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徂徠先生答問書 / 卷中

一經濟の儀何角と御穿鑿被仰聞候。但法と人との差別御勘辨被成候哉無心元存候。成程被仰下候ごとく、法もよき法有之候。とくと不仕法も有之候。依之法の吟味もなくて不叶事に候得共、經濟を談候人、多くは只仕形の善惡計を吟味仕候は、道を不存候過にて候。苟非其人道不虛行と申事有之候。法よりは人猶肝要にて御座候。たとひ法は惡敷候共、人能候へば相應の利益は有之物に候。法計の吟味仕候て人惡鋪候へば何の用にも立不申候。又人に隨て法は違候物に候。法は先王の法ほど吟味つまり候事は無之候へども、王莽王安石が周禮は毒を天下に流し申候。經濟の法計を御穿鑿被成候て、人の僉議無之候は、白人醫者の名方を集め候類にて候。

新字:一経済の儀何角と御穿鑿被仰聞候。但法と人との差別御勘弁被成候哉無心元存候。成程被仰下候ごとく、法もよき法有之候。とくと不仕法も有之候。依之法の吟味もなくて不叶事に候得共、経済を談候人、多くは只仕形の善悪計を吟味仕候は、道を不存候過にて候。苟非其人道不虚行と申事有之候。法よりは人猶肝要にて御座候。たとひ法は悪敷候共、人能候へば相応の利益は有之物に候。法計の吟味仕候て人悪鋪候へば何の用にも立不申候。又人に随て法は違候物に候。法は先王の法ほど吟味つまり候事は無之候へども、王莽王安石が周礼は毒を天下に流し申候。経済の法計を御穿鑿被成候て、人の僉議無之候は、白人医者の名方を集め候類にて候。

書き下し

一経済の儀何角と御穿鑿被仰聞候。但法と人との差別御勘弁被成候哉無心元存候。成程被仰下候ごとく、法もよき法有之候。とくと不仕法も有之候。依之法の吟味もなくて不叶事に候得共、経済を談候人、多くは只仕形の善悪計を吟味仕候は、道を不存候過にて候。苟非其人道不虚行と申事有之候。法よりは人猶肝要にて御座候。たとひ法は悪敷候共、人能候へば相応の利益は有之物に候。法計の吟味仕候て人悪鋪候へば何の用にも立不申候。又人に随て法は違候物に候。法は先王の法ほど吟味つまり候事は無之候へども、王莽王安石が周礼は毒を天下に流し申候。経済の法計を御穿鑿被成候て、人の僉議無之候は、白人医者の名方を集め候類にて候。

現代語訳

経済(経世済民、国を治め民を救うこと)について、あれこれご詮索のことを伺いました。ただ、法と人との区別をよくお考えになっているかどうか、心もとなく思います。おっしゃるとおり、法にもよい法があり、不十分な法もあります。そのため法の吟味もしなければなりませんが、経済を論じる人の多くが、ただやり方の善し悪しばかりを吟味するのは、道を知らない過ちです。「その人でなければ、道はむなしく行われない」(『易経』繋辞伝)という言葉があります。法よりは人がなお肝要です。たとえ法が悪くても、人がよければそれ相応の利益はあるものです。法ばかりを吟味して人が悪ければ、何の役にも立ちません。また人によって法は違ってくるものです。法は先王の法ほど吟味し尽くされたものはありませんが、王莽や王安石の周礼(にならった制度)は天下に毒を流しました。経済の法ばかりをご詮索なさって人の詮議がないのは、素人医者が名高い処方を集めるようなものです。

解説

庄内藩の家老から藩政の「法」について問われた徂徠は、法より人が肝要だと答える。悪い法でも人がよければ利益はあり、よい法でも人が悪ければ役に立たない。先王の法として名高い周礼も、王莽や王安石の手にかかると天下に毒を流した。制度論ばかり追うのは、素人が名医の処方箋を集めて安心するようなものだという。徂徠は『政談』で制度改革を論じた人だが、その前提には常に人の問題がある。仕組みや人事制度を整えても、それを運用する人を得なければ機能しない。人の話を抜きにした組織論は空回りする。

この章句が説くこと

法人材経済政治周礼王安石

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