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肝要工夫録 / 昇進の手入れ

是非ひらく、福壽草にも、手入かな。此句のごとく、同じ開く花も、手入によりて、早くも、又大輪にもひらく事なり。されども、室咲の花は、直に凋むの憂あり、唯だ水をかけ養ひをするの手入こそよけれ、人の昇進も、斯の如くにて、その勤むべき道を出精し、頭支配へも諂ふの意なく、深切にその理を以て尊敬するの類は、昇進を願ふものの手入か。賄賂を以て進まむと欲するの類は、室咲の花と同じく、直に凋み、身木も衰ふることとなり。俗人は昇進を願ふ心より、今日の行を大に愼むものなり。さらに靑雲氣なきものは、惡くあきらめ、筋さへ宜ければ何をしてもよき抔といふて、嫌疑もなく、終には人倫に背ける行も、仕出すものなり。さて又頭支配の恩を受け、昇進して、たとへ其人より高位に昇るとも、一旦恩を受けし人には、其恩をわすれず、生涯謝すべし。鳥獸すら、人の恩を知るものなり、しかるを、尊き人と生れ、恩を知らざるさへも、言語同斷なるに、まして俗にいへる、恩を仇にて報ふの類も少からず、何ぞ禽獸に恥ぢざらむや、淺ましき事なり。

新字:是非ひらく、福寿草にも、手入かな。此句のごとく、同じ開く花も、手入によりて、早くも、又大輪にもひらく事なり。されども、室咲の花は、直に凋むの憂あり、唯だ水をかけ養ひをするの手入こそよけれ、人の昇進も、斯の如くにて、その勤むべき道を出精し、頭支配へも諂ふの意なく、深切にその理を以て尊敬するの類は、昇進を願ふものの手入か。賄賂を以て進まむと欲するの類は、室咲の花と同じく、直に凋み、身木も衰ふることとなり。俗人は昇進を願ふ心より、今日の行を大に慎むものなり。さらに青雲気なきものは、悪くあきらめ、筋さへ宜ければ何をしてもよき抔といふて、嫌疑もなく、終には人倫に背ける行も、仕出すものなり。さて又頭支配の恩を受け、昇進して、たとへ其人より高位に昇るとも、一旦恩を受けし人には、其恩をわすれず、生涯謝すべし。鳥獣すら、人の恩を知るものなり、しかるを、尊き人と生れ、恩を知らざるさへも、言語同断なるに、まして俗にいへる、恩を仇にて報ふの類も少からず、何ぞ禽獣に恥ぢざらむや、浅ましき事なり。

書き下し

是非ひらく、福壽草にも、手入かな。此句のごとく、同じ開く花も、手入によりて、早くも、又大輪にもひらく事なり。されども、室咲の花は、直に凋むの憂あり、唯だ水をかけ養ひをするの手入こそよけれ、人の昇進も、斯の如くにて、その勤むべき道を出精し、頭支配へも諂ふの意なく、深切にその理を以て尊敬するの類は、昇進を願ふものの手入か。賄賂を以て進まむと欲するの類は、室咲の花と同じく、直に凋み、身木も衰ふることとなり。俗人は昇進を願ふ心より、今日の行を大に愼むものなり。さらに靑雲氣なきものは、惡くあきらめ、筋さへ宜ければ何をしてもよき抔といふて、嫌疑もなく、終には人倫に背ける行も、仕出すものなり。さて又頭支配の恩を受け、昇進して、たとへ其人より高位に昇るとも、一旦恩を受けし人には、其恩をわすれず、生涯謝すべし。鳥獸すら、人の恩を知るものなり、しかるを、尊き人と生れ、恩を知らざるさへも、言語同斷なるに、まして俗にいへる、恩を仇にて報ふの類も少からず、何ぞ禽獸に恥ぢざらむや、淺ましき事なり。

現代語訳

「是非ひらく、福寿草にも、手入かな。」この句のように、同じ開く花でも、手入れによって早くも、また大輪にも開くものです。しかし、室咲きの花はすぐにしぼむ憂いがあり、ただ水をかけて養う手入れこそよいのです。人の昇進もこのようで、勤めるべき道に精を出し、頭や支配に対しても諂う心なく、親切に道理をもって尊敬するような類は、昇進を願う者の手入れでしょうか。賄賂で進もうとする類は、室咲きの花と同じで、すぐにしぼみ、身も木も衰えることになります。俗人は昇進を願う心から、今日の行いを大いに慎みます。まったく青雲の志のない者は、悪くあきらめ、筋さえ良ければ何をしてもよいなどと言って、嫌疑もなく、ついには人倫に背く行いまでしでかします。さて、頭や支配の恩を受けて昇進し、たとえその人より高位に昇っても、一度恩を受けた人には、その恩を忘れず、生涯謝すべきです。鳥獣すら人の恩を知るものです。それなのに、尊い人と生まれて恩を知らないだけでも言語道断なのに、まして世にいう恩を仇で返す類も少なくありません。どうして禽獣に恥じないでしょうか。嘆かわしいことです。

解説

昇進を願うこと自体は否定せず、福寿草の手入れの比喩で、正しい努力と賄賂による近道を分ける条です。室咲きの花は早く咲いてもすぐしぼむ、という指摘が要点です。さらに、昇進後も恩を受けた人への感謝を生涯忘れるなと戒めます。現代の組織でも、近道の根回しや実績の水増しは短期的には効いても、信用を失うと脆いものです。管理職は、部下の昇進を支える際も、地道な手入れを評価する仕組みを整え、自分自身も恩を受けた人への感謝を忘れない姿勢を持つことが大切です。

この章句が説くこと

昇進手入れ福寿草賄賂恩青雲の志

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