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徂徠先生答問書 / 卷中

一御號令の文言御見え被成候。事の宜不宜は差置御文言不宜存候。餘りに被仰分共相聞え申候。號令は如此には不認物に候。畢竟無理御座候故、下の人得心仕間敷歟と御疑有之候に付、事の子細を手をわけて被仰分候事と相見え申候。果て無理に候はゞ號令不被成がよく御座候。若又下の爲宜事に候はゞ、得心不仕候共押て被仰付可然存候。仰分けは不入儀に候。其子細は民は愚かなる物にて候故、如何樣共上たる人了簡を極め申付候事に候。吾爲能事と申候事は、後にならでは合點は不仕候物に候。たとへば幼少なる子どもに物のわかちを一々に得道させんとするがごとくに候。是無益の事にて候。上下の位違候故必害多御座候。

新字:一御号令の文言御見え被成候。事の宜不宜は差置御文言不宜存候。余りに被仰分共相聞え申候。号令は如此には不認物に候。畢竟無理御座候故、下の人得心仕間敷歟と御疑有之候に付、事の子細を手をわけて被仰分候事と相見え申候。果て無理に候はゞ号令不被成がよく御座候。若又下の為宜事に候はゞ、得心不仕候共押て被仰付可然存候。仰分けは不入儀に候。其子細は民は愚かなる物にて候故、如何様共上たる人了簡を極め申付候事に候。吾為能事と申候事は、後にならでは合点は不仕候物に候。たとへば幼少なる子どもに物のわかちを一々に得道させんとするがごとくに候。是無益の事にて候。上下の位違候故必害多御座候。

書き下し

一御号令の文言御見え被成候。事の宜不宜は差置御文言不宜存候。余りに被仰分共相聞え申候。号令は如此には不認物に候。畢竟無理御座候故、下の人得心仕間敷歟と御疑有之候に付、事の子細を手をわけて被仰分候事と相見え申候。果て無理に候はゞ号令不被成がよく御座候。若又下の為宜事に候はゞ、得心不仕候共押て被仰付可然存候。仰分けは不入儀に候。其子細は民は愚かなる物にて候故、如何様共上たる人了簡を極め申付候事に候。吾為能事と申候事は、後にならでは合点は不仕候物に候。たとへば幼少なる子どもに物のわかちを一々に得道させんとするがごとくに候。是無益の事にて候。上下の位違候故必害多御座候。

現代語訳

御号令の文言を拝見しました。事の良し悪しはさておき、御文言がよくないと存じます。あまりに言い訳がましく聞こえます。号令はこのようには書かないものです。結局、無理があるので、下の人が納得しないのではないかとお疑いになり、事の子細を手分けして弁明なさっているものと見えます。結局無理なことなら、号令はなさらないほうがよいのです。もしまた下のためによいことなら、納得しなくても押して命じるのがよいと存じます。弁明は要らないことです。そのわけは、民は愚かなものですから、どのようにでも上の人が考えを極めて申しつけるのです。自分のためによいことだということは、後にならなければ合点しないものです。たとえば、幼い子どもに物の分別を一々納得させようとするようなものです。これは無益なことです。上下の位が違いますので、必ず害が多いのでございます。

解説

家老が示した号令の文案に、徂徠は言い訳がましいと注文をつける。下が納得しないと案じて理由を並べ立てるのは、無理がある証拠だ。無理なら出さぬがよく、下のためになるなら納得を待たず命じればよい。よい事かどうかは後になってわかるものだからだという。「民は愚か」という言い方には身分制の時代の限界があるが、指示に弁明を重ねるほど決断の自信のなさが伝わるという点は鋭い。決める前に考え抜き、決めたら簡潔に伝えよという教えとして読める。

この章句が説くこと

号令決断政治上下説明君子

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