導師導古典を学びたいすべての人に

春秋左氏伝 / 昭公元年 博物の君子

以露其體。茲心不爽。而昏亂百度。今無乃壹之。則生疾矣。僑又聞之。内官不及同姓。其生不殖。美先盡矣。則相生疾。君子是以惡之。故志曰。買妾不知其姓。則卜之。違此二者。古之所慎也。男女辨姓。禮之大司也。今君内實有四姬焉。其無乃是也乎。若由是二者。弗可為也已。四姬有省。猶可。無則必生疾矣。叔向曰。善哉。肸未之聞也。此皆然矣。叔向出。行人揮送之。叔向問鄭故焉。且問子皙。對曰。其與幾何。無禮而好陵人。怙富而卑其上。弗能久矣。晉侯聞子產之言曰。博物君子也。重賄之。

新字:以露其体。茲心不爽。而昏乱百度。今無乃壱之。則生疾矣。僑又聞之。内官不及同姓。其生不殖。美先尽矣。則相生疾。君子是以悪之。故志曰。買妾不知其姓。則卜之。違此二者。古之所慎也。男女弁姓。礼之大司也。今君内実有四姫焉。其無乃是也乎。若由是二者。弗可為也已。四姫有省。猶可。無則必生疾矣。叔向曰。善哉。肸未之聞也。此皆然矣。叔向出。行人揮送之。叔向問鄭故焉。且問子皙。対曰。其与幾何。無礼而好陵人。怙富而卑其上。弗能久矣。晋侯聞子産之言曰。博物君子也。重賄之。

書き下し

以って其の體を露(やつ)れしむること勿し。茲(ここ)に心爽(あき)らかならずして、百度を昏亂す。今乃ち之を壹にすること無からんや、則ち疾を生ぜん。僑又之を聞く、内官は同姓に及ばず。其の生殖せず。美先づ盡くれば、則ち相疾を生ず。君子是を以って之を惡む。故に志に曰く、『妾を買ひて其の姓を知らざれば、則ち之を卜せよ』と。此の二者に違ふは、古の慎む所なり。男女姓を辨ずるは、禮の大司なり。今君の内に實に四姬有り、其れ乃ち是れ無からんや。若し是の二者に由らば、為す可からざるのみ。四姬省くこと有らば、猶ほ可なり。無くんば則ち必ず疾を生ぜん」と。叔向曰く、「善い哉。肸未だ之を聞かざるなり。此れ皆然り」と。叔向出づ。行人揮之を送る。叔向鄭の故を問ひ、且つ子皙を問ふ。對へて曰く、「其れ幾何ぞ。禮無くして好んで人を陵ぎ、富を怙(たの)みて其の上を卑しむ。久しきこと能はじ」と。晉侯子產の言を聞きて曰く、「博物の君子なり」と。重く之に賄す。

現代語訳

(気を滞らせて)その体を衰弱させることのないようにするのです。(そうでなければ)心は晴れず、あらゆる節度が乱れてしまいます。いま君は、気を一つのことに偏らせておられるのではありませんか。そうであれば病が生じます。私はまたこうも聞いております。後宮には同姓の女性を入れない。同姓どうしでは子孫が繁らない。互いの美しさが先に尽きてしまえば、ともに病を生じる。だから君子はこれを嫌う、と。それゆえ古い記録に『妾を買って、その姓が分からないときは占え』とあります。この二つ(四時の節度と同姓を避けること)に背くのは、昔から慎まれてきたことです。男女が姓を区別するのは、礼の大切な務めです。いま君の後宮には、実に姫姓の女性が四人おられます。病の原因はまさにこれではありませんか。もしこの二つが原因なら、もはや手の施しようがありません。四人の姫姓の女性を減らせば、まだよいでしょう。そうしなければ必ず病になります」。叔向は言った。「すばらしい。私はまだそのような話を聞いたことがなかった。どれもそのとおりだ」。叔向が退出すると、鄭の行人(外交官)の揮(子羽)が見送った。叔向は鄭の国情を尋ね、さらに子皙(公孫黒)のことを尋ねた。揮は答えた。「あの人は長くはないでしょう。礼をわきまえず人を侮るのを好み、富を頼んで目上を軽んじています。長続きはしません」。晋侯は子産の言葉を聞いて言った。「物事に広く通じた君子である」。そして手厚く贈り物をした。

解説

子産の診断の結びである。前句の「君子の四時」を受け、晋侯が一日のけじめを失い、気を一つに偏らせていることを病因として挙げる。そのうえで二つ目の原因として、後宮に同姓の姫を四人も置いていることを指摘する。周の礼では同姓の婚姻を避けるのが原則で、晋も周王と同じ姫姓であった。「同姓は子孫が繁らない」という経験則は、後世の同姓不婚の根拠としてしばしば引かれる。他国の君主の私生活に、ここまで踏み込んだ直言をしたことになる。それでも晋侯はこれを「博物の君子」と称え、厚く報いた。筋の通った知識に裏付けられていたから、耳の痛い話が受け入れられたのである。後半、鄭の行人が子皙について「禮無くして好んで人を陵ぐ」と評しているのは、翌年の子皙の最期への伏線である。言いにくいことを言うとき、相手が反論しにくい根拠と、改めるための具体的な道筋を添えられるかどうかが、聞き入れられるかを左右する。

この章句が説くこと

直言節度礼同姓不婚博識

関連する章句

古典の入門書『人生の教科書』の表紙

人生の答えは、ぜんぶ古典に書いてあった。

古典の入門書『人生の教科書』(PDF)と、師導の全機能1か月がセットで700円。二十四の悩みに、論語・老子・孫子から徒然草・五輪書までが答えます。

本の中身を見る
古典の入門書『人生の教科書』(PDF)+師導1か月=700円 本を見る