春秋左氏伝 / 昭公二十八年 小人の腹を以て君子の心と為す
冬。梗陽人有獄。魏戊不能斷。以獄上。其大宗賂以女樂。魏子將受之。魏戊謂閻沒女寬曰。主以不賄。聞於諸侯。若受梗陽。人賄莫甚焉。吾子必諫。皆許諾。退朝待於庭。饋入召之。比置三歎。既食使坐。魏子曰。吾聞諸伯叔諺曰。唯食忘憂。吾子置食之間。三歎何也。同辭而對曰。或賜二小人酒。不夕食。饋之始至。恐其不足。是以歎。中置自咎曰。豈將軍食之。而有不足。是以再歎。及饋之畢。願以小人之腹。為君子之心。屬厭而已。獻子辭梗陽人。
新字:冬。梗陽人有獄。魏戊不能断。以獄上。其大宗賂以女楽。魏子将受之。魏戊謂閻没女寛曰。主以不賄。聞於諸侯。若受梗陽。人賄莫甚焉。吾子必諫。皆許諾。退朝待於庭。饋入召之。比置三嘆。既食使坐。魏子曰。吾聞諸伯叔諺曰。唯食忘憂。吾子置食之間。三嘆何也。同辞而対曰。或賜二小人酒。不夕食。饋之始至。恐其不足。是以嘆。中置自咎曰。豈将軍食之。而有不足。是以再嘆。及饋之畢。願以小人之腹。為君子之心。属厭而已。献子辞梗陽人。
書き下し
冬、梗陽の人獄有り。魏戊斷ずる能はず、獄を以って上る。其の大宗、賂ふに女樂を以ってす。魏子將に之を受けんとす。魏戊、閻沒(えんぼつ)・女寬(じょかん)に謂ひて曰く、「主は賄せざるを以って諸侯に聞こゆ。若し梗陽の人を受けば、賄焉より甚だしきは莫し。吾子必ず諫めよ」と。皆許諾す。朝より退きて庭に待つ。饋(き)入りて之を召す。置くに比(およ)びて三たび歎ず。既に食して坐せしむ。魏子曰く、「吾諸を伯叔に聞く、諺に曰く、『唯だ食のみ憂ひを忘る』と。吾子食を置くの間に三たび歎ずるは、何ぞや」と。辭を同じくして對へて曰く、「或ひと二小人に酒を賜ひ、夕食せず。饋の始めて至るや、其の足らざらんことを恐る。是を以って歎ず。中ば置くに自ら咎めて曰く、『豈に將軍之に食ましむるに、而も足らざる有らんや』と。是を以って再び歎ず。饋の畢(を)はるに及び、願はくは小人の腹を以って、君子の心と為し、屬厭(しょくえん)するのみならんことを」と。獻子、梗陽の人を辭す。
現代語訳
冬、梗陽の人に訴訟事件があった。魏戊(梗陽の大夫)は裁くことができず、事件を上に持ち込み、魏献子の裁きを仰いだ。すると訴訟当事者の一族の大宗(本家の長)が、魏献子に女楽(歌舞の女性たち)を賄賂として贈った。魏子(魏献子)はこれを受け取ろうとした。魏戊は閻没(えんぼつ)と女寛(じょかん)に言った。「わが主は賄賂を受け取らないことで諸侯に知られている。もし梗陽の人の贈り物を受け取れば、これほどの賄賂はない。あなたがたは必ず諫めてほしい」。二人は承諾した。朝廷から退出すると、二人は魏献子の家の庭で待った。食事が運ばれると、魏献子は二人を呼び入れた。料理が並べられるまでのあいだに、二人は三度ため息をついた。食事が終わると、魏献子は二人を座らせて言った。「私は伯父や叔父たちから、『食事のときだけは憂いを忘れる』という諺を聞いている。あなたがたは料理が並べられるあいだに三度ため息をついたが、どうしてなのか」。二人は声をそろえて答えた。「ある人が私ども二人に酒をふるまってくださったので、昨晩は夕食をとりませんでした。料理が運ばれてきたときは、足りないのではないかと心配になり、それでため息をつきました。料理が半ばまで並んだとき、自分を責めて『将軍がふるまってくださる食事が足りないなどということがあろうか』と思い、それで二度目のため息をつきました。料理が出そろったときには、どうか小人の腹具合をもって君子の心とし、ほどよく満ちたところでやめることができますようにと願って、三度目のため息をつきました」。魏献子は梗陽の人の贈り物を断った。
解説
この章句が説くこと
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『春秋左氏伝』桓公二年 国家の敗は官の邪に由る夏四月、郜の大鼎を宋に取る。戊申、大廟に納る。禮に非ざるなり。臧哀伯諫めて曰く、「人に君たる者は、將に德を昭らかにし違を塞ぎ、以って百官に臨照せんとす。猶ほ或いは之を失はんことを懼る、故に令德を昭らかにして以って子孫に示す。是を以って清廟は茅屋、大路は越席、大羹は致へず、粢食は鑿かず、其の儉を昭らかにするなり。袞・冕・黻・珽、帶・裳・幅・舄、衡・紞・紘・綖、其の度を昭らかにするなり。藻・率・鞞・鞛、鞶・厲・游・纓、其の數を昭らかにするなり。火・龍・黼・黻、其の文を昭らかにするなり。五色比象、其の物を昭らかにするなり。錫・鸞・和・鈴、其の聲を昭らかにするなり。三辰の旂旗、其の明を昭らかにするなり。夫れ德は、儉にして度有り、登降數有り。文・物以って之を紀し、聲・明以って之を發し、以って百官に臨照す。百官是に於いて戒懼して、敢へて紀律を易へず。今德を滅して違を立て、其の賂器を大廟に寘きて、以って明らかに百官に示す。百官之に象らば、其れ又何をか誅せん。國家の敗るるは、官の邪に由るなり。官の德を失ふは、寵賂章らかなればなり。郜鼎廟に在り、章らかなること孰れか甚だしからん。武王商に克ち、九鼎を雒邑に遷す。義士猶ほ或いは之を非る。而るを況や將に違亂の賂器を大廟に昭らかにせんとするをや。其れ之を若何せん」と。公聽かず。周の內史之を聞きて曰く、「臧孫達其れ魯に後有らんか。君違へるに、之を諫むるに德を以ってするを忘れず」と。
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