導師導古典を学びたいすべての人に

春秋左氏伝 / 僖公二年 仮道伐虢

二年春,諸侯城楚丘而封衛焉。不書,所會後也。晉荀息請以屈產之乘,與垂棘之璧,假道於虞以伐虢。公曰:「是吾寶也。」對曰:「若得道於虞,猶外府也。」公曰:「宮之奇存焉。」對曰:「宮之奇之為人也,懦而不能強諫。且少長於君,君暱之。雖諫,將不聽。」乃使荀息假道於虞,曰:「冀為不道,入自顛軨,伐鄍三門。冀之既病,則亦唯君故。今虢為不道,保於逆旅,以侵敝邑之南鄙。敢請假道以請罪于虢。」虞公許之,且請先伐虢。宮之奇諫,不聽,遂起師。夏,晉里克、荀息帥師會虞師伐虢,滅下陽。先書虞,賄故也。秋,盟于貫,服江、黃也。齊寺人貂始漏師于多魚。虢公敗戎于桑田。晉卜偃曰:「虢必亡矣。亡下陽不懼,而又有功,是天奪之鑒,而益其疾也!必易晉而不撫其民矣,不可以五稔。」冬,楚人伐鄭,鬬章囚鄭聃伯。

新字:二年春,諸侯城楚丘而封衛焉。不書,所会後也。晋荀息請以屈産之乗,与垂棘之璧,仮道於虞以伐虢。公曰:「是吾宝也。」対曰:「若得道於虞,猶外府也。」公曰:「宮之奇存焉。」対曰:「宮之奇之為人也,懦而不能強諫。且少長於君,君暱之。雖諫,将不聴。」乃使荀息仮道於虞,曰:「冀為不道,入自顛軨,伐鄍三門。冀之既病,則亦唯君故。今虢為不道,保於逆旅,以侵敝邑之南鄙。敢請仮道以請罪于虢。」虞公許之,且請先伐虢。宮之奇諫,不聴,遂起師。夏,晋里克、荀息帥師会虞師伐虢,滅下陽。先書虞,賄故也。秋,盟于貫,服江、黄也。斉寺人貂始漏師于多魚。虢公敗戎于桑田。晋卜偃曰:「虢必亡矣。亡下陽不懼,而又有功,是天奪之鑒,而益其疾也!必易晋而不撫其民矣,不可以五稔。」冬,楚人伐鄭,闘章囚鄭聃伯。

書き下し

二年春、諸侯楚丘に城きて衛を封ず。書せざるは、會する所後るればなり。晉の荀息屈產の乘と、垂棘の璧とを以って、道を虞に假りて以って虢を伐たんことを請ふ。公曰く、「是れ吾が寶なり」と。對へて曰く、「若し道を虞に得ば、猶ほ外府のごとし」と。公曰く、「宮之奇焉に存す」と。對へて曰く、「宮之奇の人と爲りや、懦にして強諫すること能はず。且つ少くして君に長じ、君之に暱す。諫むと雖も、將に聽かざらんとす」と。乃ち荀息をして道を虞に假らしむ。曰く、「冀不道を爲し、顛軨より入りて、鄍の三門を伐つ。冀の既に病めるは、則ち亦た唯だ君の故なり。今虢不道を爲し、逆旅に保りて、以って敝邑の南鄙を侵す。敢へて道を假りて以って罪を虢に請はんことを請ふ」と。虞公之を許し、且つ先づ虢を伐たんことを請ふ。宮之奇諫むれども、聽かず。遂に師を起こす。夏、晉の里克・荀息師を帥ゐて虞の師に會して虢を伐ち、下陽を滅ぼす。先づ虞を書するは、賄の故なり。秋、貫に盟ふ、江・黃を服するなり。齊の寺人貂始めて師を多魚に漏らす。虢公戎を桑田に敗る。晉の卜偃曰く、「虢必ず亡びん。下陽を亡ひて懼れず、而して又功有り。是れ天之が鑒を奪ひて、其の疾を益すなり。必ず晉を易りて其の民を撫せざらん。以って五稔す可からず」と。冬、楚人鄭を伐ち、鬬章鄭の聃伯を囚ふ。

現代語訳

僖公二年の春、諸侯は楚丘に城壁を築いて衛を封じた。『春秋』がこれを記さないのは、魯が会合に遅れたからである。晋の荀息は、屈の産の名馬と垂棘の宝玉を贈って、虞に道を借り、虢を討つことを献公に願い出た。献公は言った。「あれは私の宝だ」。荀息は答えた。「もし虞から道を借りることができれば、宝は国外の蔵に預けておくようなものです」。献公は言った。「虞には宮之奇がいる」。荀息は答えた。「宮之奇という人物は気が弱く、強く諫めることができません。それに幼いころから虞君のそばで育ち、君は彼に馴れ親しんでいます。諫めたとしても、聞き入れないでしょう」。そこで荀息を遣わして虞に道を借りさせた。荀息は言った。「かつて冀の国が無道をはたらき、顛軨から入り込んで、貴国の鄍の三つの門を攻めました。冀がその後に弱ったのは、ひとえに君のお力によるものです。いま虢が無道をはたらき、旅宿に兵を置いて立てこもり、わが国の南の辺境を侵しています。どうか道をお借りして、虢に罪を問わせていただきたい」。虞公はこれを許し、しかも自分が先に虢を討とうと申し出た。宮之奇が諫めたが、聞き入れず、そのまま兵を起こした。夏、晋の里克と荀息が軍を率いて虞の軍と合流して虢を討ち、下陽を滅ぼした。『春秋』が晋より先に虞を記したのは、虞が賄賂を受けて先に立ったからである。秋、貫で盟約を結んだ。江と黄の二国を斉に服させたのである。斉の宦官の貂が、多魚で初めて軍の機密を漏らした。虢公は桑田で戎を破った。晋の卜偃は言った。「虢はきっと滅びる。下陽を失っても恐れず、しかもまた戦功を得た。これは天が虢から鏡を奪い、その病を重くしているのだ。きっと晋を侮って、民をいたわらなくなるだろう。五年ももたない」。冬、楚が鄭を攻め、鬬章が鄭の聃伯を捕らえた。

解説

「仮道伐虢」、道を借りて虢を討つという故事の前半である。晋の荀息は、名馬と宝玉を虞に贈って通行を認めさせようと提案する。惜しむ献公に、道さえ借りれば宝は外の蔵に預けたのと同じだと言う。虞を後で取り返せば宝も戻る、という含みである。荀息の人物評も鋭い。虞の賢臣宮之奇は、気が弱く強く諫められない。しかも幼なじみで君が馴れ親しんでいるから、言うことが軽く聞こえる。忠臣がいても、その言葉が届く関係でなければ役に立たないという見立てだ。虞公は賄賂に目がくらみ、自ら先鋒を買って出た。『春秋』が虞を先に書いたのはそのためである。卜偃の言葉も鋭い。虢は負けても懼れず、小さな勝ちでまた驕る。「天之が鑒を奪ふ」、自分を映す鏡を失っているというのだ。目先の贈り物で判断を誤る者と、敗北から学べない者。どちらも自分の立ち位置が見えていない。この二国の結末は、三年後に明らかになる。

この章句が説くこと

賄賂戦略諫言驕り自省

関連する章句

古典の入門書『人生の教科書』の表紙

人生の答えは、ぜんぶ古典に書いてあった。

古典の入門書『人生の教科書』(PDF)と、師導の全機能1か月がセットで700円。二十四の悩みに、論語・老子・孫子から徒然草・五輪書までが答えます。

本の中身を見る
古典の入門書『人生の教科書』(PDF)+師導1か月=700円 本を見る