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春秋左氏伝 / 定公十年 向魋への偏愛

駟赤將射之。侯犯止之。曰。謀免我。侯犯請行。許之。駟赤先如宿。侯犯殿。每出一門。郈人閉之。及郭門。止之曰。子以叔孫氏之甲出。有司若誅之。群臣懼死。駟赤曰。叔孫氏之甲有物。吾未敢以出。犯謂駟赤曰。子止而與之數。駟赤止而納魯人。侯犯奔齊。齊人乃致郈。宋公子地嬖蘧富臘。十一分其室。而以其五與之。公子地有白馬四。公嬖向魋。魋欲之。公取而朱其尾鬣以與之。地怒。使其徒抶魋而奪之。魋懼將走。公閉門而泣之目盡腫。母弟辰曰。子分室以與獵也。而獨卑魋。亦有頗焉。子為君禮。不過出竟。君必止子。公子地出奔陳。公弗止。辰為之請。弗聽。辰曰。是我迋吾兄也。吾以國人出。君誰與處。

新字:駟赤将射之。侯犯止之。曰。謀免我。侯犯請行。許之。駟赤先如宿。侯犯殿。毎出一門。郈人閉之。及郭門。止之曰。子以叔孫氏之甲出。有司若誅之。群臣懼死。駟赤曰。叔孫氏之甲有物。吾未敢以出。犯謂駟赤曰。子止而与之数。駟赤止而納魯人。侯犯奔斉。斉人乃致郈。宋公子地嬖蘧富臘。十一分其室。而以其五与之。公子地有白馬四。公嬖向魋。魋欲之。公取而朱其尾鬣以与之。地怒。使其徒抶魋而奪之。魋懼将走。公閉門而泣之目尽腫。母弟辰曰。子分室以与猟也。而独卑魋。亦有頗焉。子為君礼。不過出竟。君必止子。公子地出奔陳。公弗止。辰為之請。弗聴。辰曰。是我迋吾兄也。吾以国人出。君誰与処。

書き下し

駟赤、將に之を射んとす。侯犯、之を止めて曰く、「我を免れしめんことを謀れ」と。侯犯、行かんことを請ふ。之を許す。駟赤、先づ宿に如き、侯犯、殿す。一門を出づる每に、郈人、之を閉づ。郭門に及び、之を止めて曰く、「子、叔孫氏の甲を以て出づ。有司若し之を誅せば、群臣、死を懼る」と。駟赤曰く、「叔孫氏の甲には物有り。吾、未だ敢へて以て出でず」と。犯、駟赤に謂ひて曰く、「子止まりて之と數へよ」と。駟赤、止まりて魯人を納る。侯犯、齊に奔る。齊人、乃ち郈を致す。宋の公子地、蘧富臘を嬖す。其の室を十一分して、其の五を以て之に與ふ。公子地に白馬四有り。公、向魋を嬖す。魋、之を欲す。公、取りて其の尾鬣を朱にして以て之に與ふ。地怒り、其の徒をして魋を抶ちて之を奪はしむ。魋懼れて將に走らんとす。公、門を閉ぢて之に泣き、目盡く腫る。母弟辰曰く、「子、室を分ちて以て獵に與ふ。而るに獨り魋を卑しむは、亦た頗有り。子、君の為に禮せよ。竟を出づるに過ぎずして、君必ず子を止めん」と。公子地、出でて陳に奔る。公、止めず。辰、之が為に請ふ。聽かず。辰曰く、「是れ我、吾が兄を迋くなり。吾、國人を以て出でば、君誰と與に處らん」と。

現代語訳

駟赤は(侯犯を守るふりをして)群衆を射ようとした。侯犯はそれを止めて言った。「私が逃れられるように計らってくれ」。侯犯は立ち退かせてほしいと願い出て、郈の人々はこれを許した。駟赤が先に宿に向かい、侯犯はしんがりとなった。門を一つ出るごとに、郈の人々はその門を閉じた。外郭の門まで来ると、人々は侯犯を止めて言った。「あなたは叔孫氏の甲冑を持って出ていく。もし役人がそれを咎めれば、われわれは死罪になるのが恐ろしい」。駟赤は言った。「叔孫氏の甲冑には印がある。私はそれを持ち出したりはしない」。侯犯は駟赤に言った。「あなたはここに残って、彼らと数を確かめてくれ」。駟赤はそこに残って、魯の軍を郈に迎え入れた。侯犯は斉に逃れた。斉の人はそこで郈を魯に返した。宋の公子地(景公の弟)は蘧富猟を寵愛し、自分の家財を十一に分けて、そのうち五つを与えた。公子地は白馬を四頭持っていた。景公は向魋を寵愛していて、向魋がその馬を欲しがった。景公は馬を取り上げ、尾とたてがみを赤く染めて向魋に与えた。公子地は怒り、手下に向魋を鞭打たせて馬を奪い返した。向魋は恐れて逃げようとした。景公は門を閉ざして向魋のために泣き、目がすっかり腫れ上がった。景公の同母弟の辰が公子地に言った。「あなたは家財を分けて猟(蘧富猟)に与えている。それなのに魋だけをさげすむのは、やはり偏っている。あなたは君に礼を尽くして、ひとまず国を出なさい。国境を出ないうちに、君は必ずあなたを引き止めるでしょう」。公子地は国を出て陳に逃れたが、景公は引き止めなかった。辰が公子地のために頼んだが、景公は聞き入れなかった。辰は言った。「これでは私が兄を欺いたことになる。私が国人を率いて出て行けば、君はいったい誰と一緒にいるのか」。

解説

駟赤の策の仕上げである。郈の民に囲まれた侯犯は、駟赤に助けを求め、立ち退きを許される。門を出るたびに背後で門が閉じられ、最後の郭門で「叔孫氏の甲冑を持ち出すのか」と止められる。駟赤はそこに残って甲冑を数えるふりをし、そのまま魯の軍を招き入れた。侯犯は最後まで駟赤を味方だと思っていた。後半は宋の内紛の始まりである。景公は寵臣の向魋のために、弟の公子地の白馬を取り上げ、尾とたてがみを赤く染めて与えた。公子地が怒って馬を奪い返すと、景公は目を腫らして泣く。もう一人の弟の辰は公子地に、形だけ出奔すれば兄は引き止めると勧めるが、景公は止めなかった。「是れ我、吾が兄を迋くなり」。仲裁のつもりが兄を欺いた形になった辰は、自分も国を出る覚悟を決める。一人の寵臣への偏愛が、兄弟三人の関係を崩していく。

この章句が説くこと

偏愛寵臣仲裁謀略内紛

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