよろし。されどこの物、ひねりぶみには限らず。何事にまれ、ただいささかの事を書く物なり。但し歌を書くは、遥かに後のことなり。
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『玉勝間』一の巻 また続紀よりつぎつぎの史典も、今の本は、いづれもよろしからず、文字の誤りことに多く、脱けたることなども有り。そもそも、書紀は、訓大事なれば、たやすく手つけがたきを、続紀よりこなたの史は、宣命のところをおきてほかすべては、訓にことなること無く、ただ世のつねのから書の訓の如くにてよろしければ、今いかで三代実録までを、皆古き善き本を、これかれ読み合わせて、善きをえらびて、うるわしきえり板を成しおかまほしきわざなり。
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