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玉勝間 / 四の巻 大内ノ政弘朝臣の歌

大内左京大夫多多良ノ政弘、正五位下にて有しほど、四位をのぞまれけれども、空しくて年へければ、「たよりなき外山に住みてしづ枝をも折ることかたき峰の椎柴、と詠まれければ、此歌をめで給ひて、從四位下にぞなし給ひける。程も無くて、又從上せられけるとぞ。此歌まことに、よく詠みかなへられたり。四位と椎と、假字のたがへるは、その頃のしわざにては、云ふべきに非ず。

新字:大内左京大夫多多良ノ政弘、正五位下にて有しほど、四位をのぞまれけれども、空しくて年へければ、「たよりなき外山に住みてしづ枝をも折ることかたき峰の椎柴、と詠まれければ、此歌をめで給ひて、従四位下にぞなし給ひける。程も無くて、又従上せられけるとぞ。此歌まことに、よく詠みかなへられたり。四位と椎と、仮字のたがへるは、その頃のしわざにては、云ふべきに非ず。

書き下し

大内左京大夫多々良の政弘、正五位下にて有りしほど、四位をのぞまれけれども、空しくて年へければ、「たよりなき外山に住みてしづ枝をも折ることかたき峰の椎柴、と詠まれければ、この歌をめで給いて、従四位下にぞなし給いける。程も無くて、また従上せられけるとぞ。この歌まことに、よく詠みかなえられたり。四位と椎と、仮字のたがえるは、その頃のしわざにては、云うべきに非ず。

現代語訳

大内左京大夫の多々良政弘(大内政弘)は、正五位下であった頃、四位を望まれたけれども、かなわないまま年が経ったので、「頼るものもない端山に住んで、下枝さえも折ることの難しい、峰の椎柴であることよ」と詠まれたところ、(天皇が)この歌を愛でられて、従四位下にしてくださった。ほどなくまた従四位上に上げられたということだ。この歌はまことに、よく(願いにかなうように)詠み合わせられている。「四位(しい)」と「椎(しい)」とで仮名遣いが違うのは、その頃の仕業としては、言うべきことではない。

解説

室町時代の大名大内政弘が、歌で昇進を果たした話を記した一段である。正五位下のまま四位への昇進がかなわず、「たよりなき外山に住みて」と、頼る縁もない辺地に住み、下枝さえ折れない峰の椎柴にわが身をたとえて詠んだ。「椎」に「四位」を掛けた歌で、これが愛でられて従四位下に叙され、ほどなく従四位上にも進んだという。宣長は「よく詠みかなへられたり」と、願いを歌に託す巧みさを認めつつ、「四位」は「しゐ」、「椎」は「しひ」で本来仮名遣いが違うことにも触れる。ただ、仮名遣いが乱れていた時代のことだから咎めるには及ばない、と寛容である。古い仮名遣いに厳しい宣長が、時代の事情を汲んで評価を分けている点が興味深い。

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