導師導古典を学びたいすべての人に

徂徠先生答問書 / 卷中

一被仰下候政務の儀共、尤の樣に相聞え候得共、根に入不申事と存奉候。聖人の道は、天を敬し祖宗を敬し候事を本と致し候。天より附屬被成、祖宗より傳へたる國に候。自分の物と思召候事以の外なる儀に候。古より祖宗の法は改ざる物と相見え申候。開國の時に御生れ候はゞ如何樣とも御心次第に候得共、御先祖より傳へ候國を、御心儘に法を御立替候半事は自由の至に候。是御先祖を御敬ひ申事にては無御座候。其害甚敷事に候。其子細は、新たに國を賜りて諸侯となる人は、あらたに家敷取をして家を造るが如くに候。先祖より持傳たる國をうけたる人は、人の造りたる古家に住がごとくに候。今其古家の住居を仕直し候半事は、如何樣に直し候共、元來の物ずき別に候故、十分によくは直され申間敷候。こゝの柱をぬけ、かしこの引物をとれとて、當分の物ずきに任せて直候時は、思ひの外なる所の根駄落ち柱ゆがみ、夫より家の弱みとなり、直さぬ前よりは惡敷成候事多き物に候。愚老ごときの貧者の古家に住なれ候者ならでは、此喩をも御存知有間敷候。

新字:一被仰下候政務の儀共、尤の様に相聞え候得共、根に入不申事と存奉候。聖人の道は、天を敬し祖宗を敬し候事を本と致し候。天より附属被成、祖宗より伝へたる国に候。自分の物と思召候事以の外なる儀に候。古より祖宗の法は改ざる物と相見え申候。開国の時に御生れ候はゞ如何様とも御心次第に候得共、御先祖より伝へ候国を、御心儘に法を御立替候半事は自由の至に候。是御先祖を御敬ひ申事にては無御座候。其害甚敷事に候。其子細は、新たに国を賜りて諸侯となる人は、あらたに家敷取をして家を造るが如くに候。先祖より持伝たる国をうけたる人は、人の造りたる古家に住がごとくに候。今其古家の住居を仕直し候半事は、如何様に直し候共、元来の物ずき別に候故、十分によくは直され申間敷候。こゝの柱をぬけ、かしこの引物をとれとて、当分の物ずきに任せて直候時は、思ひの外なる所の根駄落ち柱ゆがみ、夫より家の弱みとなり、直さぬ前よりは悪敷成候事多き物に候。愚老ごときの貧者の古家に住なれ候者ならでは、此喩をも御存知有間敷候。

書き下し

一被仰下候政務の儀共、尤の様に相聞え候得共、根に入不申事と存奉候。聖人の道は、天を敬し祖宗を敬し候事を本と致し候。天より附属被成、祖宗より伝へたる国に候。自分の物と思召候事以の外なる儀に候。古より祖宗の法は改ざる物と相見え申候。開国の時に御生れ候はゞ如何様とも御心次第に候得共、御先祖より伝へ候国を、御心儘に法を御立替候半事は自由の至に候。是御先祖を御敬ひ申事にては無御座候。其害甚敷事に候。其子細は、新たに国を賜りて諸侯となる人は、あらたに家敷取をして家を造るが如くに候。先祖より持伝たる国をうけたる人は、人の造りたる古家に住がごとくに候。今其古家の住居を仕直し候半事は、如何様に直し候共、元来の物ずき別に候故、十分によくは直され申間敷候。こゝの柱をぬけ、かしこの引物をとれとて、当分の物ずきに任せて直候時は、思ひの外なる所の根駄落ち柱ゆがみ、夫より家の弱みとなり、直さぬ前よりは悪敷成候事多き物に候。愚老ごときの貧者の古家に住なれ候者ならでは、此喩をも御存知有間敷候。

現代語訳

お申し越しの政務の件々は、もっともなように聞こえますが、根本に届いていないことと存じます。聖人の道は、天を敬い祖宗を敬うことを本とします。天から授けられ、祖宗から伝わった国です。自分の物とお考えになるのはもってのほかです。昔から祖宗の法は改めないものと見えます。国を開いた時にお生まれなら、どのようにもお心次第ですが、ご先祖から伝わる国を、お心のままに法を立て替えようとなさるのは、勝手の極みです。これはご先祖を敬うことではございません。その害ははなはだしいのです。その子細は、新たに国を賜って諸侯となる人は、新たに屋敷地を取って家を造るようなものです。先祖から持ち伝えた国を受けた人は、人の造った古家に住むようなものです。いまその古家の住まいを直そうとすれば、どのように直しても、もともとの好み(造り)が別ですので、十分によくは直せないでしょう。ここの柱を抜け、あそこの梁を取れと、当座の好みに任せて直すと、思いのほかのところで根太が落ち柱がゆがみ、そこから家の弱みとなって、直す前より悪くなることが多いものです。愚老のような貧者で古家に住み慣れた者でなければ、この喩えもご存じないでしょう。

解説

家老が政務の改革案を示したのに対し、徂徠は根本に届いていないと答える。国は天から授かり祖宗から伝わったもので、自分の物ではない。創業者なら思うままに制度を作れるが、受け継いだ者が好みで法を作り替えるのは勝手の極みだという。それを古家の手直しに喩え、当座の好みで柱や梁を抜けば、思わぬ所が崩れて直す前より悪くなると説く。二代目・三代目の経営者が先代の仕組みを一気に変えようとするときに、まず聞くべき戒めである。

この章句が説くこと

祖宗改革承継天政治先王

関連する章句

古典の入門書『人生の教科書』の表紙

人生の答えは、ぜんぶ古典に書いてあった。

古典の入門書『人生の教科書』(PDF)と、師導の全機能1か月がセットで700円。二十四の悩みに、論語・老子・孫子から徒然草・五輪書までが答えます。

本の中身を見る
古典の入門書『人生の教科書』(PDF)+師導1か月=700円 本を見る