退食閑話 / 文芸・経済・考証の弊
神聖の大道を高閣に束ねて、浮弄の虛文をば翫び、風流に身を委ね、世を嘲り、自からゆるして逸樂に任せて身を終るの流に至り、又は莊周等の流におちいり、自からほしひまゝにするの徒にして、仁人君子の道にあらず、又經濟學と稱するもの、國家の事功に益ありといへども、其末流は近効小利に趨りて、一己の私智を恃みて、聖賢の大道に本づかざれば、利を先にして義を後にするの害なきにあらず、又自己の脩身のみ說て、報國愛人の義もなく、民人社稷を餘處にする類も、身に本づくるの意は善なれども、楊朱の道に近く、庶人の行にして、士太夫の道にあらず、其弊に至りては、乳臭の兒も高妙精微の論をなして、實用に遠く、事業に施す事を知らず、又考證の學といふもの、古を稽て後世の惑を辯ず、古訓に據りて經義を說きて學者に益あれども、其弊をいふときは務て新奇纖巧を競ひ、聖人の大業盛德をば論ぜずして、無用の辨に歲月をついやし、歸する處は堅白異同の說にひとしくして、實事に益なし、
新字:神聖の大道を高閣に束ねて、浮弄の虚文をば翫び、風流に身を委ね、世を嘲り、自からゆるして逸楽に任せて身を終るの流に至り、又は荘周等の流におちいり、自からほしひまゝにするの徒にして、仁人君子の道にあらず、又経済学と称するもの、国家の事功に益ありといへども、其末流は近効小利に趨りて、一己の私智を恃みて、聖賢の大道に本づかざれば、利を先にして義を後にするの害なきにあらず、又自己の脩身のみ説て、報国愛人の義もなく、民人社稷を余処にする類も、身に本づくるの意は善なれども、楊朱の道に近く、庶人の行にして、士太夫の道にあらず、其弊に至りては、乳臭の児も高妙精微の論をなして、実用に遠く、事業に施す事を知らず、又考証の学といふもの、古を稽て後世の惑を弁ず、古訓に拠りて経義を説きて学者に益あれども、其弊をいふときは務て新奇繊巧を競ひ、聖人の大業盛徳をば論ぜずして、無用の弁に歳月をついやし、帰する処は堅白異同の説にひとしくして、実事に益なし、
書き下し
神聖の大道を高閣に束ねて、浮弄の虛文をば翫び、風流に身を委ね、世を嘲り、自からゆるして逸樂に任せて身を終るの流に至り、又は莊周等の流におちいり、自からほしひまゝにするの徒にして、仁人君子の道にあらず、又經濟學と稱するもの、國家の事功に益ありといへども、其末流は近効小利に趨りて、一己の私智を恃みて、聖賢の大道に本づかざれば、利を先にして義を後にするの害なきにあらず、又自己の脩身のみ說て、報國愛人の義もなく、民人社稷を餘處にする類も、身に本づくるの意は善なれども、楊朱の道に近く、庶人の行にして、士太夫の道にあらず、其弊に至りては、乳臭の兒も高妙精微の論をなして、實用に遠く、事業に施す事を知らず、又考證の學といふもの、古を稽て後世の惑を辯ず、古訓に據りて經義を說きて學者に益あれども、其弊をいふときは務て新奇纖巧を競ひ、聖人の大業盛德をば論ぜずして、無用の辨に歲月をついやし、歸する處は堅白異同の說にひとしくして、實事に益なし、
現代語訳
神聖の大道を高閣に束ねて、実のない飾りの文章をもてあそび、風流に身を任せ、世をあざけり、自分を許して安楽に任せて身を終える流れに至り、あるいは荘周らの流れに陥って、自ら勝手気ままにする徒であり、仁人君子の道ではありません。また経済学と称するものは、国家の事業や功績に益があるとはいえ、その末流は目先の効果と小利に走り、一己の私智を頼んで聖賢の大道に基づかなければ、利を先にして義を後にする害がないわけではありません。また自分の修身だけを説いて、報国愛人の義がなく、民人・社稷をよそにする類も、身に基づける意図は善でも、楊朱の道に近く、庶人の行いであって、士大夫の道ではありません。その弊に至っては、乳臭い子どもまで高妙精微の論をなして、実用から遠く、事業に施すことを知りません。また考証の学というものは、古を考えて後世の惑いを弁じ、古訓に拠って経義を説き、学者に益はありますが、その弊をいえば、つとめて新奇と繊巧を競い、聖人の大業盛徳を論じず、無用の弁に歳月を費やし、帰するところは堅白異同の説に等しく、実際の事に益がありません。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
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『退食閑話』・無用の長物を養わず刑政のみにて治める故に、世は胥吏の世となりて聖賢の道を學びしは、少く才智さへあれば濟む事になり、學問は儒者の私言になり、其身も老儒先生となるに止る、訓詁を學びし者は文字句讀に終身の力を盡して、心性を說く者は詩書執禮の活用を講究せず、近世太平久しきにより風俗の渝薄に、いよ〱名を釣り才を鬪せしむるのみになりて、講釋詩歌文章書畫の類を學ぶ者の能事と心得、宗祉の安危は胡越の相關からざるが如く、一心を治れば國も治るなどゝ、先儒の口眞似をして高く標持するのみにて、事業に施すべき事をも學ばず、人情世態を察せず、民間の利害をも知らず、事業とは全く懸隔にして用をなさず、學館を設て人材を敎育し給はんに、かくの如く無用の長物を養ひ給ふべきにあらず、學士ならんものは事業に施すべき實用を講究し、孔門弟子德行言語政事文學等、各其才の長ずる所にしたがふて、國家の用をなすべき事を學びしが如く、才德成就して國家の恩を報ひたてまつらんと志し、文學を好むものは餘力を以て詩歌文章をも學び、意思を述べ、性情を吟味するが如きも、
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『慎思録』巻之四吾曹書を読むと雖も、然れども経済の学に通ぜず。故に世の君相、儒生を以て無用の徒と為し、事宜に通ぜずとし、且つ仁義を以て迂闊にして世用に適せずと為す。豈に啻に君相のみ然らんや。世の学を好まざる者、往往にして皆此の如し。是れも亦た吾曹の学術明らかならず、且つ不徳なるに由るなり。然らば則ち世人の学を好まざるは、吾曹も亦た其の罪を半ばにすべきなり。
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『慎思録』巻之四学術は世を経むる所以なり。而るに後世学を為す者、毎に経世の用に適せざる者は何ぞや。蓋し究理知道の学有り。是れ世を経め用に適する所以なり。以て有用の学と為すべし。章句訓詁の学有り。是れ徒らに口耳の習ひに従ひて、致知知道の工夫無し。経世の用に適せざる所以なり。惟だ無用の学と為すべし。凡そ儒者の学なる者は、有用の学なり。俗学及び異学なる者は、無用の学なり。豈に止だ無用と為すのみならんや。復た将に有用の学を害すること有らんとす。無益を作して有益を害すと謂ふべし。学者其の従ふ所を択ばざるべけんや。
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『弘道館記述義』・學問事業・孔子に学ぶ四弊の正し方而して英偉倜儻の人は、亦或いは草野巌穴の間に冷笑す。天下の事も亦危ふし。是れ実学を廃するの弊なり。其の古に拘はる者は、旧典を墨守して変通を知らず、礼を講じ儀を習ふも木偶に非ざれば則ち俳優、以て経に合すと為す。其の世に阿る者は、己を枉げ人に従ひ、閹然として迎合し至らざる所無く、以て権に通ずと為す。是れ経に泥み権に流るるの弊なり。天下の道を学ぶ者の此の四弊を免るる者は或いは寡し。是れ猶ほ工匠にして其の規矩を廃するがごとし。道の行はれざるは其の不幸に非ざるなり。然らば則ち何を以て其の弊を矯めん。曰く、亦孔子に折衷するのみ。夫れ賢を賢として色に易へ、能く君父に事へ朋友に信あれば、未だ学ばずと曰ふと雖も、孔門の徒は必ず之を学べりと謂ふ。然らば則ち向の躬行を忽にする者は、既に学べりと曰ふと雖も、決して孔門の学に非ず。詩三百を誦して之に授くるに政を以てして達せず、四方に使ひして専対すること能はざれば、孔子は多しと雖も亦奚を以て為さんと謂へり。然らば則ち所謂実学を廃する者も、亦孔子の与せざる所なり。麻冕は礼なり、而るに純に従ふは倹なり、権に通ず。君臣の大節に至りては、必ず下に拝するの礼に従ふは、経を守るなり。郷人の儺には朝服して阼階に立ち、猟人の猟較には亦猟較す、古に拘はらざるなり。泰山の旅、顓臾の事、陳恒の乱に至りては、其の家宰に責め君相に告ぐる所以、侃侃として正議し顧慮有ること無し、世に阿らざるなり。然らば則ち所謂経に泥み権に流るる者も、亦皆孔子の徒に非ず。苟くも能く四弊を矯め、孔氏を誦法せば、奚ぞ学問事業の一に出でざるを患へん。夫れ然る後に斯の道の規矩は、将に施すとして可ならざる無からん。若し其の用と不用とは、人なり、亦天なり。学者尤めず怨みざるべし。
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『退食閑話』・蘭学の害と小道人をして聖賢の書をば席上の翫物となさしむるにいたる、又近世蘭學といふもの世に行はる、其本は譯官の和蘭談を翻譯するのみにして、世の害とならず、是によりて海外の事情をも審にして、或は其藝を取て國家の用を助くる事もあるべけれども、 聖賢の大道を知らざるもの胸中に定見もなく、徒に蘭書を見て新奇の巧辨を悅びしより、窮理と稱して一草一木禽獸蟲魚等の空理を穿鑿し、人の支體を屠り、天地に陰陽動靜の活意ある事を論じて、器玩に均しく死物とす、其甚しきは國家に嚴禁せらるゝ西洋の邪敎をも窃に信じて、其敎實は邪說にあらずなど憚らずして口舌を振ひ、愚民を迷はす、兵書にも人をして敵の美を說かしむる事なかれといへども、國家かねても外虜の防御を嚴にせらるゝ深意をも憚らず、民心を移動して陰に外虜を尊信せしむる術をなすは、國家の姦民とも稱すべきなり、かくのごとく學士書生の論ずる所さま〱に異同の說ありて、各其長ずる所はあれども、其本を失ふて、神聖の大道に明らかならざれば、此を捨てて彼に從ふといふに至るもの又多し、經語に小道と雖も必ず觀るべき者有り、遠きを致さば泥まんことを恐る。
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人生を、一行の式にしてみた。
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