徂徠先生答問書 / 卷下
一宋儒古言を失候ても道理は古今一般との儀、此御尋は無理の至極に候。古言を失候へば本文の義理違候。本文の義理違候を道理一般とは、あまりに贔負過と存候。一無點の書を讀習候は、僧家の經讀の如く致したるが能候哉の由、夫は如何樣共可被成候。直讀に成共、返り候て成とも、樣々に可被成候。指當り一難事と思召の由、尤左樣可有御座候。乍去點を御賴候分にては、御學問はいつ迄も同事に可有之候。只歷史又は五雜爼類の物にても。又は醫書兵書の類にても、何にても兎角讀易き物を御見習候が能御座候。一五代一覽を眞字に御直し御覽可被成候由、夫もよく可有御座候得共、左候はヾ先歷史御覽可被成候。歷史御覽なく、只今の通の材木にて眞字に御直しは何の益も有之間敷候。
新字:一宋儒古言を失候ても道理は古今一般との儀、此御尋は無理の至極に候。古言を失候へば本文の義理違候。本文の義理違候を道理一般とは、あまりに贔負過と存候。一無点の書を読習候は、僧家の経読の如く致したるが能候哉の由、夫は如何様共可被成候。直読に成共、返り候て成とも、様々に可被成候。指当り一難事と思召の由、尤左様可有御座候。乍去点を御頼候分にては、御学問はいつ迄も同事に可有之候。只歴史又は五雑爼類の物にても。又は医書兵書の類にても、何にても兎角読易き物を御見習候が能御座候。一五代一覧を真字に御直し御覧可被成候由、夫もよく可有御座候得共、左候はヾ先歴史御覧可被成候。歴史御覧なく、只今の通の材木にて真字に御直しは何の益も有之間敷候。
書き下し
一宋儒古言を失候ても道理は古今一般との儀、此御尋は無理の至極に候。古言を失候へば本文の義理違候。本文の義理違候を道理一般とは、あまりに贔負過と存候。一無点の書を読習候は、僧家の経読の如く致したるが能候哉の由、夫は如何様共可被成候。直読に成共、返り候て成とも、様々に可被成候。指当り一難事と思召の由、尤左様可有御座候。乍去点を御頼候分にては、御学問はいつ迄も同事に可有之候。只歴史又は五雑爼類の物にても。又は医書兵書の類にても、何にても兎角読易き物を御見習候が能御座候。一五代一覧を真字に御直し御覧可被成候由、夫もよく可有御座候得共、左候はヾ先歴史御覧可被成候。歴史御覧なく、只今の通の材木にて真字に御直しは何の益も有之間敷候。
現代語訳
一つ。宋儒は古い言葉の意味を失っていても、道理は今も昔も同じだ、とのこと。このお尋ねは無理の極みです。古い言葉を失えば、本文の意味が違ってきます。本文の意味が違っているのに道理は同じだと言うのは、あまりにひいきが過ぎると思います。一つ。訓点のない書物を読み習うには、僧侶の経読みのようにするのがよいかとのこと。それはどのようにでもなさってよいのです。直読(音読み)でも、返り点に従って返って読んでも、いろいろになさってください。差し当たり一つの難事とお思いとのこと、もっともでしょう。しかし、点を人に頼んでいるうちは、ご学問はいつまでも同じことでしょう。ただ歴史書、または『五雑組』の類のものでも、あるいは医書・兵書の類でも、何でもとにかく読みやすいものを見習われるのがよいでしょう。一つ。『五代一覧』を真字(漢文)に直してご覧になるとのこと。それもよいことでしょうが、そうなさるなら、まず歴史書をご覧になるべきです。歴史書をご覧にならず、今のままの材料で真字に直しても、何の益もないでしょう。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
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歎異抄・第十二条経釈を読み学せざる輩、往生不定の由のこと。この条、すこぶる不足言の義と言いつべし。 他力真実の旨を明かせる諸の聖教は、本願を信じ念仏を申さば仏に成る、そのほか何の学問かは往生の要なるべきや。 まことにこの理に迷えらん人は、いかにもいかにも学問して、本願の旨を知るべきなり。 経釈を読み学すといえども、聖教の本意を心得ざる条、もっとも不便のことなり。
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人物志・體別夫れ學は材を成す所以なり、疏は情を推す所以なり。偏材の性は、移轉すべからず。
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言志四録・南洲手抄学之を古訓に稽へ、問之を師友に質すは、人皆之を知る。学必ず之を躬に学び、問必ず諸を心に問ふは、其れ幾人有らんか。
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言志四録・南洲手抄朝にして食はずば、昼にして饑う。少うして学ばずば、壮にして惑ふ。饑うるは猶忍ぶ可し、惑ふは奈何ともす可からず。
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論語・為政篇子曰く、異端を攻むるは、斯れ害のみ。
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説苑・建本子思曰わく、学は才を益す所以なり、礪は刃を致す所以なり。吾嘗て幽処して深く思うも、学の速やかなるに若かず。吾嘗て跂ちて望むも、高きに登りて博く見るに若かず。故に風に順いて呼べば、声疾しきを加えざれども聞く者衆し。丘に登りて招けば、臂長きを加えざれども見る者遠し。故に魚は水に乗り、鳥は風に乗り、草木は時に乗る。
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