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玉勝間 / 四の巻 伏見天皇御即位の次第

花山院さいをんじ殿候はせ給ふ。還御のぎしきぐせらるるほど、大しやうじのひむがしひらしきにてぞ、くごまゐる。御ばいぜんは、女房もとのごとし。又大しやうじの西に、からゑの御びやうぶを立てられたり。その西にて、兩大納言殿御わりごひらき給ふにや、そのやくそうには、五位のしきじよりふぢあきよなど見え侍つ。御ぜんはてぬれば、くわんぎよなる。公卿のれち、御こしよりて召されぬれば、ずさどもよせて、またかへりまゐりぬ。出車には、一のくるまに、左衞門督殿、新左衞門督殿、ははき、さぬき、二のくるまに、宮內、龍さ、ひぜん、たまき、三のくるまに、新兵衞、ぢぶ、みあれ、いつぬき、四のくるま、少將、少輔、宮人、いつぬき、としるせり。中務ノ内侍は、宮內卿永經卿のむすめなり。右の日記の文のうち、心得ぬ事まじれり、うつし誤とおぼしきも、所所見ゆ。みな本のままに書きつ。

新字:花山院さいをんじ殿候はせ給ふ。還御のぎしきぐせらるるほど、大しやうじのひむがしひらしきにてぞ、くごまゐる。御ばいぜんは、女房もとのごとし。又大しやうじの西に、からゑの御びやうぶを立てられたり。その西にて、両大納言殿御わりごひらき給ふにや、そのやくそうには、五位のしきじよりふぢあきよなど見え侍つ。御ぜんはてぬれば、くわんぎよなる。公卿のれち、御こしよりて召されぬれば、ずさどもよせて、またかへりまゐりぬ。出車には、一のくるまに、左衛門督殿、新左衛門督殿、ははき、さぬき、二のくるまに、宮内、竜さ、ひぜん、たまき、三のくるまに、新兵衛、ぢぶ、みあれ、いつぬき、四のくるま、少将、少輔、宮人、いつぬき、としるせり。中務ノ内侍は、宮内卿永経卿のむすめなり。右の日記の文のうち、心得ぬ事まじれり、うつし誤とおぼしきも、所所見ゆ。みな本のままに書きつ。

書き下し

花山院・さいおんじ殿候わせ給う。かんぎょのぎしきぐせらるるほど、大しょうじのひんがしひらしきにてぞ、くごまいる。御ばいぜんは、女房もとのごとし。また大しょうじの西に、からえの御びょうぶを立てられたり。その西にて、両大納言殿御わりごひらき給うにや、そのやくそうには、五位のしきじよりふじあきよなど見え侍りつ。御ぜんはてぬれば、かんぎょなる。公卿のれち、御こしよりて召されぬれば、ずさどもよせて、またかえりまいりぬ。出車には、一のくるまに、左衛門督殿、新左衛門督殿、ははき、さぬき、二のくるまに、宮内、龍さ、ひぜん、たまき、三のくるまに、新兵衛、じぶ、みあれ、いつぬき、四のくるま、少将、少輔、宮人、いつぬき、としるせり。中務の内侍は、宮内卿永経卿のむすめなり。右の日記の文のうち、心得ぬ事まじれり、うつし誤りとおぼしきも、所々見ゆ。みな本のままに書きつ。

現代語訳

花山院殿と西園寺殿が伺候しておられる。還御の儀式が整えられる間に、大床子の東の平敷で供御(お食事)を差し上げる。御陪膳は、女房が前と同じである。また大床子の西に唐絵の御屏風を立てられた。その西で両大納言殿が破子(弁当)をお開きになったのだろうか、その役送には五位の職事の藤原あきよなどが見えた。御膳が終わったので還御となる。公卿の列が整い、御輿が寄せられてお乗りになったので、従者たちを寄せて、また帰参した。出車(女房の乗る車)には、一の車に左衛門督殿・新左衛門督殿・ははき・さぬき、二の車に宮内・龍さ・ひぜん・たまき、三の車に新兵衛・治部・みあれ・いつぬき、四の車に少将・少輔・宮人・いつぬき、と記している。中務内侍は、宮内卿永経卿の娘である。右の日記の文のうちには納得できない事が混じっており、写し誤りと思われる所も所々に見える。みな本のままに書いた。

解説

即位式を終えての還御の次第と、宣長の結びの断り書きからなる段である。儀式が済むと天皇は平敷で食事をとり、公卿たちも破子を開く。やがて御輿が寄せられて還御となり、女房たちは出車に分乗して帰る。日記は四両の車に誰が乗ったかまで名を連ねて記す。宣長は最後に、筆者の中務内侍が宮内卿藤原永経の娘であると記し、この日記の本文には意味のわからない所や写し誤りと思われる所が混じっているが、すべて本のままに写した、と断っている。わからない所を推測で直さず、原本の形をそのまま伝えるという態度は、宣長の資料の扱いの根本である。手を入れれば読みやすくなるが、誤りを重ねる危険もある。後の人が原本に基づいて判断できるよう、写す者は余計なことをしない。

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