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玉勝間 / 七の巻 おのが仕、奉る神を尊き神になさまほしくする事

中昔よりして、神主祝部のともがら、己が仕奉る社の神を、有るが中にも尊き神にせまほしく思ひては、古き傳への有る御名をば、隱して、或るは國常立ノ尊をまつれり、天照大神を祭れり、神武天皇をまつれりなど云ひて、例の神秘のむね有りげに、似つかはしく作りなして僞るたぐひ、世に多し。おのれ尊き神につかふる者にならむとて、その仕奉る神を、わたくしに心にまかせて、僞り奉るは、いともかしこき、みだり事ならずや。

新字:中昔よりして、神主祝部のともがら、己が仕奉る社の神を、有るが中にも尊き神にせまほしく思ひては、古き伝への有る御名をば、隠して、或るは国常立ノ尊をまつれり、天照大神を祭れり、神武天皇をまつれりなど云ひて、例の神秘のむね有りげに、似つかはしく作りなして偽るたぐひ、世に多し。おのれ尊き神につかふる者にならむとて、その仕奉る神を、わたくしに心にまかせて、偽り奉るは、いともかしこき、みだり事ならずや。

書き下し

中昔よりして、神主・祝部のともがら、己が仕え奉る社の神を、有るが中にも尊き神にせまほしく思いては、古き伝えの有る御名をば、隠して、或いは国常立の尊をまつれり、天照大神を祭れり、神武天皇をまつれりなど云いて、例の神秘のむね有りげに、似つかわしく作りなして偽るたぐい、世に多し。おのれ尊き神につかうる者にならむとて、その仕え奉る神を、わたくしに心にまかせて、偽り奉るは、いともかしこき、みだり事ならずや。

現代語訳

中古のころから、神主や祝部(はふりべ)といった神職の者たちが、自分の仕える社の神を、数ある神の中でもとりわけ尊い神にしたいと思って、古い伝えのある御名を隠し、あるいは「国常立尊を祭っている」「天照大神を祭っている」「神武天皇を祭っている」などと言って、いつものように何か神秘の由緒がありそうに、もっともらしく作り上げて偽る類が世に多い。自分が尊い神に仕える者になろうとして、お仕えする神を、私心のままに勝手に偽り申し上げるのは、まことに畏れ多い、でたらめなことではないか。

解説

前の段と対になる一段で、祭神を偽る動機を神職自身の欲に見ている。自分の社の神を国常立尊や天照大神、神武天皇といった最も尊い神にしたいという思いから、古くからの伝えを隠し、秘伝めいた由緒を作る。宣長はそれを、自分が尊い神に仕える者だと見られたいための私心だと断じ、仕える神そのものを偽るのは畏れ多いみだり事だと強く咎める。中世以降、神道の諸流派が秘伝や由緒書を盛んに作ったことを踏まえた批判と読める。伝えを曲げてまで箔をつけようとする心は、神社に限らない。家柄や会社の由来、自分の経歴を飾りたくなる時、飾られるのは仕える対象ではなく自分自身である。宣長は、古い伝えをそのまま守ることを、神に対する誠実さとして求めている。

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