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玉勝間 / 七の巻 石見の海なる高島

ひろたけの、楠の木は、枯れても匂ひ、かうばしや、おやどり有れや、此宿の、さのみはな急ぎめされそ。斯く唱へて、楠の木を祭るとなり。かの國人小篠ノ御野が物がたりなり。

新字:ひろたけの、楠の木は、枯れても匂ひ、かうばしや、おやどり有れや、此宿の、さのみはな急ぎめされそ。斯く唱へて、楠の木を祭るとなり。かの国人小篠ノ御野が物がたりなり。

書き下し

ひろたけの、楠の木は、枯れても匂い、こうばしや、おやどり有れや、この宿の、さのみはな急ぎめされそ。かく唱えて、楠の木を祭るとなり。かの国人小篠の御野が物がたりなり。

現代語訳

「広く丈高い楠の木は、枯れても匂い、香ばしいことよ。親鳥がいるならば、この宿の、そんなにお急ぎなさいますな」。このように唱えて、楠の木を祭るということである。これはあの国(石見)の人、小篠御野(おざさみぬ)の話である。

解説

前の段に続き、高島の祇園宮の祭で唱えられる詞を記し、話の出どころを明かしている。詞は、枯れても香る楠の大木をたたえ、親鳥がいるならこの宿で急がずにゆっくりしていけ、と呼びかけるような文句で、楠の木そのものを祭るのだという。意味の取りにくい素朴な詞だが、宣長は手を加えずにそのまま記録している。古い言葉や信仰の形は、都から遠い土地にこそ残るというのが宣長の考えで、次の段以降でも各地の方言や習俗を書き留めている。話し手の小篠御野は石見浜田藩の藩士で、宣長の門人として知られた人である。出典を明記することは、聞き書きの信頼性を示すための宣長の作法であった。地方の無名の祭文を、話者の名とともに記録した一段で、今の民俗学の聞き取り調査に先駆ける態度がうかがえる。

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